太田述正コラム#683(2005.4.7)
<パキスタン(その6)> 
 (3)経済
 しかしながら、パキスタン軍とこれを支える米国だけで、パキスタンの空中分解が避けられるものではありません。
 ムシャラフ政権は、さすがにパキスタン軍のスリム化に着手しています。2004年には、陸軍の55万人の兵力が50万人まで削減されました(Military Balance2004/2005 PP155。このほか、海軍に2万4000人、空軍に4万5000人いる)。もっと軍に大なたを振るって財政資金を軍から非軍事インフラ等に振り向けなければなりません。
 幸い、このところ経済は毎年6?8%の高度成長が続いているので、ムシャラフ政権は救われています。2001年には10億ドルに過ぎなかった外貨準備高は、現在130億ドルに達しています。これは、上述したように米国がパキスタンの債務を免除してくれた上、繊維製品等の輸出が好調で、貿易収支の大幅な黒字が続いたためです。ムシャラフ政権による政府資産の民間払い下げも株式市場の活性化をもたらしました。
 もっとも、この経済の活況は、人口の爆発的増加(後述)もあり、貧困層の生活水準向上にはつながらず、貧富の差は拡大する一方です。
 (以上、http://www.nytimes.com/2005/03/23/international/asia/23pakistan.html?pagewanted=print&position=(3月24日アクセス)による。)
 そもそも、この経済の活況は資産インフレによるものであり、バブルがはじけるのはそう遠くない、という分析もあります。しかも、今年に入ってからは、石油価格の高騰等により、貿易収支も赤字に変わっていますし、いつの間にかパキスタンの債務も再び膨れあがってきています。
 何かの拍子に、核実験後の時のような経済制裁をパキスタンがくらうようなことがあれば、ひとたまりもない状況だ、と言っても良いでしょう。
 (以上、http://www.atimes.com/atimes/South_Asia/GD02Df03.html前掲による。)

 (4)教育
 さしあたり財政資金を最も投じなければならないのは教育の分野です。
 国民としての一体感を醸成するためにも、とどまるところを知らない人口爆発(注8)を終わらせるためにも、公教育の充実はパキスタンにとって喫緊の課題です。

  • (注8)このままでは2015年までにはパキスタンの人口は、中国・インド・米国・インドネシアに次いで世界第5位になると予想されている。

 それは同時に、現在なお100万人もの子供達が通っているマドラッサ・・コーランしか教えないためイスラム過激派の培養機関に堕している・・の閉鎖ないしカリキュラムの近代化・無害化につながるのです。
 (以上、http://www.washingtonpost.com/ac2/wp-dyn/A62074-2005Feb3?language=printer(2月6日アクセス)による。)
 パキスタンの本格的な自由・民主主義化の展望が開けるのはそれからのことでしょう。

6 パキスタンを取り上げた理由

 最後に、どうしてパキスタンを取り上げたのか説明しておきましょう。
 世界の八つの核保有国の一つで人口が1億5000万もある国だから、というのが最も単純な理由です。
 しかしそれだけではありません。
 パキスタンは、(欧米の植民地の中ではまだマシな英領植民地であったとはいえ)植民地統治の負の遺産に苦しみ、複雑な民族的・宗教的・地域的構成を抱えて国家としての一体性の維持に腐心し、四方を安全保障上の脅威に取り囲まれ、自由・民主主義の確立と経済発展に向けて七転八倒している発展途上国である、という点で、世界の過半を占める第三世界の国々の典型的な姿をそこに見出すことができるからです。
 皆さんがこのシリーズを通してどのような感想を抱かれたか、大変興味があります。
 恐らく大部分の方は、パキスタン等に比べて日本がいかに恵まれた単純な国か、お分かりになったことと思います。
 しかも、日本は安全保障を米国に丸投げして米国に保護してもらっています。
 とれば、日本の政治家なんぞ、パキスタン等の政治家に比べて何とラクな稼業であることかとお思いになりませんか。
 まずもって、日本は米国の保護国的境遇から離脱し、自らの安全保障に自分の頭で取り組む必要があります。そして、日本は米国に次ぐグローバルパワーとして、できうる限り国連を尊重しつつ、米国を始めとするアングロサクソン諸国と協力して、パキスタンはもとより、世界のあらゆる地域、あらゆる国に関わる情勢の的確な把握に努め、世界のあらゆる地域、あらゆる国の平和・安定・繁栄に貢献していくことが求められます。
 国連安保理常任理事国になるということは、そういうことなのです。
 しかし、日本の政治家を始めとする日本国民に、果たしてその気構えができているのでしょうか。そもそも、そのための国家インフラ(注9)の整備はできるのでしょうか。

  • (注9)戦力化された軍隊の整備・外交機構の意識改革を伴った大拡充・諜報機関の創設・政府から独立した複数の地域研究シンクタンクの整備・大学/大学院における国際関係論/比較政治学/国際経済学研究の質量ともの大拡充、等、そして何よりも日本の真の国際化。

(完)

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