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太田述正コラム#0665(2005.3.20)
<反国家分裂法の採択をめぐって(続々)>

1 始めに

 前回反国家分裂法の採択にからむフランスの気になる動きをご紹介したところですが、今回は、ロシアと韓国の動きについてご紹介することにしましょう。

2 初の中露軍事演習決定

 中共とロシアが秋に実施する初めての共同軍事演習の内容が発表されました(注1)。

 (注1)ロシアのバルイェフスキー(Yury Baluyevsky)参謀総長が訪中して中共の梁光烈(Liang Guanglie)参謀総長と会って決定した。ところで、前から気になっているのだが、日本の防衛事務次官(統合幕僚会議議長=参謀総長、より上位)訪中時にはなぜ、格下の副総参謀長に会う慣例になっているhttp://www.nikkei.co.jp/news/past/honbun.cfm?i=AT1E07007%2007032005&g=P3&d=20050307。3月20日アクセス)のだろうか。

 規模的には中露双方から兵員約100名ずつの参加に過ぎませんが、ロシア側からは空挺兵や海軍歩兵等が参加する(注2)ことと、実施場所が山東(Shandong)半島であること、が注目されます。

 (注2)Il-76 輸送機が空挺兵を運び、Tu-95 戦略爆撃機が海上の仮装目標に向けて巡航ミサイルを発射し、Su-27SM 戦闘機が仮装地上部隊を掩護する。

 ロシアが中共による反国家分裂法の採択を支持している(コラム#661)以上、ロシア自身は否定しているものの、この演習は対台湾着上陸作戦を念頭に置いたものである、と言われても仕方ないでしょう(注3)。
 
 (注3)そもそも、ソ連時代からロシアにとって着上陸作戦の優先度は低い。ロシアの海岸線は中共よりはるかに長いが、海軍歩兵の規模は7,500人と中共の1万人の四分の三に過ぎない(Military Balance 2004/2005, IISS, PP106,171)。

 ロシアの新聞Kommersantは、この軍事演習について、ロシア側は当初新疆(Xinjiang)地区で対テロ演習を行うことを提案したのが、中共側が台湾に近い浙江(Zhejiang)省での着上陸演習を反対提案してきたので、ロシア側はいくら何でもとこれを拒否し、最終的に浙江省より800km北の山東半島に落ち着いた、と報じました。
(以上、特に断っていない限りhttp://www.taipeitimes.com/News/front/archives/2005/03/19/2003246858http://www.taipeitimes.com/News/edit/archives/2005/03/19/2003246918http://www.nytimes.com/2005/03/19/international/asia/19china.html?pagewanted=print&position=(いずれも3月20日アクセス)による。)
 ロシアは一方で中共の経済的勃興に警戒心を隠そうとせず、極東地区の石油パイプラインも中共ルートではなく、日本が希望していた日本海ルートに敷設することを決定した(NYタイムス上掲)くらいです。
 中共と日米を両天秤にかけるロシアの火遊びは、ほどほどにしておくのが身のためでしょう。

3 韓国の親中への一層の傾斜

 このように、フランス(コラム#664)もロシアも中共カードをちらつかせていますが、もっとも露骨なのが韓国のノ・ムヒョン政権です。
 3月1日、ノ・ムヒョン大統領は、日本に対し、「われわれは歴史上の真実を明らかにする必要がある。<日本は>謝罪し、反省し、補償すべき事柄があれば補償を行った上で、<われわれと>和解すべきだ」と言い放ちました(http://english.chosun.com/w21data/html/news/200503/200503010013.html。3月1日アクセス)。
次いで同大統領は3月8日、「われわれが同意しない状況の下で、在韓米軍は北東アジア地域の紛争にかかわるべきではない、と私は明確に表明したい」と述べ(http://j.peopledaily.com.cn/2005/03/09/jp20050309_48205.html。3月11日アクセス)、暗に台湾有事における在韓米軍の出動に反対の意を表明しました。
これらの大統領発言は、親中共である過半の韓国世論に迎合して、韓国の外交政策を一層反日反米へと舵を切ったものです。
このようなノ・ムヒョン政権が、竹島条例制定に向けての島根県議会の動きに対して韓国内でわき起こった反日騒動(注4)の沈静化を図るどころか、火に油を注いだのは、確信犯的行動だったと言うべきでしょう。

(注4)二人の韓国人が指を切り取るという抗議行動の激しさゆえに国際メディアも竹島問題を取り上げるところとなった(http://news.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/4347851.stm。3月15日アクセス)が、かかる行動は国際的には逆効果であることに韓国の人々は気づいていない。

3月16日に島根県議会で上記条例が成立すると、ノ・ムヒョン政権は翌17日、1965年の日韓基本条約・付属協定の「範囲外の事案」たる元慰安婦、サハリン(旧樺太)残留者、在韓被爆者被害者について、日本政府が、「人権尊重と人類の普遍的規範の順守という次元で」問題を解決するように求め、事実上日本側に補償を求めるとともに、竹島に関する日本の領有権主張(注5)について「領有権問題ではなく、(韓国の)歴史を否定し、過去の侵略を正当化する行為」と批判し、「断固として対処していく」とする新対日政策を発表した(http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20050317it15.htm。3月18日アクセス)のです。

(注5)竹島問題に関する韓国政府の主張については(http://www.korea.net/News/Issues/issueDetailView.asp?board_no=5727&title=History%20of%20Dokdo。3月19日アクセス)を、日本政府の主張については(http://www.mofa.go.jp/region/asia-paci/takeshima/position.html。3月19日アクセス)を参照。これら英語での両国政府の主張を読む限り、竹島問題に関する両国間の論議はかみ合っておらず、日本政府の及び腰の姿勢が感じとれる。

 このような韓国の親中共・反米反日的スタンスは、何と言うことはない、北朝鮮のかねてからのスタンスと全く同じです。

4 コメント

 現時点の北東アジアにおける、日本・台湾・米国対韓国/北朝鮮・中共・ロシア・フランス(及びドイツ?)の対峙、という構図は、日清戦争直後の日本(含む台湾)・英国対大韓帝国・清・ロシア・フランス・ドイツ、という対峙の構図とそっくりであり、ぞっとするのは私だけではありますまい。
 今後の北東アジアの行方の鍵を握っているのは、当時と同じく朝鮮半島の人々であると私は考えています。
韓国の人々こそ北東アジア現代史における「歴史上の真実」を学んで、できるだけ早く目を覚まして欲しいものです。

<読者A>
中共は、侵略的多民族国家なので、民族自決運動が発展することが、国の統一を妨げることにつながることを恐れ、そのような動きには断固反対するという態度を一貫してとり続けています。そのために、域内の地域をどんどん内地化して一体感を作り出し侵略を既成事実化しています。実際、チベットや内モンゴルへの入植により、在来民族より漢族の人口が多くなってしまっています。反国家分裂法問題で思い出すのは、バングラデシュの独立運動が盛んだったとき、かつての満州国の建国になぞらえて、インド傀儡国家成立阻止のキャンペーンを張り、独立に大反対していたことです。文化大革命の影響がまだ残っていた時代だったので、ソ連を修正主義呼ばわりしながら、民族自決運動の代表のようなバングラデシュ独立に口を極めて反対していたことに、ものすごい違和感を感じたものでした。だから、中共というのは、実に手前勝手な論理を展開する国だ、との印象が強くなって、中共に対する幻想がいっぺんに消えてしまったのでした。中共が、反国家分裂法を採択したのも、台湾が独立を達成すると、それがチベットや内モンゴル、新疆ウイグル自治区にまで波及しかねないことを恐れているからではないでしょうか。

<森岡>
最近、台湾に行く機会がありました。そこで聞いたのですが、最近台湾では「中国の爆弾が降ってくる前に」という言い方が若い人の間でよく使われるそうです。例えば、「ああ、中国の爆弾が降ってくる前にガールフレンドをつくりたいな」など。
 人口、国土ではるかにまさり、軍事予算を毎年二桁成長させ続け、さらに経済成長で国際的影響力も増大している中国から、度重なる脅しを受け続けてきた台湾人の恐怖感、絶望感を示す現象で、同情の念を禁じえません。
 いくら中国が強硬なことをいっても、台湾人の生命を脅かすようなことは出来るわけもないのですが、それでも台湾人が感じる恐怖と日本のそっけない態度から来る孤立感は相当なものと感じました。(日本は今年2月の米国との防衛共同宣言で、そのそっけない態度を改め始めたことは喜ばしいことです。)
 私が知っている年配の台湾人の中で、昨年12月の立法院選挙において国民党に投票した人たちがけっこういますが、その理由は「陳水偏は中国を刺激してばかりで、台湾を危険にさらしている」というものでした。彼らはいずれもいわゆる「本省人」で、国民党による2・28事件やその後の戒厳令下での生活をよく知り、また一年前の総統選挙後の反民主的態度をよく知る人たちです。中国の度重なる恫喝とわざわざ中国を刺激する陳水偏の戦術が、国民党を助けることになったことがよくわかりました。
 そういう意味でも、陳水偏が新民党と組み、台湾「独立」の看板をしばらく下ろして、経済など他の重要項目に集中することは正解だと思います。台湾人が求めているのは「中国に呑み込まれてしまわないこと」であって、「中国からの名目上の完全な分離を果たすこと」ではないのですから。(実質的分離はすでに歴史的事実です)
 ちなみに、春節(陰暦の正月)で台湾・中国間でチャーター便が飛び台湾でも日本でも大きく取り上げられていましたが、中国との統一を望む台湾人などほとんどいないだけに、私の会う台湾人たちはまるで無関心でした。

<読者B>
> (注1)ロシアのバルイェフスキー(Yury Baluyevsky)参謀総長が訪中して中共の梁光烈(Liang
> Guanglie)参謀総長と会って決定した。と
ころで、前から気になっているのだが、日本の防衛事務次官(統合幕僚会議議長=参謀総長、より上位)訪中時にはなぜ、格下の副総参謀長に会う慣例になっているのだろうか。

 ひょっとして自衛隊全体をアメリカ軍の一部、補助軍と見なしているからかも?
 とすると統幕長は方面軍参謀長に該当する?

<読者C>
自衛隊は軍ではないのでしょォー。
日本政府がそうだと言っているのですから。
そもそも長官は親任官ですらないでしょう。
格下で"当然"ではないですか。

私は"それが良い"と言っているのではありません
まず自分の国の立場と自分の国が平素主張していることを冷静に客観的に認めた上で、何か もの申したければ、自らを正した上で論じましょう、と申し上げたいのです。

<太田>
日本が米国の「保護国である」ことや、自衛隊が「軍隊でない」ことと、格違いをカウンターパートとするという外交慣例無視を甘受するかどうかは次元の違う問題です。
 このような外交慣例無視をいったん甘受してしまえば、日本が「独立国」になり、自衛隊が「軍隊」になったとしても、当該国との間でその是正を図ることは容易ではありません。
 いずれにせよ、私の抱いた疑問は単純です。外交慣例上、日本の防衛事務次官は中共の副総参謀長と同格である、ということであろうが、それはなぜなのか、という疑問です。
 中共の国防省/人民解放軍に事務次官相当職がなく、他方で最近日本で副大臣制度が導入されたことが関係していると思われるのですが、防衛庁か外務省の人、教えてくれませんかねえ。

<森岡>
太田さんは、コラム#665を以下のように結んでおられます。

> 現時点の北東アジアにおける、日本・台湾・米国対韓国/北朝鮮・中共・ロシア・フランス(及びドツ?)の対峙、という構図は、日清戦争直後の日本(含む台湾)・英国対大韓帝国・清・ロシア・フランス・ドイツ、という対峙の構図とそっくりであり、その後の歴史を思い出してぞっとするのは私だけではありますまい。
> 今後の北東アジアの行方の鍵を握っているのは、当時と同じく朝鮮半島の人々であると私は考えています。
> 韓国の人々こそ北東アジア現代史における「歴史上の真実」を学んで、できるだけ早く目を覚まして欲しいものです。

最近韓国は、ますます我々をぞっとさせる発言を行っています。

3月31日の朝鮮日報(日本語版)の社説:
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2005/03/31/20050331000085.html
ノ大統領の、「韓国は東アジアのバランサーになる」という発言について。米韓同盟とバランサーとしての韓国は相矛盾しています。

朝鮮日報4月4日「韓中軍事交流を韓日水準に格上げへ」
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2005/04/04/20050404000067.html

米国の反応:
朝鮮日報4月1日「韓米同盟に赤信号? 在韓米軍が強い不満表明」
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2005/04/01/20050401000064.html

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