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太田述正コラム#696(2005.4.19)
<風雲急を告げる北東アジア情勢(米英の見方)(その1)>
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<補足>
一週間前の北京の反日行動同様、上海の反日行動もまた官製であったことを前回の<補足>でご説明しましたが、群衆が集会場所に集まってから以降の行動こそ当局が誘導しヤラセたものであったかもしれないけれど、少なくとも群衆は集会場所に自発的に集まったのではないか、という疑り深い読者諸氏へ。
あのファイナンシャルタイムでさえ事実誤認の記事を載せたくらいですから、皆さんが疑うのももっともです。
同紙の記事(http://news.ft.com/cms/s/73eb49a4-af55-11d9-bb33-00000e2511c8.html。4月18日アクセス)は、上海の当局が、デモが起こらないように努力したにもかかわず、あのような大規模な反日行動が起きてしまいショックを受けている、と報じています。北京大学のある外国人教授の、自分の知っている共産党員の学生達は反日行動に一切関与していない、という話まで引用して・・。
しかし、上海の反日行動については、その「企画」段階を含め、丸ごと官製であったことは、英オブザーバー紙の次の記事(http://observer.guardian.co.uk/international/story/0,6903,1461648,00.html。4月17日アクセス)が疑問の余地なく明らかにしています。
「上海では、警察は昨<16>日のデモを認めただけでなく、積極的に奨励した。<前日の>木曜の午後4時30分に、市の治安当局から、「みなさん、法に触れない形で愛国の念を表明しましょう」というメールが上海の携帯電話に一斉に送りつけられた。このメールを受け取った数百万の人々の多くは、これはデモに参加していいよ、という意味だと理解した。」
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1 始めに
アングロサクソン、とりわけ米英のメディア等が、中共での今次反日行動をどう見ているのかをご紹介しましょう。
2 米国
米国のメディア等は全般的に申し上げて、今次反日行動が官製であるという前提で、当事者意識を持って事態を憂慮している、という感じです。
米国の北京の大使館は、中共在留の米国市民に対し、いつ何時反日行動が外国人一般に対する行動に切り替えられるか分かったものではない、と注意を喚起しました(http://www.nytimes.com/2005/04/16/international/asia/16china.html?pagewanted=print&position=。4月16日アクセス)。
また、米議会が14日に開いた公聴会では、「次は米国と台湾が対象になりかねない」という意見が出ています(http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/20050418AT2M1700217042005.html。4月18日アクセス)。
米国では、今次反日行動の真のねらいは台湾問題で日米台に圧力をかけるところにある、という私見に沿った見方が浮上しつつある、といったところでしょうか。
いずれにせよ、このような中共政府の手法については、冷ややかな論評が一般的です。
NYタイムスは、デモ隊が掲げているスローガンが、一世紀前と同じ、「小日本」(注1)・「犬」・「支那よ蹶起せよ」・「日貨排斥」、といった古色蒼然としたものであることを嗤った記事(http://www.nytimes.com/2005/04/17/international/asia/17china.html?pagewanted=print&position=。4月17日アクセス(コラム#695))を載せましたし、ワシントンポストは、排日で支那民衆を煽って権力を掌握した、中国共産党の戦前のやり口と同じだ、という記事(http://www.washingtonpost.com/ac2/wp-dyn/A60258-2005Apr17?language=printer。4月18日アクセス)を掲載しました。
- (注1)戦前の日本人の平均身長は、支那人より低かった。
なお、ロサンゼルスタイムスは、今次反日行動が、民衆の反政府行動、あるいは自由・民主主義化を求める行動に転化する虞を中共政府が過小評価しているのではないか、と指摘した記事http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-china16apr16,0,7505980,print.story?coll=la-home-headlines。4月17日アクセス(コラム#695))を掲載しています。
3 英国
(1)始めに
英国では、自分達は当事者ではない、ということでしょう、政府関係者から特段のコメントは聞こえてきませんし、メディアは全般的に良く言えば自由闊達、悪く言えば無責任な報道ぶりです。改めて、英国の朝野が北東アジアへの関心を失ってしまった、ということを痛感します。
(2)5.4運動の再生起
ガーディアンの記事A(http://www.guardian.co.uk/china/story/0,7369,1460366,00.html。4月15日アクセス)は、1919年の5.4運動(注2)と今次反日行動とを要旨次のように対比します。
- (注2)第一次世界大戦の敗戦国となったドイツの租界地、青島が支那に返還されず、戦争中に占領していた日本の租界地になることを学生達が憤って始まった(http://japan.qingdaonews.com/html/news20031222021756.html。4月18日アクセス)。
5.4運動は、支那の抱える弱さ(清崩壊後、列国の半植民地と化していた支那の混乱状態)を背景として、大学生達が中心となって始めた反日行動であったのに対し、今回も、支那の抱える弱さ(共産党一党独裁下の経済の高度成長に伴う支那の様々な社会問題)を背景として、大学生達が中心となって始めた反日行動だ、という点で両者は似ている。
他方、違いは、5.4運動の頃は日本は国力が上向きで支那は停滞していたのに対し現在はその逆であるところと、5.4運動は学生等の自発的な街頭行動であったのに対し今回の反日行動は社会問題への憤懣のガス抜きが目的の官製の街頭行動であるところだ。
いずれにせよ、5.4運動以後の支那は一層混迷の度合いを深めて行ったところ、今回の反日行動は反政府行動に転化して支那が収拾がつかなくなる危険性をはらんでいる。
(3)支那における人種差別意識の産物
ガーディアンの記事B(http://www.guardian.co.uk/china/story/0,7369,1461260,00.html。4月16日アクセス(コラム#694))は、直接今次反日行動に言及しているわけではありませんが、漢人の人種差別意識が、ライス米国務長官訪中時に顕在化したことに注目しています(コラム#694)。
黒人女性たる米国人ライス長官が、反国家分裂法に反対、日本の安保理常任理事国入りに賛成、であるとの意を表したからからこそ人種差別意識が顕在化した、というのがこの記事の主旨です。
この記事の内容を少し丁寧にパラフレーズしつつ、今次反日行動と結びつけると次のようになります。
漢人は、かねてより漢人(中華)文明こそ唯一至高の文明であり、従って自分達が最高の人種で四囲の住民はみんな野蛮人だ思ってきた。この差別意識は、黒人の存在を知るに至ってますます強固なものになった。
ところが、白人が高度の経済力・技術力・軍事力をひっさげて支那までやってくるようになると、差別意識は逆にコンプレックスへと変わった。しかも東夷の一小国日本に支那が席巻されるに及んで、漢人は日本人にもコンプレックスを抱くに至った。
しかし、昨今の経済高度成長によって漢人がかつて抱いていた差別意識が蘇り顕在化し始めた。その最初の被害者が、かつての化外の地に住む台湾人であり(反国家分裂法!)、次が台湾や日本を擁護している白人覇権国米国の黒人女性たるライス国務長官であり(悪罵!)、三番目が白人覇権国米国の従僕であり、再び大きな顔をし始めたように見えるとともに化外の地台湾にまたも手を出しつつあるように見える日本人(反日行動!)であったのは不思議でも何でもない。
となれば、顕在化しつつある漢人の差別意識の次の被害者は、論理的に言って白人、ということにならざるをえないだろう。
(続く)
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