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太田述正コラム#0282(2004.3.8)
<新悪の枢軸:ロシア篇(追補2)>

 このように見てくると、どうしてロシアについての米国の論調が悲観論一色になってしまっているのかが不思議に思えてくることだろう。
 その理由は至って簡単だ。
 ソ連改め新生ロシアは、米国と世界の覇権を争った「超大国」なのだから、豊かでこそなくても高度に発展した国であるはずだ、との思い込みが米国の人々の間にあったため、その国が経済中進国的病理現象を呈したことにショックを受けた、というだけのことだ。もともとの期待が余りにも高すぎたのだ。

 (3)私のコメント
 この論考の指摘はいちいちごもっともです。
しかし、ロシアの評価は、ロシアが「経済中進国」であることにウェートを置くか、「核保有国であり、かつ依然国際場裏で隠然たる影響力を持っている」ことにウェートを置くかによって、全く違ってきます。

 ロシアは、フランスや英国に比べて一人当たりGDPが四分の一以下に過ぎない経済中進国であって、両国それぞれの三分の二程度の国力(GDP)しかない(The Military Balance 2003/2004, IISS, PP247,250,269)にもかかわらず、両国と同様、核を保有しているだけでなく、両国のいずれよりも「国際場裏で隠然たる影響力」を持つことに対して強い執着心を抱いています。
 本年2月、ロシアは20年ぶり(1982年以来)の大軍事演習を行いました。その演習は、実際に(核弾頭抜きの)大陸間弾道弾を何発か発射し、長距離爆撃機も一斉に飛び立たせるというおどろおどろしいものでした。しかし、プーチン大統領がわざわざ乗りこんだ原子力潜水艦からの弾道弾発射に失敗するという大失態を起こしてしまいました(ロシアは公式には否定している)。
このことが示しているように老朽化した核兵器をもてあましている状況であるにもかかわらず、ロシアは休眠状態だった大陸間弾道弾を再び実戦配備状況に戻したり、新しく開発した大陸間弾道弾の配備に血道をあげたりしています。
(以上、http://www.atimes.com/atimes/Central_Asia/FB19Ag02.html及びhttp://www.atimes.com/atimes/Central_Asia/FB19Ag03.html(どちらも2月19日アクセス)による。)

 まさにこの、滑稽なまでに背伸びした覇権主義こそ、ロシア、共産主義ロシア(ソ連)、新生ロシアに共通する業病であり、だからこそ、ロシアはその近現代史を通じて世界の問題児であり続けているのです。

2 新生ロシアの特質

 (1)かつての諜報要員が支配するロシア
 ロシアの歴史はエリートによる人民支配の歴史です。
 帝政ロシアのエリートは貴族で社会システムは農奴制でしたし、ソ連のエリートは共産党員の中の選ばれた人々(ノメンクラツーラ)で社会システムは計画経済でした。新生ロシアの社会システムは市場経済であることはご承知の通りですが、誰がエリートかはご存知ですか。
 それは、現在のところ、ソ連時代のKGB要員を始めとする諜報要員です。

 大統領自身がそうですが、プーチン政権の上級官僚の約四分の一はかつての諜報要員ですし、政府関係機関や産業界の主だったところで2000名にのぼるかつての諜報要員が活躍しています。
 KGBでは能力主義が貫徹されており、KGBはソ連の国家機関の中で最も腐敗していなかったと言われています。しかも、ソ連は閉ざされた社会でしたが、KGB(や他の諜報機関)の要員になれば、外国語を身につけ、外国へ行くチャンスもありました。ですから、プーチンもそうでしたが、ソ連の貧しい家庭で育った優秀な若者はこぞってKGB等をめざしました。
 これら機関で彼らは、上意下達の精神と何が何でも目的を完遂するという使命感を叩き込まれ、分析能力を鍛えられたのです。
 ソ連が崩壊し、一旦は茫然自失した彼らは、やがて市場経済化した経済中進国ロシアにおいて、彼らのような人材が必要不可欠であることに気づきます。そして彼らはあらゆるところで頭角を現し始めるのです。
(以上、http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-spies10nov10000420,1,1188925.story?coll=la-headlines-world(11月11日アクセス)による。)

(続く)

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