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太田述正コラム#0143(2003.8.23)
<日本の核政策はどうあるべきか(その1)>

 (前回のコラム#142でもとんだケアレスミスをしてしまいました。「東北(満州)地方以北、アムール河以南の地」は「アムール・ウスリー河以北の地」の誤りです。私のホームページ(http://www.ohtan.net)の時事コラム欄でご確認ください。)

始めに代えて・・コラム#142の補足

8月22日付の読売新聞朝刊に「日本国内には、北朝鮮が求める不可侵条約を結ぶことに対しても反対意見が根強い。防衛大学校の西原正校長は14日付の米紙ワシントン・ポストで、「米朝不可侵条約は日米安保条約と衝突する」と指摘した。ただ、外務省は核抑止力を損なうことがなければ、日米安保体制に影響することはないとの立場だ。」という記事が出ていました(http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20030822i201.htm。8月22日アクセス)。
これは外務省ならずとも、コラム#142で私が述べたとおり、あたりまえのことです。

1 非核三原則の欺瞞性

それよりももっと重要な話がこの記事の中に出てきます。
「日本政府は、米国のクリントン前政権が1994年に結んだ米朝枠組み合意について、北朝鮮の非核化が実現した場合の措置として、「米国は、米国による核兵器の威嚇もしくは使用はしないとの公式の保証を北朝鮮に対して与える」との条項が入っていることをかねて問題視して<おり、>・・・北朝鮮の核開発問題に関する北京での6か国協議で焦点となる北朝鮮への安全の保証をめぐって・・・今月13、14両日にワシントンで行われた日本、米国、韓国の3か国局長級協議で、藪中三十二外務省アジア大洋州局長<は、>ケリー米国務次官補(アジア・太平洋担当)に対し・・・<米国が北朝鮮に対し、>核兵器の不使用を確約しないよう・・・要請した。」という箇所です。
この報道が正しいとすれば、遅きに失する感なきにしもあらずですが、北朝鮮に対する国民世論の変化もあってか、外務省においても、これまでような愚民的超然主義を改め、核にかかわるホンネの外交交渉の内容をプレスにリークする気になったのかもしれません。もしそうだとすれば、一般日本国民の一人として慶賀に耐えません。

ところで、そもそも日本の核政策はどうあるべきなのでしょうか。
この記事の解説も兼ね、ごく基礎的な話から始めることにしましょう。

自らは核兵器を保有せず米国の核抑止力に依存する、というのがこれまでの日本の核政策であることはご存じの通りです。
この核政策は、米国の抑止力に依存する日本の安全保障政策の重要な柱であり、日本が第三国から武力攻撃を受けた場合や武力攻撃を受けるおそれがある場合、米国が核兵器を含む武力の行使や武力による威嚇を行うことによって、この第三国による日本に対する武力攻撃を阻止したり思いとどまらせたりする、というものです。
ですから、米国が北朝鮮等に対し、核の先制使用を行わないと確約することは、米国の抑止力の信頼性を低下させ、北朝鮮等が生物化学兵器による攻撃を含む対日武力攻撃を行う敷居を低くしてしまうので、避けるべきなのです。
上記の藪中局長の対米要請・・恐らく事実であると思います・・は、日本の核政策が、非核三原則なるきれいごとを唱えつつも、自らの手は汚さずに米国に核兵器を使わせ、使用に伴って生起する人道的問題等の責任は挙げて米国に負わせるという、非情かつ利己的な政策であることを雄弁に物語っていると言えるでしょう。

この「非核三原則」と「自らの手は汚さずに」という二点については補足が必要です。
まず「非核三原則」(核を持たず作らず持ち込ませず)ですが、これが平時にあっても、核装備をした米国等の艦艇の日本寄港や日本の領海の通航を禁じるものではない、ということはもはや周知の事実であると言ってもいいでしょう。
これが有事ともなれば、日本防衛のために米国が核兵器を使用することを躊躇するようなことがあっては困るわけで、日本政府として、米国が日本の領域内に核を持ち込むことに異を唱えるはずがありません。
そうだとすれば、「非核三原則」というのは明白なウソであって、せいぜい「持ち込ませず」抜きの「非核二原則」でしかないということになります。
次に「自らの手は汚さずに」ですが、米国の核戦略にコミットしてきたという意味では、日本の「手は汚れて」いるという認識を持つべきです。
冷戦時代の後半、日本の海上自衛隊が、オホーツク海等において、ソ連の第二撃戦略核戦力である戦略核ミサイル搭載原子力潜水艦を撃沈することをその主たる任務の一つにしていた(コラム#58や#30参照)こと一つとってもそうです。
最近で言えば、日本のミサイル防衛システムの整備が米国の核戦略と密接な関わりを持っています。
防衛庁は2004年度から、飛んで来る弾道ミサイルを大気圏外でイージス艦から発射するSM3で迎撃し、失敗した場合は着弾直前に地対空迎撃ミサイル「パトリオットPAC3」で撃ち落とす、二段構え方式のミサイル防衛システムを整備する予定です(http://www.mainichi.co.jp/news/flash/seiji/20030822k0000m010146000c.html。8月22日アクセス)。そして現在、SM3を更に高度化した「海上配備型ミッドコース防衛システム(SMD)」を日米で共同研究中です(http://www.mainichi.co.jp/news/flash/seiji/20030822k0000m010144002c.html。8月22日アクセス)。
ミサイル防衛システムの整備が進めば、弾道ミサイルが北朝鮮のものであろうが中国のもであろうが、そしてそれが通常弾頭であれ、生物化学兵器搭載弾頭であれ、或いは核弾頭であれ、日本に対する脅威は減殺されることになります。また、在日米軍基地の安全性も高まることになり、日本から見た米国の抑止力の信頼性が高まることになります。
しかしこのことは同時に、核バランス上米国が更に優位に立つこと・・・第三国が日本を核攻撃するのは困難だが、米国はその第三国を確実に核攻撃できる・・・ことを意味するのであって、日本のミサイル防衛システムの整備は米国の核戦略に資することになるのです。
なお、SMDの日米共同研究は、より直截的に米国の核戦略に資するものであることは申し上げるまでもありません。
(続く)

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