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太田述正コラム#0657(2005.3.12)
<ファイナンシャルタイムスの三つの記事>

1 始めに

 ファイナンシャルタイムス(FT)は、1987末から1988年末まで一年間ロンドンに滞在した際、毎日読んだ新聞です。
 残念ながら、同紙の電子版では、大部分の記事が有料になっているので、ごく一部しか読むことができません。
 しかし、時々、まことにFTらしい、読ませる(無償の)記事に遭遇します。
 最近私が感銘を受けた記事三篇をご紹介しましょう。

2 東条湯布子さんのインタビュー

FTにはBreakfast with the FTもしくはLunch with the FTという欄があります。FTの記者が朝食か昼食をともにしながらインタビューする、という企画です。記事の終わりで、二人が何を食べ、代金がいくらかかったかが記される、というのが面白いところです。
先月には、東条英機の孫娘の東条湯布子さん(注1)が登場しました(http://news.ft.com/cms/s/52f4c8b6-80ab-11d9-adb4-00000e2511c8.html(2月19日アクセス)。バックナンバーなので有料化されている)。

(注1)東条湯布子さんは、「祖父東条英機 一切語るなかれ」(文春文庫)の著者であり、読んでいない方は、一読をお勧めする。

インタビューというより、湯布子さんとFTの記者との論戦といったおもむきの記事になっているのは、(東条に悪感情を持っている)英国人一般読者向けの避雷針でしょうが、私が注目したのは、インタビューの相手に彼女を選んだことに加えて、記事の最初の方の以下の記述です。
「お澄ましした(prim)昔風の慇懃さ・・彼女はアガサ・クリスティーの端正すぎるくらい端正な(straight-laced)名探偵、ミス・マープルを思い出させた」、食事に何を注文するかは「彼女は私にまかせた。私がメニューを眺め回していると、彼女は慈悲深くも、「簡単なものでいいですよ。余り高くないものをね。<この皇居のお堀端の>眺めだけで十分です」と言った。」
 これは湯布子さんに対する最大限の讃辞ではないでしょうか。
 この記者は、湯布子さんが敬愛して止まないところの、彼女の祖父たる東条英機、ひいては先の大戦における日本の位置づけ、に対する再評価の必要性を訴えている、と私は受け止めました。
 
3 ロメオ・ダレールのインタビュー

 もう一つ、掲載されたばかりのインタビュー・・1994年当時のルワンダの国連平和維持部隊の指揮官であったロメオ・ダレール(Romeo Dallaire)元カナダ軍中将を相手に行われたもの・・をご紹介しましょう。
 彼は、ルワンダでのジェノサイドの事前情報を入手し、国連本部(事務局・安保理)に通報しながら、何の指示も与えられず、さりとて与えられていた権限では何もできず、かれの目前で大殺戮が行われるのを見守らざるを得なかった、という人物です。
 彼はその後、この時の体験がもとでPTSDに罹り、自殺未遂を起こしたりしてカナダ軍から2000年に退役させられ、現在、当時の経験を語り、本(注2)にし、人道的観点からの国連平和維持部隊の権限の強化を訴える活動を続けています。

 (注2)Rom?o Dallaire, SHAKE HANDS WITH THE DEVIL  The Failure of Humanity in Rwanda, Carroll & Graf(http://www.washingtonpost.com/ac2/wp-dyn/A62072-2005Feb3?language=printer。2月6日アクセス)。この本は、自衛官にぜひ読んでもらい、感想を聞かせて欲しい。

 ダレールは、現代における軍人像は次のようなものでなければならない、と指摘します。
 「いかに戦闘を行うかだけを知っていればよかった時代は終わった。・・軍人は外交官であり人道家であり、政治とニュアンスと国家形成業務に長けていなければならない。・・明確な期限付きの任務付与がなければ行動はできないと言っているようではだめだ。現代は複雑かつ曖昧な時代なのだ。曖昧さの中で行動できなければいけないのだ。」
 インタビューした記者は、ダレールが昼飯ではなく朝食を指定してきたこと、食事が終わった後で、(当然、最終的には記者が支払ったが)自分が払うと固執したこと、支払いが済んだ後、記者の耳元で、「チップを忘れているよ」とささやいたこと、を紹介した上で、自分も是非この思いやりに満ちた心美しい軍人の力になりたいと思った、と記事を締めくくっています。
(以上、特に断っていない限りhttp://news.ft.com/cms/s/5ccb684a-9127-11d9-8a7a-00000e2511c8.html(3月12日アクセス)による。)

4 中国に関するドキュメンタリー記事

陝西(Shaanxi)省北部の諸県の政府が、6,000箇所の小規模油田に投資していた1万人の元農民から、2003年初めに油田を補償なしに強制収容して取り上げて公営油田にしてしまったことに対し、元農民達が、権利回復・補償を要求して行ってきた闘争を紹介した、つい最近のドキュメンタリー記事(http://news.ft.com/cms/s/1bded1f6-9126-11d9-8a7a-00000e2511c8.html。3月12日アクセス)にも感銘を受けました。
彼らは、弾圧を受けつつも、インターネットサイトをゲリラ的に立ち上げ、ビデオやビデオCDをつくって配布し、裁判を提起し、次第に北京の著名な法律学や経済学の教授や社会科学院の研究員、更には政府のアドバイザー等を味方に引き入れ、極めて不十分ながらも、権利回復・補償を勝ち取りつつあります。
この間、FTの北京支局は、彼らのアプローチを受け、妨害を受けながらもその取材活動を通じ、彼らの支援を行ってきたというのです。
 この記事は、余りにも遅々たる歩みではあるけれど、民衆の覚醒により、中国が、着実に法が支配する、民主的な社会に向けて前進していることをうかがわせるものです。
そして、そのプロセスにFTが関わっていることに、敬意を表したいと思います。
いずれにせよ、日本の新聞には、逆立ちしてもこんなマネはできないでしょう。せめて、(特に同じ経済紙たる日経は)FTの記事のクオリティーに一歩でも近づく努力をして欲しいものです。

<読者>
日本の戦争指導者は蒋介石,スターリン,ルーズベルト,チャーチルをどれだけ分析研究していたのかとも思います。ある英国人の著書によると,日本は無名の戦争指導者とあります。なるほどと思います。東条は英国人の目からみれば小者なのでしょう。それでも昭和天皇独白録によれば当時,東条独裁と非難されていたらしい。実際には東条は海軍から真実の報告を受けず困ったらしい。戦後でも神戸の震災時に現場を視察しなかった首相は自衛隊の秘(軍機)にも接しなかったそうですから,軍事出動の時の責任をどう考えていたのかと思うと不思議な感じがしています。

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