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太田述正コラム#0103(2003.2.28)
<北京報告(その3)>

7 「軍事ブーム」の中国

 S氏は中台関係をかねてからフォローしており、軍事問題にも強い関心を持っています。
 その彼が、私と別行動をとった時に王府井の雑誌屋に行って軍事雑誌を買い集めてきました。
 私が数えてみると、「中国進攻武器」、「陸兵器」、「世界軍事(World Military Affairs)」、「軍事史林」、「航空世界(Aviation World Monthly)」、「特科兵迷(=特殊部隊狂)(Special Force Fans。軍事迷系列珍蔵版)」、「真正王牌(=真の王者。国防戦略増刊)」、「海陸空天」、「国際展望―先端科技報道(World Outlook-Advanced Science and Technology)」、「艦船知●(●は言偏に只)(Naval & Merchant Ships)」、「誰敢挑戦中国(=勇敢挑戦中国)」、「新軍事(Military Review)」、「中国主攻武器―中国新概念武器系統(New Concept Weapon System)」、「中国軍情」、「世界軍事博覧海戦扁」、「中国国防報」、「軍事博覧報」、「軽兵器」、と18もありました。(簡体字は日本の漢字に改めた)
 私は防衛庁勤務が長かったとは言え、日本のこの種の雑誌のことはあまりよく知りませんが、10種類は越えないと思います。
 一体どうして中国に軍事オタクがこんなに多いのかと中国側に聞いたところ、「自由化の結果、あらゆる分野の雑誌が出現してきており、軍事雑誌だけがはやっているわけではない。ただ、現在、国民の間でハイテク熱が高まっており、軍事=ハイテクイメージで軍事への関心が高まっているように思う。」と言っていました。
 私自身はこう考えています。
 中国歴代王朝は科挙を通った文人たる文官優位の世界であり、軍事、武官は軽んじられていました。(たまたま、今回私が鑑賞した京劇の二つの出し物の実質的な主人公が、どちらも文人(scholar)であったことが思い起こされます。)
 マルクス・レーニン主義は極めて軍事を重視するイデオロギーであり、マルクス・レーニン主義を奉じる中国共産党もその例外ではありません。中国共産党が政権の座についたのはまさにその軍事力によってですし、中国の最高権力者が国家主席でも共産党総書記でもなく、共産党と政府にまたがる軍事委員会の主席であることはよく知られています。このことはトウ小平の「院政」時代=軍事委員会主席時代、に我々が改めて認識させられたところです。江沢民も、まず昨年共産党総書記を退き、近々国家主席の座からも降りようとしていますが、引き続き軍事委員会主席の地位にはとどまり、最高権力者であり続けようとしていると報じられています。
 このような共産党による支配が半世紀以上にわたって続いているのですから、一般の中国人の間で伝統的な価値観の転倒が起こり、今や軍事は高い関心を抱くべき事柄になったのではないでしょうか。

8 日中関係のあり方

 今回の訪問中、日中問題はほとんど話題にならなかったと書きましたが、私の方からは以下のような指摘をしておきました。
 「日本人から漢籍の素養が失われて久しい。学校で漢文教育も殆ど行われなくなった。だから日本人は昔の中国人のものの考え方や中国の歴史を知らない。(また、履修時間が十分与えられてないため、学校教育の過程で日本人が明治維新以降の日本の歴史、就中日中関係史に触れる機会がほとんどないという問題もある。)
他方、中国人の方も、中国共産党が過去の中国に対し否定的な見方をしているため、日本人ほどではないが、やはり昔の中国人のものの考え方や中国の歴史を余り知らないのではないか。多分、中国が過去において日本に多大な影響を与えたとは教わっても、各時代において日本に具体的にいかなる影響を与えたかまでは教えられていないのではないか。(逆の話だが、明治維新後の日本が中国に与えた影響についても教えられていないはずだ。)
 宋の時代で言えば、岳飛、文天祥の生き様が後世の日本人に大きな影響を与えたこと(コラム#98参照)などは日本人も中国人も忘れている。
 にもかかわらず、(毛沢東主義のイデオロギー的魅力がうすれたこともあり、)このところ日中では経済関係ばかりが突出して深まっている。
 これは、大変いびつで不健全な関係であると言わざるをえない。
 中国側にお願いしたいことは、近視眼的に靖国問題等ばかりをとりあげず、もっと日中関係史全体について、相互理解を深める努力をしていただきたいということだ。」
と。

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