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太田述正コラム#0595(2005.1.15)
<様変わりしたラテンアメリカ(その2)>

3 政治
 
 (1)欧州的な政治の成熟化
 かつてのラテンアメリカ諸国の政治においては、ファシスト的独裁と共産主義的独裁の二つの選択肢しかありませんでした。そしてラテンアメリカ諸国の政治は、ファシスト的独裁政権に対しては、ソ連やキューバが梃子入れする共産ゲリラが政権転覆をねらい、共産主義的独裁政権に対しては、米国が梃子入れするゲリラまたは軍部が政権転覆をねらう、ということの繰り返しでした。
 それが、冷戦の終焉以降、次第に西欧ばりの社会民主主義が主流となり(注2)、総じて言えば、ラテンアメリカ諸国の政治は次第に安定するきざしを見せつつあります。また、現在の米ブッシュ政権の外交政策、とりわけ対イラク政策には、ラテンアメリカ世論はおおむね批判的なところも西欧と似ています。
(以上、特に断っていない限りhttp://www.washingtonpost.com/ac2/wp-dyn/A19591-2004Nov2?language=printer(2004年11月4日アクセス)による。)

(注2)現在左翼は、ブラジル・アルゼンチン・ベネズエラを始めとして、コロンビアを除く大部分のラテンアメリカ諸国で政権を握っている。(http://news.bbc.co.uk/2/hi/americas/3975663.stm。2004年11月3日アクセス)

 私見によれば、これは、元来欧州文明に属するラテンアメリカが、経済面で西欧諸国へのキャッチアップに向けて離陸を始めただけでなく、政治面でも、かつての第二次世界大戦前の西欧諸国類似の状況から戦後、更には冷戦後の西欧諸国類似の状況へとキャッチアップしつつあることを示すものなのです。

 (2)留保:米国流政治制度の桎梏
しかし、ラテンアメリカは、西欧諸国とは違って、依然著しい貧困(所得格差)・高失業率という問題を抱えており、西欧諸国には見られない、腐敗と暴力と犯罪の吹きすさぶ世界です(http://www.nytimes.com/2004/06/24/international/americas/24PERU.html。2004年6月25日アクセス)。
「中南米諸国の人々は、55%が民主的な政府より独裁的な・・政府を支持し、58%が政府の指導者が超法規的措置を採ることを認め、56%が民主制を維持することよりも経済発展の方が大事だ、と考えるに至っている」という昨年春に実施された嘆かわしい世論調査結果をご紹介したことがあります(コラム#330)。これは、昨年秋の世論調査結果によれば、71%が現在のラテンアメリカ諸国の政府が特権階級の利益を代弁していると考えている(BBC上掲)からこそなのです。
すなわちラテンアメリカの人々は、経済が「高度」経済成長をしていると言うが、それは特権階級がより豊かになっただけのことであり、大多数の人々の一人当たり所得はほとんど向上していないし治安もよくなっていない、と不満たらたらなのであり、選挙の際の投票率はどんどん低くなってきています(NYタイムス上掲)。
とりわけペルーのように、貧困率が54%にも達している一方で、このところの経済成長の理由が輸出鉱物資源の価格高騰であるような所では、経済成長は極めて限られた人々しか潤さないため、むしろ不公平感を募らせ、民主主義への信頼性を一層低下させています。
最近では、問題の一端は、ラテンアメリカ諸国が西欧諸国に多い議院内閣制ではなく、米国直輸入の大統領制を採用しているところにあるのではないか、という指摘が出ています。選挙には強くても、行政経験に乏しい人が大統領になりがちであるため、経済問題や治安問題への取り組みが地に足の着いたものになっていない場合が多い、というのです(注3)。
(以上、http://www.csmonitor.com/2004/0429/p01s01-woam.html(2004年4月29日アクセス)による。)

(注3)議院内閣制をとっているインドの政治は比較的安定しているのに、パキスタンやフィリピン等大統領制とっている諸国の政治がいつまでたっても安定しないのは、大統領の支持勢力と議会の多数勢力が一致しないというよくあるケースにおいて、社会が成熟していないと、政治が麻痺状態になってしまうからだ、という指摘がある(http://www.taipeitimes.com/News/edit/archives/2004/09/08/2003202107。2004年9月9日アクセス)。大統領制が抱えるこのより根本的な問題点も忘れてはなるまい。

4 宗教
 
 ラテンアメリカの宗教と言えばカトリックでしたが、最近、米国の原理主義的プロテスタント諸派が急速に伸びてきています。
 例えばブラジルでは、原理主義的プロテスタント諸派は人口の15%に達しており、原理主義的プロテスタントのリオ・デジャネイロ州知事は、学校で創造説を教えることを認め、科学者達の怒りを呼び起こしました。
 もっとも、ブッシュの対イラク政策が彼らの間でも不人気なのは、興味深いものがあります。
 ブラジルにおいては、2050年までには原理主義的プロテスタントが人口の50%に達する可能性があるとされていますが、同じようなことが他のラテンアメリカ諸国でも言えます。
(以上、http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-evangelicals7jun07,1,1556035.story?coll=la-headlines-world(2004年6月8日アクセス)による。)
 私はこの現象を次のように理解しています。
 ラテンアメリカは、イベリア半島のレコンキスタ(イスラム勢力の駆逐)運動が、目的を達成した後、海外への進出兼カトリシズム布教活動へと形を変えた結果、南米大陸がスペイン・ポルトガルによって征服されて成立したわけであり、ラテンアメリカはカトリシズム一色に塗りつぶされ、西欧におけるような宗教改革や宗教戦争を経験することがありませんでした。
 そのラテンアメリカが遅ればせながら、米国発の原理主義的プロテスタント諸派の伝播の結果、宗教改革に直面しつつある、ということなのです。
 
(完)

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