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太田述正コラム#0396(2004.6.30)
<二人の韓国人をめぐって(追補)>

 (本篇は、コラム#391及び392の追補であり、#392冒頭の「追補」部分を取り入れてあります。)

 金鮮一氏の事件の余波が続いています。

1 家族

 24日に実施された金氏の追悼会の席上、金氏の母親はノ・ムヒョン大統領が贈った弔花をばらばらに壊しました(http://j1.peopledaily.com.cn/2004/06/25/jp20040625_40692.html。6月26日アクセス)。この、韓国の朝鮮日報のホームページ(本来の意味)の見出しに一度も登場していないような「マイナー」な記事を、なぜ中国の人民日報が日本語電子版のホームページの国際欄に掲げたのでしょうか。そこには冷徹な計算がある、と考えられます。

2 市民

 韓国市民一般については、コラム#391ではとりあげませんでしたが、とんでもない世論調査結果(インターネットにより3,000名を調査)が24日に出ています。金氏の死に最も責任があるのは誰かという設問に対し、米国との回答が41.4%と一番多く、次いで韓国政府との回答が32.6%。テロリストに最も責任があるという回答は22.3%に過ぎませんでした。(http://news.ft.com/servlet/ContentServer?pagename=FT.com/StoryFT/FullStory&c=StoryFT&cid=1087373287501&p=1012571727102。6月28日アクセス)
 金氏がビデオで累次行った、事実と論理を無視した呼びかけ(コラム#391)に、韓国の市民一般が自己同一化していることが分かります。
 韓国の市民はぜひ、これが、かの英ファイナンシャルタイムスの電子版の国際ページで報じられたことの重みとその意味するところに思いを致して欲しいものです。

3 政府

外交通商省のほか、韓国の監査院(Board of Audit and Inspection)での調査対象として、国家安全保障会議(National Security Council)、国家情報機構(National Information Service)、それに国防省が加えられました(http://english.chosun.com/w21data/html/news/200406/200406250039.html。6月26日アクセス)。ここまで調査対象が広がってくると、大統領ないし大統領府自身の責任が問われるはずですが、そのあたりをノ・ムヒョン大統領はどう考えているのでしょうか。
なお、真っ先に調査の対象とされた外交通商省についてですが、6月3日にAP通信からの問い合わせの電話を受けた韓国の外交通商省の職員は、この話を上司に伝えていなかったことが判明しました(http://english.chosun.com/w21data/html/news/200406/200406250056.html。6月26日アクセス)。これは外交通商省内でトカゲのシッポ切りが始まりつつあることを示しているのかもしれません。

ところで、韓国政府(情報通信省)は、金氏が首を切られて殺害される画面が流されているインターネットサイトに韓国市民がアクセスすることを禁じています。
すでにこの画面をダウンロードした市民12人が逮捕されています。
 問題はこれが嫌悪感をもたらす画面だから、という理由で実施されているとは到底思えないところにあります。
 そもそも、韓国人がいかにこの手のデリカシーに欠けているかにつき、しばしばこのコラムに登場しているデービッド・スコフィールドは、以下のような事例を挙げています。
まず、9,11同時多発テロの直後から、オサマ・ビンラディンが世界貿易センタービルに突っ込もうとしているジェット旅客機を操縦していて、読んでいるスポーツ紙の余りの面白さに、目標からそれてしまう、というスポーツ紙の電飾コマーシャルが、ソウルの数カ所で続けられました。
また、先月と今月、米国人がイラクとサウディでそれぞれ首を切られて殺害された事件がありました(コラム#394、395)が、前者については、その全画面が某TV大ネットワークでゴールデンアワーに韓国全域に放映されました。さすがにその後、韓国政府の勧告に従い、そのものズバリの部分は放映されなくなりましたが、インターネットでこれらの画面をダウンロードするのは野放し状態のままです。
振り返ってみれば、2002年に演習中の米軍の地雷除去車による少女二人の轢死事件が起こった(コラム#80)時、この二人のぺしゃんこに押しつぶされた凄惨な写真が、韓国全域の大学構内とインターネット上で展示されましたが、韓国政府は何の措置もとりませんでした(注)。

 (注)私は、1995年の防衛庁からの韓国出張時に、希望してソウルから随分離れたところにある独立記念館を見学させてもらったことがある。日本の韓国統治を糾弾するため、日本の官憲が韓国人を虐殺している場面等が蝋人形を使って延々と展示されており、覚悟していたものの、さすがに辟易したことがある。

 韓国政府は、世論の賛否が拮抗しているイラクへの追加派兵問題に、金氏の殺害場面が出回ることが悪影響を及ぼすことを懼れているために今回のような前例のない措置をとった、というのがスコフィールドの解釈です。
(以上、http://www.atimes.com/atimes/Korea/FF30Dg03.html(6月30日アクセス)による。)

4 終わりに

 私が、金氏のことを何度もとり上げたことに対して、死者を鞭打つもの、というご批判もあろうかと思います。
 しかし私は、金氏の死を無駄にしないためにもとり上げるべきだと考えました。
 死は平等にすべての人に訪れます。
 金氏が、そう達観して、平静に(或いは平静を装って)殺害されることなく、あらぬことを口走り、命乞いをしつつ殺害されたことによって、現在の韓国の闇があぶり出されてきたことに、我々は感謝すべきなのかもしれませんね。

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