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太田述正コラム#0667(2005.3.22)
<新悪の枢軸:インド篇(その6)>
(コラムの購読者数が、11日時点の1204名から更に減って1200名になっており、危機的状況が続いています。来月10日に私のホームページ開設四周年がやってきますが、その時点で、購読者数、ホームページへの月間訪問者数、その他を総合的に勘案し、皆さんのご意見も伺いながら、その後のホームページやコラムのあり方を、改廃も含めて抜本的に見直したい、と思っています。)
1 始めに
インドについては、「新悪の枢軸:インド篇」シリーズ(コラム#244??288)、「シバジ騒動」シリーズ(コラム#301??303、317、318)、「インドの政変」シリーズ(コラム#354、355)、とつごう三回取り上げてきていますが、すべて未完です。今回、最初のシリーズをとりあえず完結させることにしました。
2 米ビザ発給拒否
昨年5月にインドで、ヒンズー教原理主義政党であるBJP(Bharatiya Janata Party)が総選挙で敗れて下野し、世俗主義を掲げる国民会議派が政権に復帰したにもかかわらず、米国政府のインドのヒンズー原理主義化に対する警戒感が少しも変わっていないことが明らかになったのが、グジャラート州(Gujarat state)の首相(chief minister)であるモディ(Narendra Modi)氏に対するビザ発給拒否です。
これは、在米インド人との交流目的で渡米すべく外交ビザ発給を申請したモディ氏に対し、米国政府が、要件に合致しないとして外交ビザの発給を拒否しただけでなく、モディ氏に既に与えられていた一般ビザについても、米移民・国籍法(U.S. Immigration and Nationality Act)の条項(注9)を援用して取り消した(注10)ものです。
(注9)section 214 (b):"any government official who was responsible for or directly carried out at any time, particularly severe violations of religious freedom, ineligible for a visa"
(注10)具体的には、2002年のグジャラート州での、大部分がイスラム教徒であるところの1,000名以上(一説には2,000名以上)の人々が虐殺された事件(コラム#285)の際に、州首相であったモディ氏が、虐殺阻止のための措置をとらず事態を拱手傍観した責任を問うた。3月上旬にライス国務長官宛てに米下院議員21名が連名でモディ氏の米入国拒否を求める書簡を送り、3月中旬には二人の米下院議員がモディ氏を非難する決議案を下院に上程したことも、米国政府の決定に影響を与えた、と考えられている。
ちなみにこの事件について、グジャラート州政府は、ヒンズー教徒の巡礼列車にイスラム教徒が放火してヒンズー教徒59名が焼死したことに怒ったヒンズー教徒がイスラム教徒を襲って起きたと主張してきたところ、州政府は、列車「放火」の被疑者は多数拘束したというのに、イスラム教徒虐殺の被疑者は一人も拘束していない。本年1月、インド中央政府の調査団団長は、巡礼列車が燃えたのは中の乗客が料理をしていた火が燃え広がった可能性が高いことを示唆した(http://news.bbc.co.uk/2/hi/south_asia/4180885.stm。1月18日アクセス)。つまりイスラム教徒は、この事件で終始一貫して被害者だった、ということになる。
この米国政府の措置に怒ったヒンズー教徒の暴徒がグジャラート州内のペプシコーラの倉庫を襲って放火したり、ムンバイ等の米総領事館にデモをかけたりする騒ぎになっています。
また、モディ氏が所属するBJPはもとよりですが、インドの中央政府も、米国政府の措置に遺憾の意を表し、再考を促しています。
(以上、特に断っていない限りhttp://www.washingtonpost.com/ac2/wp-dyn/A50269-2005Mar19?language=printer、http://news.bbc.co.uk/2/hi/south_asia/4360259.stm(どちらも3月21日アクセス)、及びhttp://news.bbc.co.uk/2/hi/south_asia/4368501.stm、http://www.atimes.com/atimes/South_Asia/GC22Df01.html(どちらも3月22日アクセス)による。)
これでは米国から見て、国民会議派の新政府もヒンズー原理主義のBJPと同じ穴の狢だ、ということになりかねません。
というより米国は、そのように新政府が反応する可能性は百も承知でビザ発給を拒否した、ということなのでしょう。
3 進行しているヒンズー原理主義化
昨年の総選挙での敗戦直後から、BJP内では、BJPの指導者であり首相であったバジパイ(Atal Bihari Vajpayee)氏が、BJPのヒンズー原理主義を水で薄め、経済中心主義をとったことが敗北した原因だとする声が高まりました。
しかもこの総選挙で、BJPは全般的にはふるわなかったものの、ケララ(Kerala)州やカルナタカ(Karnataka)州で議席を獲得し、初めてインド全体に足掛かりを持つ政党になったことも忘れてはなりません。
(以上、http://www.csmonitor.com/2004/0517/p07s01-wosc.html(2004年5月17日アクセス)による。)
そしてグジャラート州のように、BJPが政権を握っている州では、生徒にヒンズー至上主義が叩き込まれるとともに、ヒットラーの業績を称える(一方でホロコーストへの言及が全くない)教科書が用いられている(アジアタイムス前掲及びCSモニター上掲)(注11)、という憂うべき状況です。
(注11)もともと、BJPの母体である、ヒンズー至上主義団体のRSS(Rashtriya Swayamsevak Sangh。国家志願軍)には民族浄化を叫んだナチスを礼賛した「前科」がある(コラム#285)。
米国ならずとも、インドのヒンズー原理主義化の動向には目が離せませんね。
(完)
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