太田述正コラム#0180(2003.11.1)
<アラディン通信:イラクと日本の関係(その4)>

アラディン・タイムール氏によるコラムの四回目です。
                              太田述正
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FROM JAPAN with LOVE(日本より愛を込めて)
  By Aladdin Timur
イラクと日本の関係(その4)

―MIG25戦闘機と護衛艦利根―

 私は、MIG25に乗ったソ連のベレンコ大尉が低高度を維持して日本の防衛レーダーを避けて飛行し、日本に着陸したニュースを鮮明に記憶しています。
 その後、MIG25は完全に分解され検査されました。そのMIGの「素朴」な構造は関係者を驚かせました。トランジスタより真空管を使っているところは時代遅れと言わざるを得ませんでしたが、性能の高さは最新鋭の欧米の戦闘機と並ぶ優れものでした。
 ソ連は軍事については真剣だったのです。

 それに比べて日本はどうか。
 私は1994年10月に相模湾沖で催された海上自衛隊の観艦式に招かれて護衛艦「とね」(利根。第 39護衛隊所属) に乗艦しました。N艦長の丁寧な案内と説明を受けた後、私は彼に率直な疑問を投げかけました。「この護衛艦はいくらするのですか」と。確か数百億円との答えでした。「この装備で一対一であれば、私だったら4??5百万円の予算で数百億円する利根を沈められますよ」。その場にいた防衛庁関係者の皆さんの目が一瞬、光った感じがしました。「今、MIG21や23の中古は2??3百万円で手に入ります。(現に北朝鮮も買っています。)「とね」の対空火砲が届かない地点でロックオン(=レーダーで目標に合わせること)して対艦ミサイルを発射すれば、「とね」は何もできないままに「お仕舞い」ですね」。しかし、N艦長は「護衛艦単独で行動を取ることはありませんから」とがんばります。「戦闘では何が起きるか予想はつきません。一対一になったらお仕舞い、とはなさけない、せめて「とね」の後部の中央部に対空ミサイルを搭載しましょうよ」、と私は主張しました。そうしたら数カ月後、搭載することになりましたというお知らせがありました。(「とね」はあぶくま型DEだが、この艦種にはもともと対空ミサイル搭載スペースが確保されていたものの、予算不足によるスペックダウンのため、対空ミサイルを搭載できていなかった。)私はN艦長にエールを送りました。
 
 もう一つ。
 1991年に私は、湾岸戦争の多国籍軍に参加した昔の仲間から、「日本の海上自衛隊が(戦争終了後)ペルシャ湾に派遣された際、事前の情報交換と調整が不足していたため、合同作業に入れにくくて、むしろ邪魔な時の方が多かった」、と率直な意見を聞かされました。上記観艦式当日、日本の各地から海上自衛隊の司令官達が集まっていたのでこの話をご披露したところ、F司令官からびっくりするような回答が返ってきました。「そのとおり。派遣前の情報活動や現地の日本の駐在武官との打ち合わせ等の準備をほとんどやらずに派遣した」、というのです。彼のあっけらかんとした表情に二度びっくりしたものです。

―自衛隊のイラク派遣―

 湾岸戦争後、140億ドルも拠出して掃海活動に海上自衛隊も派遣しながら、日本は"Too little Too late " と言われてしまいましたが、きたるべき自衛隊のイラク派遣でその轍を踏まないためにはどうしたらいいのでしょうか。
 小泉総理は2003年10月25日の観艦式で、「安全に配慮しつつ、準備に万全を期す」とイラクへの派遣に向けて海上自衛隊に訓示しました。
 この訓示をとりあげ、「自衛隊員を油のために死地に送るのか」とテレビ朝日の「サンデ??プロジェクト」という番組で田原総一郎氏が鋭い切り口で番組に参加していた政治家達に迫りましたが、これという回答は返ってきませんでした。
 そこで、田原氏の疑問に私が責任を持ってここでお答えすることにしましょう。「自衛隊員を油のために死地に送るのか」。
 答えはノーです。

その1:「油のため」について

 1973年石油危機の後、日本のF総理(故人)がアラブの産油国を訪ね、アラブ諸国の工業化と発展、及び中東の安定を脅かすパレスチナ問題の解決に積極的に貢献する旨を伝えることで、日本はアラブの産油国に友好国として認めてもらうことができました。そして産油国が日本に輸出する石油を国際標準価格より下げてその差額を資金にして日本がアラブ産油国の工業化と発展
に必要なプロジェクトを立ち上げるという約束ができたのです。その世話役に任命されたのがかく申す私です。
 その約束をアラブ諸国は今日現在に至っても固く守ってくれているというのに、この油はまだ一滴も日本に流れていません。これは「道路」公団ならぬ「石油」公団ファミリーが設けている目に見えない障壁が原因だ、と私は考えています。ですから、油のために自衛隊にわざわざ中東までご足労いただく必要はないのです。ご用命があれば、私めが、いつ何時でもふんだんに油をご提供できる手はずになっているからです。ただそうすると、流行語を拝借すれば、石油公団ファミリーに「死人」ならぬ「怪我人」が出るのかも。

その2:「死地に送るのか」について 

 結果として血が流れるかもしれませんが、いずれにせよ日本が自衛隊を送り、汗をかくからには、イラクの住民に喜んでもらう必要があります。そのためにも十分準備をする必要がありますが、十分準備するためには、まず正しい意識を持つ必要があります。
 自衛隊はイラクの復興、人道支援に行くのであって占領軍の後方支援が目的ではないし、武力行使を放棄しているユニークな国だからと占領軍の後ろに隠れることも許されない、という意識です。
 その上で、広報キャンペーンの実施と、東アジア諸国、中東諸国、NATO諸国と調整するための専門委員会を設置すべきです。その委員の人選は重要です。道路公団民営化委員の猪瀬さんのような人、というと反発する人もいるかもしれませんが、日本国内の複雑な事情にも詳しく、客観的なアプローチがとれる人が必要です。11月14日のラムズフェルト米国防長官来日までに骨
子をまとめることが望まれます。米国政府首脳の他の誰よりも長官はアメリカがとったイラクでの政策が間違っていることに気付いています。本人が側近に廻したメモが公開されたところですが、そこには、「今のイラク政策の失敗を何とか修正したい」とあります。
 今、手助けできる国はある意味で日本だけです。
 私もいつでもご協力する心の準備はできています。

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