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太田述正コラム#0581(2005.1.1)
<世界の人口動態とキリスト教原理主義>

 (掲示板でお知らせしたように、年末の3日間と年始の2日間、インターネット環境を離れますので、この間のコラムを前倒しで上梓させていただいています。なお、上記お知らせの中で、この間の面白い記事・論説を私にご教示いただくようにお願いしていますが、その気になられたら、一つでも二つでもぜひご協力方をお願いします。)

1 中期的には増える世界人口

 昨2004年8月に米国で発表された研究(注1)によれば、現在63億人の世界人口は2050年には93億人に増えます。
2050年の時点で、現在の主要な先進国中ではただ一カ国だけ米国が1億2,000万人も人口を増やし、インドの人口が中国を上回り世界一の人口大国となり、サハラ以南のアフリカで人口が10億人も増えるのです(注2)。
ただしその一方で、ブルガリアが人口を38%も減らす等東欧とロシアでは人口が大きく減り、西欧でも人口が減ります。(ただし、この間、英国がフランスを抜いて(ロシアを除き)欧州でドイツに次ぐ人口大国になりそうです。)日本は(ご存じの通り)1億人になってしまいます。(現在日本とほぼ同じ人口のナイジェリアは3億人に増えます。)
(以上、特に断っていない限りhttp://www.guardian.co.uk/population/Story/0,2763,1285358,00.html。2004年8月18日アクセス)による。)

 (注1)現在の人口増加率・乳児死亡率・年齢構成・平均寿命・所得・出生率・女性の避妊薬服用率・AIDS感染率が考慮された。地球環境の変化は考慮されていない。
(注2)サハラ以南のアフリカでも、ボツワナと南アフリカはAIDS感染率が高いため、例外的に人口が減少する(http://www.guardian.co.uk/population/Story/0,2763,1176582,00.html。3月24日アクセス)。

2 長期的には減る世界人口

 しかし、このまま世界の人口は増え続けるわけではありません。
冷静に人口動態を眺めてみると、1960年代に比べれば、現在の世界の人口増加率は40%も低くなっていることが分かります。
 この分では、世界の人口は2070年頃に約90億人で頂点に達し、それ以降はどんどん減って行くことになるでしょう。
 その最大の原因は、出生率の低下です。女性が生む子供の数は、1972年に比べて30年後の現在では半分に減っています。
 これは、産業化・都市化が進むと、子供の養育費の負担がどんどん大きくなるからです。
 例えば米国では、中産階級の子供を大学卒業まで育て上げるのに100万ドルかかります。(うち、子育てのために親が仕事を休む機会費用分が80万ドルです。)(http://www.atimes.com/atimes/Front_Page/FI08Aa01.html。9月8日アクセス)
社会保障や個人年金の制度が子供のいない人に有利であることも考慮すれば、子供をつくることに伴うコストは余りにも高くつくのです。
 世界は地域や国によってペースは違いますが、おしなべて産業化・都市化しつつあることから、今後出生率の低下は加速していき、その結果として2070年頃から世界人口は減って行くことになるわけです。
(以上、特に断っていない限りhttp://www.nytimes.com/cfr/international/20040501faessay_v83n3_longman.html(6月10日アクセス)による。)

3 懸念されるキリスト教原理主義者の増加

世界人口が長期的には減っていくこと自体が問題ですが、その結果世界の人口の大部分をキリスト教原理主義者が占めるようになる可能性があることはもっと問題ではないでしょうか。
以前、ブッシュ米大統領の支持層にはキリスト教原理主義者が多く、かつまたキリスト教原理主義者はそうでない(端的に言えば教会に通わない)人々に比べて出生率が高い話をしました(コラム#470)。
そのキリスト教原理主義は、米国のみならず、世界中に広まりつつあり、その増加率は他のいかなる宗教をも上回っている、とも以前お話ししました(コラム#93、95)。
 すなわち世界は長期的に見て、単一の宗教を信ずる、狂信的で頭が固い人々で埋め尽くされてしまいかねない、ということです。
 しかし、これらの人々の出生率は高く、そもそも彼らは反産業化・反都市化メンタリティーを持っているので、世界の産業化・都市化のスピードも減速し、その結果、超長期的には世界の人口は再び増勢に転じるのかもしれませんね。

 (日付が年の初めのコラムであることから、少し息の長い話をしてみました。この年末年始には新しいコラムは上梓されませんので、この際、できれば私のホームページでコラムのバックナンバーに目を通していただきたいと思います。2005年も引き続きどうぞよろしく。)

<読者>
今回の#581について私の意見を言わせて戴きたいと思います。

1.世界の人口減少の事について

 私はかって統計周りの仕事をした事がありその時の感想では「もし僕が行政で此れを担当するならば理想的な人口動態を作るがなー」と思った事が在ります。
当然の事ながら国勢調査により数十年後の人口動態が予想できるはずで、経済、防衛、世界動態に対する対策、これらに伴う費用対効果をはじき出せ、1国としての戦略の根本が出せると思っていたのです。
 が事実は世界に類を見ない高速な少子高齢化になることはいまや誰も認める事実です。当局すら此れを自然とこうなったかのように出生率が1.29だの何だのと言っている始末で恰も天災のごとくに言っております。
 一方、就学前の児童に対する国の費用は一人当たり60万円/月と出ており、人口動態などは「女性は基本的に子供を生み、育てることに喜びを持つが高費用化した現在では安心して子供も生めない」事が大方の実態です。(勿論男女機会均等法により女性も働く事が大切ですが此れと其れとは問題が別のはず。何故なら男が子供を生めますか)簡単に言えば「一人子供を生んだら18歳までは(此れが適切かどうかは検討が必要ですが)20万円/月補助をする」と言う施策を法的に認め、かつその後のその女性の労働の在り方検討すれば良いのです。この方が費用的にも、子供の教育でも女性の満足観からも良いはずで(何処かの国が始めていますが)此れは今の総務省、財務省、厚労省、文科省などがプロジェクトグループを作って実行すれば出来るのに「省益あって国益なし」の省庁では無理で、私は此れを無作為の霞ヶ関と言って「役立たずの役所」と残念で成らないのです。
 こうして国益を自ら捨てている彼らは給与を受け取る資格はありません。

2.米国の原理主義について

 キリスト教の歴史を見れば分るように「宗派、新旧、他宗教との争い」で植民地時代は言うに及ばず、現在でもまさにギボンが「ローマ帝国衰亡史」第2巻で言うように「キリスト教は他の戦争や災害で死んだより多くの人を殺してきた」と言う忌まわしい事実があるのです。(幸いわが国にはありませんが)こうした歴史を見ると今の米国ファンダメンタリスト(福音派、蔑称で原理主義)が人間不信に陥り「聖書と言う基本」しか認めないように傾いてきて此れが政治的な力になって来た事は「人間不信」の時代にあってキリスト教を信じる限り仕方ない人も居て不思議ではない、というのが私の見方です。確かに自由神学と言って人間の学問の進み具合により聖書理解を深める、という生き方も正しいでしょうが学問は所詮時代の制約と学説という偏りを持ちますから「今は良くても」と言う制約は避けえなくこの事実を知らなくて彼らを「進化論も認めない頑固主義」という事は簡単ですが、彼らの拠って立つところを誰が提案できますか。宗教的なセキュアにより英国を飛び出しオランダ→アメリカ大陸に住まざるを得なかったピルグリムファーザー達を責めえないように今の彼らを責めるのは「彼らのよって立つ根拠」を提案しなくては不可能です。今の我々に出来る事は「彼らの立場になって悩みながらも時代との整合性をどうするのか」と言う問題をともに悩むしかないと言うのが私の立場です。日本国内では国民性の大らかさ、悪く言えば節度のなさから「何で馬鹿みたいに逐語霊感説などを取るのか」と言う言論がしきりですがこれは正しく彼らへの態度に正鵠を得ていないと考えていますが、わが国はイスラムのように差別は在りませんからせめて「彼らを理解してあげる」くらいの度量を欲しいと思っているのです。

<太田>
1 人口減少問題について

 日本について言えば、とるべき対策は決まっています。
 一つは移民の受け入れであり、もう一つは抜本的な子づくり奨励策の実施です。
 しかし、このどちらも日本人の意識改革が必要であり、容易なことでは実現しそうにもありません。
 この難問については、改めてコラムでとりあげたいと思っています。

2 キリスト教原理主義について

 キリスト教原理主義を信奉する人がどうして増えてきているのかについては、これまでのコラムで何度かご説明してきていますが、それが分かったからといって、彼らに同情する必要は全くないのではないでしょうか。
 これは、イスラム教原理主義者たるテロリストがどうして増えてきているのか分かったところで、彼らに同情する必要など全くないことと同様です。
 キリスト教原理主義者の無知蒙昧さも、イスラム教原理主義テロリストによる無差別殺人も、様相こそ異なるものの、全人類的見地からは百害あって一利もないからです。

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