太田述正コラム#0198(2003.11.29)
<イサムバート・キングダム・ブルネル>

 (コラム#195、198の「てにをは」を直してあります。ホームページ(http://www.ohtan.net)の時事コラム欄でご確認ください。また、ホームページの掲示板の#302??#305の一読者と私のやりとりもぜひご覧ください。)

 ドイツのテレビ局が主催した、ドイツの歴史上最も偉大なドイツ人についての300万人以上による投票の結果が公表されました。一位は戦後西ドイツの首相を14年間にわたって務めたコンラッド・アデナウアー、二位はマルティン・ルター、三位はカール・マルクスです(http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/3248516.stm。11月29日アクセス)。

 これは、昨年英国のBBCが行った、英国の歴史上最も偉大な英国人についての100万人以上による投票にならって行われたものです。
英国では、一位にウィンストン・チャーチル(27.9%)、二位にイサムバート・キングダム・ブルネル(24.1%)、三位にダイアナ妃(14.2%)、四位にウィリアム・シェークスピアとチャールス・ダーウィン(どちらも6.9%)が選ばれましたhttp://www.bbc.co.uk/history/programmes/greatbritons/final_topten.shtml、2002年11月23日アクセス)。当時、読売や朝日でも報道された(http://www.yomiuri.co.jp/05/20021125idz1.htm(2002年11月26日アクセス)及び朝日新聞2002.11.3朝刊)ので、ご記憶の方もいらっしゃるかもしれません。
 ドイツの方は、お堅い人ばかりが十位まで並んだのに対し、英国の方は、三位にダイアナ妃が入ったり、九位にジョン・レノンが入ったり、遊び心が感じられる投票結果であったことも面白いのですが、総投票数の四分の一近くを占め、チャーチルと一位を競い合ったブルネルって誰だかご存知でしょうか。

イサムバート・キングダム・ブルネル(Isambard Kingdom Brunel。1806-1859)は19世紀のフランス系英国人であり、エンジニアとして活躍した人物です。
彼は当時の世界最長のつり橋、世界最初の広軌鉄道、世界最大の船、世界で初めて大西洋横断定期航路に就航した蒸気船、世界で初めて大西洋を横断したスクリュー推進船等を手がけました。
(以上、http://www.bbc.co.uk/history/society_culture/industrialisation/brunel_isambard_01.shtml及びhttp://www.bbc.co.uk/history/historic_figures/brunel_kingdom_isambard.shtml(どちらも2002年10月28日アクセス)による。)
先ほどの投票で十位以内に入ったチャールズ・ダーウィン(進化論の創始者)やアイザック・ニュートン(近代科学の祖)のような科学者や、十位以内にも入らなかったジェームス・ワット(蒸気機関の発明者で、いわば産業革命の祖)のような発明家・・彼らは世界史を書き換えた世界の超有名人です・・をおさえて、ブルネルのような地味なエンジニアが堂々(一位に肉薄した)二位を占めたところに、イギリス文明の何たるかを理解する手がかりがあります。

 ブルネルが英国人の誇りであるゆえんは、彼が、16歳までしか学校教育を受けていない叩き上げの人間であって、(おおむね高等教育を受けた者ばかりであるところの)英国の科学者や発明家を支えた英国の職人的伝統(コラム#46)を体現する人物であるとともに、エンジニアという、閃きが不可欠であるけれども、それと同時に投資家や事業家を惹きつけ、製造・建設に従事する労働者達の志気を高め、なおかつ安全の確保等の観点から細部へのこだわりも持っていなければいけないという困難な職業を、完璧なまでにこなしたバランス感覚に優れたタフな人物だったからです(上掲の最初のBBCサイトを参考にした)。
 英国人には遊び心もあるけれど、シブーい鑑識眼も持っているのですね。
 もう一つ英国人に感心したのは、ブルネルがフランス人二世で、14??16歳の間、フランスで学校教育を受けたこと等、「純粋な」英国人でないことなど、全く意に介していないことです。

 (ちなみに今月、英国の保守党の新党首に、ルーマニア出身の父親とロシア出身の母親の間に生まれた二世たるユダヤ人であるマイケル・ハワードが選ばれましたが、もし彼が首相になれば、英国最初のユダヤ人首相ということになります。(ディズレーリが英国最初のユダヤ人首相とされていますが、彼は子供のときにユダヤ教から英国教に改宗しているので、厳密に言えばユダヤ人とは言えません。)(http://www.nytimes.com/2003/11/09/international/europe/09BRIT.html。11月9日アクセス))

 こんなところにも、英国人の心の広さが現れていますね。

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