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太田述正コラム#0604(2005.1.24)
<ブッシュの就任演説(その1)>
(北方領土問題については、ホームページ(http://www.ohtan.net)の掲示板上でやりとりが続いていますので、ご覧下さい。)
1 ブッシュの就任演説
1月20日に行われたブッシュ米大統領の二期目の就任演説(http://www.csmonitor.com/earlyed/early_USA012005.htm。1月21日アクセス)を読んでみての感想は、これは演説(speech)というより牧師の説教(sermon)だというのが第一、「この世界を平和にする最もよい方法は、世界中に自由を普及することだ」(The best hope for peace in our world is the expansion of freedom in all the world.)(注1)というだけのことをよくもまああんなに長い文章にできたものだ(ブッシュの演説は21分間に及んだ)というのが第二でした。
(注1)早くもブッシュドクトリン(the Bush doctrine)と呼ばれ始めている。演説の中では、このドクトリンは米国の対外政策を律するだけでなく、国内政策をも律するものとして打ち出されている。(http://www.csmonitor.com/2005/0121/p01s02-uspo.html。1月23日アクセス)
第一の点ですが、演説中に「彼ら(人類。太田)は天地創造者の姿に似<せてつくられ>ており・・」、「正義の神の支配の下で・・」、「シナイ半島で<ユダヤ教の神から啓示されたところの>真実、<キリストが諭した>山上の垂訓、コーランの言葉、そして我が国民の様々な信仰・・」、「自由が究極的には勝利することにわれわれは全幅の信頼を寄せている。・・それはわれわれが自分自身を<神によって>選ばれた民族だと考えているからではない。神が欲するからこそ神はご自身の意思として行動し選択するのだ。」「神よ皆さんを祝福されよ。そして米合衆国を見守り給え。」といった表現がちりばめられているのですから、牧師の説教と言うほかないでしょう。
一番最後の常套句はともかくとして、これだけ神・・しかも実質的にはキリスト教の神・・への言及がなされているところから、米国憲法に謳われた宗教と政治の分離の原則がないがしろにされた、いかにもキリスト教宗教原理主義者ブッシュの面目躍如とした演説だったと思います。
これだけで、ブッシュ演説は「世俗化」した欧州の反発を買っています(http://www.washingtonpost.com/ac2/wp-dyn/A25249-2005Jan20?language=printer。1月22日アクセス)。
第二の点ですが、演説中でFreedomが27回、libertyが15回使われ(ワシントンポスト上掲)、あるいはfreedom・free,・liberty が49回登場した(http://www.nytimes.com/2005/01/21/opinion/21safire.html?hp=&pagewanted=print&position=。1月22日アクセス)けれども、冒頭にご紹介した、それ自体はケチのつけようがない一節の趣旨が、手を変え品を変え何度も繰り返される(注2)だけで、自由の普及を実現するための具体的方策に何も触れていないことから、そう評すほかないと思います。
(注2)リンカーンの演説の一節"those who deny freedom to others deserve it not for themselves; and, under the rule of a just God, cannot long retain it" をそう断った上で引用したり(CSモニター前掲)、ケネディの演説の一節"The survival of liberty in our land increasingly depends on the success of liberty in other lands"を「無断」借用したり(NYタイムス上掲)している。
ブッシュのスピーチライターは、再選が決まった直後のブッシュから「就任演説は「自由についての演説」にしたい」と指示され(NYタイムス上掲)、総論だけのこの演説を「増量」するためによほど四苦八苦したらしく、ドストエフスキーの「悪霊」の一節(注3)の「無断」準用まで行っています(http://books.guardian.co.uk/news/articles/0,6109,1395563,00.html。1月22日アクセス)。
(注3)"We have lit a fire as well; a fire in the minds of men"がそうだが、これはドストエフスキー(Fyodor Dostoevsky。1821??1881年)の「悪霊」(The Devils)の一節"The fire is in the minds of men and not in the roofs of houses,"の準用であり、皇帝制(Tsarist regime)を打倒しようとしたテロリストが、悪名高いロシアの監獄にぶちこまれ、すっかり宗教心が篤くなって出所した後に、テロリスト達がつけた火を消そうとしてもそうはいかない、という趣旨で吐いた言葉だ。このことを指摘したガーディアンの論説は、一体ブッシュは皇帝(Tyrant)のつもりなのかテロリストのつもりなのか、とからかっている。
このようなブッシュ演説に対しては、共和党支持者の中からさえ、異論反論が出てきています。
「ブッシュはわれわれが天国ではなくて俗世に住んでいることを忘れている」、「民主党の理想主義者であったウィルソン大統領みたいなことを言い出した」、「ブッシュは完全にネオコンにからめとられてしまった」、「エジプト・サウディ・パキスタン・ウズベキスタンといった専制的な体制の戦略的パートナーを切り捨てられるのか」、「ロシアや中国と事を構えようと言うのか」、「米国の国力をはるかに超えることをやろうというのか」等々。
(以上、http://news.ft.com/cms/s/492bb758-6bdf-11d9-94dc-00000e2511c8.html(1月23日アクセス)による。)
(続く)
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