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太田述正コラム#0188(2003.11.12)
<台湾は「独立」できるか?(続)>

3 米国の台湾政策の変化

 (1)軍事面でのテコ入れ

 中国が繰り返し、「独立」宣言をしたら武力攻撃するぞと台湾を恫喝してきている(ワシントンポスト前掲)ことはご承知の方が多いと思います。
 中国は、人民解放軍陸軍のスリム化、陸海空軍の統合運用の強化、C4ISR(注4)システムの改善、露・英・仏・独・伊からの技術導入(軍事転用可能な民生技術を含む)や武器購入による近代化、を着々と進めており、台湾海峡対岸にミサイルを数百基配備する等台湾向けの軍備強化にも努めています。

 (注4)C4ISR=command, control, communication, computers, intelligence, surveillance and reconnaissance=指揮・統制・通信・電子計算機・監視・偵察(The Military Balance 2003-2004, IISS 末尾)。中国の有人宇宙飛行を始めとする宇宙開発は人民解放軍の手で行われており、その目的はC4ISRシステムの近代化にある。

 しかし、台湾側の対応はにぶく、台湾軍は兵員数ばかり多く、しかも将校過多の頭でっかちの編成です。また、大陸反攻の旗は降ろしたとは言っても、依然としてもっぱら着上陸侵攻対処のための態勢がとられており、そのため陸軍偏重となっており、陸海空三軍はいまだに統合運用されていません。そもそも、台湾軍は一見近代的な装備をこれ見よがしに並べているだけで、装備を実際に使って戦闘をすることを考えているとは思えないし、そのC4ISRシステムは貧弱この上もないし、軍事施設の抗たん性も殆ど顧慮されておらず、ミサイルや爆撃による攻撃にあったらひとたまりもない、といった酷評すら受けています。(どこかの国の「自衛隊」を思い出しますね。)(注5)
 (以上、http://russia.jamestown.org/pubs/view/cwe_001_001_003.htm(11月12日アクセス)並びにhttp://www.taipeitimes.com/News/edit/archives/2003/10/18/2003072410(10月18日アクセス)及びhttp://www.washingtonpost.com/wp-dyn/articles/A38079-2003Oct29.html(10月30日アクセス)による。)

 (注5)台湾は日本と同じく島国であって戦略環境も極めて似通っているが、他方で面積及び人口(2003年推計)はそれぞれ日本の9.5%強、17.8%弱に過ぎない。その台湾の2002年のGNPは日本(但し、GDP)の7.4%弱でしかないところ、防衛費は79億ドルと日本の395億ドルの20%にも達しており、その限りでは台湾は決して防衛努力を怠っているとは言えないが、台湾軍は、現有総兵力29万人(日本は24万人弱)、うち陸20万人(日本の自衛隊は14万8千人強)、海4万5千人(日本は4万4千人強)、空4万5千人(日本は4万6千人弱)と、英国軍と比べて水ぶくれでいびつな日本の自衛隊と比べても、あるかに水ぶくれでいびつな姿をしている。
 (http://www.cia.gov/cia/publications/factbook/geos/tw.html及びhttp://www.cia.gov/cia/publications/factbook/geos/ja.html(11月12日アクセス)、ならびにミリタリー・バランス前掲PP158-159,170-171,299,301。なお、英国軍と自衛隊の比較は拙著「防衛庁再生宣言」日本評論社2001年参照。)

 事実上の駐台湾米国大使たるシャヒーン女史は、先月、台北のある大学での講演で、中国の台湾向け軍備増強に注意を喚起した上で、「皆さんは二年前に米国が<提供すると>約束した潜水艦などに依存すべきではなく、対潜水艦戦、早期警戒レーダーや指揮システム、といった、より短期的に利得をもたらすものに焦点を切り替えるべきです」と述べ、中国に気を遣って従来は密かに行われてきた米国の台湾への安全保障に係る要請を公然と行い、話題を呼びました(http://news.ft.com/servlet/ContentServer?pagename=FT.com/StoryFT/FullStory&c=StoryFT&cid=1059480691863&p=1045050946495#Static(10月17日アクセス)。
 米国の民間でもこれに呼応する動きが出ており、国防総省の元高官によって、米軍と台湾軍の指揮調整所の設置や共同作戦計画の策定が提唱されています(http://www.taipeitimes.com/News/front/archives/2003/10/19/2003072482。10月19日アクセス)。
これは米国のブッシュ政権が、軍事面での台湾テコ入れに公然と乗り出したことを意味します。
1979年の米中国交樹立と同時に米議会によって制定された台湾関係法(注6)の下、米国は台湾の要請に基づく防御兵器の提供以外、軍事面での台湾との交流や連携を意識的に避けてきました。例えば、米軍人の台湾訪問を禁止してきました。
(注6)台湾関係法の中に、「平和手段以外によって台湾の将来を決定しようとする試みは、ボイコット、封鎖を含むいかなるものであれ、西太平洋地域の平和と安全に対する脅威であり、合衆国の重大関心事と考える」、「防御的な性格の兵器を台湾に供給する」、「台湾人民の安全または社会、経済の制度に危害を与えるいかなる武力行使または他の強制的な方式にも対抗しうる合衆国の能力を維持する」 という条項がある(http://www.panda.hello-net.info/data/taiwankankei.htm。11月12日アクセス)。
この米国の姿勢が転換する契機となったのが、1996年に中国が李登輝の台湾総統就任を牽制するために行った台湾周辺海域へのミサイルの発射「演習」です。この後、当時の米クリントン政権は密かに軍事面での台湾へのテコ入れを開始したと言われています。
ブッシュ政権は、これを公然化したことになります。
ブッシュ政権は2001年、台湾のかねてからの要請にこたえ、防御兵器かどうか微妙な(在来型)潜水艦8??10隻(及び護衛艦、対潜哨戒機)の提供を約束(注7)するとともに、昨年、在台湾の事実上の米大使館への駐在武官の派遣を可能にする法的措置を講じましたが、これらの延長線上に今度のシャヒーン発言があります。

(注7)米国は現在原子力潜水艦しか製造しておらず、欧州の国から在来型潜水艦製造のライセンス供与を受けて米国で在来型潜水艦を製造した上で台湾に提供するという遠大な計画だったが、中国による経済制裁を気にする独や蘭に袖にされ、英や伊にもその気はなく、話は進んでいない(前掲Jamestown Foundation のサイト及びhttp://www.fas.org/news/taiwan/2001/taiwan-010424.htm(11月12日アクセス))。台湾は露にもアプローチをしていると伝えられている(http://www.janes.com/press/pc010620_3.shtml。11月12日アクセス)。
   ちなみに、中国は原子力を含む潜水艦69隻を擁するのに対し、台湾は在来型潜水艦を4隻(うち2隻は1940年代半ばの米国製で博物館級、他の2隻は1987、88年の蘭製)しか保有していない(ミリタリー・バランス前掲PP153,171及びジェーン前掲)。

米国によるテコ入れ公然化の背景としては、中国側の軍事力強化がどんどん進む一方で、台湾の方は一向に危機意識が高まらず、依然として防衛力整備の手を抜いていることに対する米国の苛立ちがあると思われます。
(以上、全般的には前掲10月18日付け台北タイムスによる。)

(続く)

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