太田述正コラム#0238(2004.1.24)
<防衛庁の報道規制問題>

 このところ、しきりに防衛庁の報道規制問題が報じられています。

1 イラク方面派遣自衛隊に係る取材規制・・派遣部隊、隊員、更にはプレスの生命・安全確保の観点から福田官房長官が指示したとされている。制服自衛官サイド及びプレスはこれに反対している。(http://www.asahi.com/politics/update/0109/005.html。1月9日アクセス)
2 陸海空幕僚長の定例記者会見の廃止・・情報漏れ、情報のゆがみの防止のために福田官房長官が指示したとされている。内局は定例会見の数が多すぎることを理由にあげている。制服自衛官サイド及びプレスはこれに反対している。(http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20040115AT1E1400H14012004.html(1月15日アクセス)及びhttp://www.tokyo-np.co.jp/00/kakushin/20040124/mng_____kakushin000.shtml(1月24日アクセス))

 まず興味深いことは、制服サイドとプレスが、同じ側に立って政府自民党や内局に抵抗していることです。
 調達実施本部事件(NEC事件。1998年)で内局が悪者とされたというレア・ケースを除き、これまでは一貫して政府・与党、防衛庁内局、及びプレスがよってたかって各幕(制服自衛官)を悪者にして叩いてきた(例えば、コラム#51参照。このよってきたる原因は、いずれ別稿で論じたいと思います)のであって、プレスが制服サイドに立ったのは、今回が自衛隊史上初めてではないかという気がします。
 もっともこれは、ことが報道の自由に関わる問題であるところからくる例外的な現象であって、上記の制服叩きの基本的な構図が崩れた、ということを意味するわけではありません。

 さて、今回の報道規制問題では、どちらの側の言い分が正しいのでしょうか。
 (プレスの言っていることは、この際、無視します。)
 まず1については、フツーの一市民としての常識からして制服サイドの方が正しそうです。
 というのは、「派遣部隊、隊員」の生命・安全確保を一番真剣に考えざるをえない立場の制服サイド・・しかも、何か起こったときに、第一義的に責任を負わせられる立場でもある・・が取材を受けてもよい、受けるべきだと主張している以上、官房長官が部隊や隊員の生命・安全の確保に言及して取材規制を指示するのは余計なお節介というべきです。
官房長官は、本当のところは2と同じく、制服サイドからの情報漏れを防ぎたいということなのでしょう。

 そこで肝心の2ですが、今度は私の防衛庁職員OBとしての常識に照らして、制服サイドの言い分の方が正しいと断言できます。
 日本には2001年まで秘密保全法制がなかったと以前に書きました(コラム#62)が、こんなトンデモない国で育った政治家には安全保障マターに係る秘密保全意識が全くありませんし、(内局官僚を含む)官僚もそれよりちょっぴりマシな程度です。
私が防衛庁に勤務していた時の経験では、(米国がらみの軍事機密を除き、)マル秘の話を政治家にしてそれが漏れなかったことがない、と言ってもいいと思います。政治家は癒着関係にある特定プレスにこの類の話を垂れ込み、そのプレスから見返りに情報をもらうということをやっている人ばかりだということです。内局官僚自身、気の効いた人間は政治家を見習って、有力政治家や特定プレスと癒着関係を積極的につくり、彼らにマル秘情報をリークし、政治家からは恩顧を、プレスからは見返り情報(政治家情報や官僚人事情報等)を獲得することに血道をあげています(コラム#8参照)。
他方、制服サイドについては、いくら自衛隊は軍隊ではないとはいっても、それなりに秘密保全教育は徹底していますし、米軍と共同訓練をやる都度、秘密保全意識を触発される、ということもあり、マル秘情報が漏れることは、(金で外国のエージェントに漏らすようなケースがたまに露見しているとはいえ、)まずありません。
 以上を踏まえれば情報漏れの犯人は、政治家たる防衛庁長官、副長官等ないし政府・与党首脳、及び内局幹部であり、政治家としては例外的に口が堅い官房長官が、制服サイドが犯人だとする内局幹部らからの話を鵜呑みにして、お門違いの指示を連発している、というのが真相でしょう。

 ところで、「情報のゆがみ」の話に触れませんでしたが、これに関連して自衛官には広報マインドが欠けている旨の発言が官房長官からあった(東京新聞サイト前掲)ことは、一種の職業による差別発言であり、それだけで問題ですが、自衛官はその職業の性格からあるべき市民像を体現した存在である、ということからすれば話はさかさまであり、官房長官はとんだ無知を曝け出したというところです。(詳しくは、拙著「防衛庁再生宣言」第三章を参照。)
 つまり、立派な自衛官であれば、内局官僚などより、はるかに広報マインドも身に着けているということです。(イラクに派遣された陸上自衛隊の先遣隊の佐藤隊長をご覧ください。)

 今回のドタバタ劇を契機としてプレスが目を覚まして前非を悔い、政治家や役所との癒着関係の清算に乗り出してくれることを期待しているのですが、期待するだけムダかもしれませんね。

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