太田述正コラム#0242(2004.1.28)
<新悪の枢軸:ロシア篇(その2)>

(2) 一貫していた米国のロシア封じ込め政策

米国は冷戦時代を通じて敵国ソ連を国を挙げて研究し、ソ連が帝政ロシア時代から基本的に変わっていないこと、そして仮にソ連が崩壊したとしても、その承継国家は、やはり帝政ロシアやソ連時代の性格を基本的に受け継ぐであろうことを当然視していたのでしょう。ソ連が崩壊し、ロシアが復活した後も、米国はひと時も弛むことなく、ロシアを封じ込める手を次々に打って行きます。
米国のクリントン政権がまず行ったのは、旧反ソ同盟たるNATOの東方への拡大であり、東欧の元のソ連の衛星諸国やバルト三国をNATOに取り込みます。
こうしてロシアの西方を扼した米国がその次に行ったのは、かつてソ連の柔らかい南部の脇腹であった中央アジアやコーカサス地方への進出です。
象徴的なのはグルジアへの米国の進出です。元ソ連外相のシュヴァルナーゼ大統領が率いるこの国に、米国は被援助国民一人当たりにしてイスラエルに次ぐ経済援助をつぎ込みました。そしてこのグルジアを舞台にして、グルジアからの分離を図る南オセチアやアブハジアを支援するロシアとグルジア政府を支援する米国とが、かつての米ソ冷戦時代のような「代理戦争」を繰り広げるのです。
ブッシュ政権は、このようなクリントン政権のロシア封じ込め政策を引き継ぎます。
2001年に起きた9,11同時多発テロをフルに「活用」し、ブッシュ政権は、対テロ戦争にロシアの協力を得るため、とのふれこみでプーチンの手荒なチェチェン政策を黙認する一方、中央アジアへの米軍基地の設置をプーチンに飲ませます。そしてこれと平行して、コーカサス地方へのパイプライン設置をテコにロシアをカスピ海の石油資源から締め出す策略を展開します。
更に2003年には、シュヴァルナーゼ政権の腐敗、とりわけ選挙不正を口実に、米国の秘蔵っ子であるサーカシビリの無血「革命」を支援し、常に米国とロシアを天秤にかけてきた食えないシュヴァルナーゼ・・例えば彼はロシアの会社から天然ガスの供給を受けようとした・・を切り捨てるのです。
(以上、http://www.guardian.co.uk/russia/article/0,2763,1115291,00.html(1月3日アクセス)による。)

3 パウエルのロシア批判

 そこに昨年末、満を持してパウエル論文(コラム#236)が上梓され、米国はロシアに対し、婉曲な形ではありますが、米国の潜在敵国であるという烙印を押すに至ります。
 この論文への反響の少なさに業を煮やしたのか、先般行われたパウエルのロシア訪問時に、パウエルは外交的配慮をかなぐり捨てて真正面からロシア批判を行い、米英のメディアをびっくりさせました。(サイトで見る限り、パウエルのロシア批判を無視したのはロサンゼルスタイムズのみ。なお、取り上げた各メディア中、一番小さい扱いだったのがガーディアンだった。そんな当たり前の話はニュース性がないということなのだろう。ちなみに、私が気がついた範囲では、日本のメディアのサイトは殆ど無視を決め込んだ。この見識の高さ(?!)にはため息が出る。)
 なにゆえこのタイミングにパウエルが、(当然ブッシュ大統領の了解の下で、)このような言動をとったかについては、このところ米議会や民主党の大統領選挙候補者達の間からブッシュの対露姿勢の「軟弱さ」を批判する声が高まっていたからではないかと指摘されています(http://www.nytimes.com/2004/01/27/international/europe/27POWE.html?hp。1月27日アクセス)。

 パウエルは1月26日付けのイズヴェスチャ紙に論考を寄せ、その中で「ロシアの民主主義制度は、まだ政府の行政、立法、司法部門の間で基本的な均衡がとれていないように思われる。・・政治権力が法によって拘束されていない。・・メディアも政党も自分の思うところに従って行動する自由を有していない。・・基本的な原則を共有していない限り、米露関係は本来あるべき姿にはなりえない」と記しています(注)。

 (注)ブッシュが昨年9月に、民主主義、自由、及び法の支配をロシアに定着させようとするプーチンの見識を称えたばかりであることを思えば、隔世の感がある。

 彼はまた、ロシアのチェチェン政策を批判し、かつロシアがその近隣諸国の動向について「関心を持つのは自然なこと」としつつ、暗にグルジアとモルドバへのロシアの干渉を指して、「ロシアの近隣諸国の主権の保全とこれら諸国<がロシアと>の間の平和で敬意を持った関係を取り結ぶ権利も尊重されるべきだ」とも言っています。T
(以上、http://news.ft.com/servlet/ContentServer?pagename=FT.com/StoryFT/FullStory&c=StoryFT&cid=1073281301151&p=1012571727102及びhttp://www.washingtonpost.com/wp-dyn/articles/A48581-2004Jan26.html(どちらも1月27日アクセス)による。)

同じ日に、パウエルはプーチン大統領との会談に臨んでいます(ワシントンポスト上掲)が、この会談がどんなに「率直」な意見交換の場になったかは、想像に難くありません。

米国がロシアを潜在敵国とみなしていることについて、ご納得がいただけたでしょうか。

(ロシア篇完。次はインド篇です)

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