太田述正コラム#0189(2003.11.20)
<イラク情勢と自衛隊の派遣問題(その1)>

1 イラク情勢

 (1)米軍の「苦戦」

 イラク戦争開戦以来のイラク攻撃・進駐軍の死者の数は、米軍だけで420人にのぼっていますが、うち5月1日の主要な戦闘終結宣言以降のゲリラ攻撃等による死者は281人です。戦闘終結宣言以降、このほか英軍はもとより、伊軍、ポーランド軍、スペイン軍、デンマーク軍から死者が出ています(デンマークは友軍の誤射によるもの。伊軍とポーランド軍は第二次世界大戦以来の死者)(http://www.guardian.co.uk/elsewhere/journalist/story/0,7792,1085526,00.html(11月15日アクセス)、http://edition.cnn.com/2003/WORLD/meast/11/17/sprj.irq.main/index.html (11月17日アクセス)、及びhttp://observer.guardian.co.uk/iraq/story/0,12239,1086421,00.html(11月16日アクセス))。
 メディアはこれでもか、これでもかというように米軍の「苦戦」ぶりを報道しています。
 
(ちなみに、イラク戦開戦以来のイラク側の軍民の死者の数ははっきりしませんが、民間人だけで数千人と言われています。主要な戦闘終結宣言以降も、イラク人同士の争いのため、或いは米軍等へのゲリラ攻撃の巻き添えとなり、もしくは米軍等によるゲリラ等掃蕩作戦の巻き添えとなって、多数のイラク民間人が死亡しています。
 イラク戦以来のイラクがまことに痛ましい状況であることは確かです。しかし、フセイン政権下で(戦争以外で)虐殺されたイラク人の数は30万人をくだらないという推計があります(英外務省の報告書(http://www.worldtimes.co.jp/w/eu/news/030920-010623.html(11月16日アクセス))。我々は、必ずしも大きなニュースにならない、より痛ましい状況に世界は満ちていることは忘れてはならないでしょう。)

 最近米CIAは、ゲリラ活動が次第に活発化してきており、地域的にもバグダットを含むスンニ三角地帯から、イラク北部及び南部に拡大しつつあると警鐘を鳴らしました(CNN上掲)。
 ア フセイン政権が、米軍等による占領の後、ゲリラ活動を行うことをあらかじめ計画していたことがはっきりしたこと(http://news.msn.co.jp/newsarticle.armx?id=627827(毎日)。11月17日アクセス)・・もっとも、米軍等の侵攻スピードはフセイン政権にとっては予想外の速さであったと思われ、当初ゲリラ活動が低調だったのは、占領後の態勢再構築に時間がかかったためと見るべきでしょう・・、

イ イラクにおけるゲリラ活動にアルカーイダ特有の自爆テロが含まれていること、
ウ フセイン政権がイラク戦前からアルカーイダと頻繁に接触していたこと
http://news.msn.co.jp/newsarticle.armx?id=627571 (AFP-時事)。11月17日アクセス)、

の三点を合わせ考えれば、イラクでのゲリラ戦は、最近のサウディやトルコでの自爆テロ(http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-terror19nov19,1,7889942.story?coll=la-home-headlines。11月19日アクセス)やアフガニスタンでの攻勢(後述)とともに、アルカーイダ系テロ組織の大作戦の一環という性格も持つ、ということが次第に明らかになってきたと言えるでしょう。
つまり、大量破壊兵器こそ見つかっていませんが、米国がイラク戦にあたって掲げたもう一つの大義名分・・対テロ戦の観点からフセイン政権とアルカーイダとの連携の可能性を粉砕する・・はどうやら正当なものだったらしい、ということが次第にはっきりしてきたということです。

米軍「苦戦」の原因は、イラク戦に投入された米軍が戦後について準備不足であったことと、米国が占領開始後一つの大きな失策をしでかしたこと、そして一つはこの失策とも関係しますが、イラクにおいて米国が二つの大きな問題を抱えているためです。
 米軍が戦後について準備不足であったとは、米軍が戦後の治安維持・民生支援(SASO=stability and support)計画を練っていなかったことです。イラク戦に投入された米英軍等は、侵攻兵力としては十分な規模でしたが、イラク占領後の治安維持・民生支援のためには兵力不足であり、とりわけ治安維持・民生支援に不可欠な(不発弾を含む)爆発物処理能力や施設応急復旧能力が決定的に不足していました。また、占領後の交戦規則すら決めていなかったといいます、(http://www.atimes.com/atimes/Middle_East/EK20Ak03.html。11月20日アクセス)。

米国の一つの大失策とは、イラク占領行政の責任者が5月に元軍人のガーナー氏から外交官のブレマー氏に代わった直後に、それまでの予定を変更して旧イラク軍を解体し、30万??40万人にのぼる旧軍人への給与の支払いも止めて彼らを路頭に迷わせたことです。この決定は5週間後に取り消されますが、ために米国は旧イラク軍人やその家族の信頼をうしなったばかりでなく、この間の遅れが響いて、今頃は数個師団規模になっていたはずの新イラク軍は、まだ一個大隊規模にしかなっていません(http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/articles/A63423-2003Nov19.html。11月20日アクセス)。

米国がイラクにおいて抱える二つの問題点とは、(新イラク軍の編成が遅れていることと諸外国が追加・新規兵力派遣を躊躇しているため、)依然治安要員が不足していること、そして諜報能力が弱体であることです。

ゲリラの勢力は3000人からせいぜい5000人程度(ワシントンポスト上掲)だと米国は主張していますが、(その規模いかんにかかわらず、)ゲリラ勢力を速やかに制圧するには、コソボ等の例に照らし、住民の2%の治安要員が必要なので、イラクでは計算上45万人以上の治安要員が必要(http://www.nytimes.com/2003/11/21/international/middleeast/21CND-GORD.html。11月22日アクセス))だといいます。ところが、米軍等の16万人弱(しかもそのすべてが治安要員というわけではない)にイラク人治安要員の13万1千人(上記新イラク軍を含む。引き続き急速養成中。ただし、質に問題あり)(http://www.csmonitor.com/2003/1113/p01s03-woiq.html。11月13日アクセス)を加えても、所要の三分のニにしか達していません。だから米国は諸外国に部隊の派遣ないし追加派遣を呼びかけているのですが、派遣部隊がゲリラ攻撃にさらされることを心配し、米国の呼びかけに積極的に応じる国は殆どないという状況です。

また、米国の諜報能力の弱体ぶりには甚だしいものがあります。
米国の諜報機関がフセイン政権による大量破壊兵器保有を信じて疑わなかったという情報収集・分析能力の低さから始まり、軍や諜報機関におけるアラビア語能力を身につけた人材の層の薄さ、フセインを捕縛・殺害できないことに象徴される、敵側に潜入しての情報収集能力の低さ、逆に先般のウォルフォビッツ国防副長官バクダット訪問時の滞在先ホテルへのゲリラ攻撃に象徴される、敵側によって潜入されているとしか思えない対諜報能力の低さ(http://www.atimes.com/atimes/Middle_East/EK11Ak01.html。11月10日アクセス)、ときりがありません。

以上のような体たらくでは、米軍等が「苦戦」するのも当然です。

 だからといって、ゲリラ側が勝利をおさめる可能性があるかと言えば、絶対ありえないと断言していいでしょう。 
イラクにおいては、ゲリラ戦が長期にわたって続けられる条件はないと以前述べたことがあります(コラム#76)が、決定的なのは、ゲリラ側がイラク国民のごく一部からしか支持を受けていないこと(注1)と、周辺国から物資や人員の補給・支援を受けられないことです(注2)。イラクのゲリラは資金、武器とも豊富な状態で「戦闘」を開始しましたが、早くも武器の欠乏をきたし始めていると報じられています(http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/articles/A38237-2003Nov13.html。11月15日アクセス)。

(注1)ゲリラはフセインの一族、及びフセインの郷里たるティクリットの地域閥に支えられているほかは、(少数派であるにもかかわらずこれまでイラクを支配してきた)スンニ派中の旧バース党員の一部のシンパシーを得ているにすぎないと考えられる。その証拠に、ゲリラ活動の大半はバグダットを含むいわゆるスンニ三角地帯で行われてきている(http://www.csmonitor.com/2003/1120/p06s01-woiq.html。11月20日アクセス)。
クルド族はもとよりだが、多数派のシーア派も一般国民は基本的に反フセイン。(かつて米軍兵士を襲撃したこともある反米志向のシーア派過激派を率いるサドル師も、来年の暫定政府(後述)への主権移譲が決まった今、米軍に協力する姿勢を見せている(http://www.csmonitor.com/2003/1119/p01s04-woiq.html。11月19日アクセス)。)
(注2)イラクの国境線は、米軍等によるパトロールが強化されている上、米軍によって無人監視装置が張り巡らされており、今やイラクに周辺国から侵入することはほとんど不可能になっている(http://www.nytimes.com/2003/11/19/international/middleeast/19IRAQ.html。11月19日アクセス)。

しかも、「苦戦」にもかかわらず、フセインがイラク戦を見越して昨年受刑者を全員恩赦で野に放ったためにイラク戦後一時猖獗を極めていた犯罪は沈静化し(典拠失念)、ゲリラ戦を含めた全般的な治安状況は着実に改善されてきており(http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/3282119.stm。11月19日アクセス)、治安任務のイラク要員への移譲も着実に進展を見ています(http://www.guardian.co.uk/Iraq/Story/0,2763,1088180,00.html。11月19日アクセス)。パイプライン等への攻撃があい次いだために、遅れに遅れているとはいえ、石油生産水準もイラク戦開戦前の8割の水準まで回復するに至っています(http://news.bbc.co.uk/2/hi/business/3279793.stm。11月19日アクセス)。

そこで結論です。
フセインがいつ捕縛ないし殺害されるかにもよりますが、ゲリラ勢力が制圧されるまでにそれほど長い時間はかからないでしょう。もっとも、だからと言ってアルカーイダ系のテロ組織による自爆テロを根絶するところまではいかないでしょうが・・。

(続く)

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