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太田述正コラム#0313(2004.4.8)
<アングロサクソンバッシング(その1)>

1 アングロサクソンバッシング

2001年の9.11同時多発テロに世界の同情が寄せられたことによって、一時的に影を潜めた米国バッシングが再び昔日の勢いを回復してきています。
戦後、最も声高に米国バッシングを行ってきたのは欧州とイスラム世界です。
その中でも特に執拗に、手を代え品を代え、米国バッシングを続けてきたのは欧州文明の盟主を自認するフランスでした。
フランス人はまず、マッカーシズムが吹き荒れた米国(注1)に対し、進歩的人士に共産主義者というレッテルを貼って魔女狩りする野蛮なファシスト国家だと非難しました。

(注1)1950から54年に至る、マッカーシズム旋風を主導したジョン・マッカーシー上院議員は、強烈な反共主義者にして米国最大のデマゴーグとされている(http://mccarthy.cjb.net/。4月9日アクセス)。確かに彼によって告発された人物の中に無実の者も少なくなかったが、彼の告発によって処刑されたローゼンバーグ夫妻はコミンテルンの手先であることが1970年代に証明されたし、やはり彼が告発した(ローズベルト大統領の補佐官でヤルタ会談にも同席した)アルジャー・ヒスがソ連のエージェントであったことも間違いない。

次いで米国は人種差別の国、とりわけ黒人差別の国であるという非難が行われました。
米国バッシングが第一のピークを迎えたのは1960年代のベトナム戦争の頃です。フランス人は、自分自身のベトナム植民地統治の失敗や、第一次インドシナ戦争におけるベトナム共産党軍とのディエンビエンフーの戦い(1954年)の際に米空軍の介入を求めたこと、そもそも共産主義(ソ連)からの西欧の防衛を米国に依存していたこと、などは棚に上げて、米国の「帝国主義的」行動を非難したものです。
また、1996年には、フランスの元外相のユベール・ヴェドリン(Hubert Vedrine)が、著書(注2)の中で、「米国の最大の特徴は、・・自分を建国以来、世界を啓蒙する任務を負わされた選ばれた国家であると見なしてきたことだ」と書き、米国の夜郎自大ぶりに眉を顰めて見せました。

(注2)Les Mondes de Francois Mitterrand, Editions Fayard, 1996

そして2003年の初め、フランス人は、既に12年間に及んでいた国連による対イラク経済制裁について、(フランス自身もこれに賛成したというのに)イラク市民に耐え難い苦難を強いているので一刻も早く解除すべきだと訴えていました。ところが、この国連による経済制裁を終わらせる唯一の現実的な方策であるイラクの体制変革に米国が乗り出そうとすると、彼らは(テロにも反対だが)いかなる戦争にも反対だと言い出し、いよいよ米国が開戦すると、今度はイラク市民に多数の犠牲者が出ており、米国はハイパー・パワー(hyper power=一国主義的(unilataral)に恣に軍事力を行使する唯一の超大国。いわば、ファシスト+人種差別主義者+帝国主義者+夜郎自大を体現した国。ヴェドリンのつくった言葉)だと非難しました。
フランス人評論家のジャン・フランソワ・レヴェル(Jean-Francois Revel)は、これらは、フランス人が、己自身にファシスト的、人種差別的、帝国主義的、夜郎自大的傾向があるという劣等感ないし強迫観念から眼をそらしたいが故に、米国をスケープゴートに仕立て上げるべく、一方的にファシスト、人種差別主義者、帝国主義者、及び夜郎自大呼ばわりしただけだ、と冷静に分析しています。
レヴェルは、同じことが他の国による米国バッシングについても言えるとし、米国について、スペイン人ないし中南米人が(フランス人と同じく)帝国主義、ドイツ人が軍国主義、中国が覇権主義だとしてそれぞれ非難したり、9.11同時多発テロ以降の米国についてイスラム世界の人々が人権軽視だとして非難したりしていること、を挙げ、投げつけられたこれらの悪罵は、米国には全くあてはまらず、むしろ悪罵を投げた国々にこそあてはまる、と断じています。
この米国バッシングの根底にあるのは、米国を始めとするアングロサクソン諸国の隆盛に対する嫉妬心であり、(レヴェル自身が指摘しているように、)米国が体現しているアングロサクソン流自由・民主主義への敵意です。結局のところ、米国バッシングとはアングロサクソンバッシングに他ならないのです。
 アングロサクソンバッシングは、アングロサクソンにとってとんだ迷惑であることはもちろんですが、より問題なのは、これがバッシングしている側自身に及ぼしている悪影響です。
欧州について言えば、両大戦を経て完全に没落したというのに、いまだにその自覚がなく、過去の栄光を夢見るばかりで自由・民主主義化も不徹底な状態が続いていますし、イスラム世界について言えば、自由・民主主義化に向けての歩みはまことに遅々としており、かつイスラム原理主義テロの巣窟となりつつあります。
 (以上、Jean-Francois Revel, Anti-Americanism, Encounter Books, 2003(フランス語からの翻訳書)の書評(http://www.atimes.com/atimes/Front_Page/FD03Aa02.html。4月3日アクセス))及び同書の著者による紹介(http://capmag.com/article.asp?ID=3498。4月9日アクセス)を参考にした。)

(続く)

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