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太田述正コラム#7242005.5.16

<イラク不穏分子という謎>

 (前回のコラム#723に(注3)を挿入する等、手を加えてHPの時事コラム欄に再掲載してあります。)

1 始めに

 イラクでは、不穏分子によるスンニ派地区でのゲリラ活動や自爆テロが延々と続いています。

 私自身、一体本当のところどうなっているのか、良く分からない、というもどかしい思いをずっと抱いてきました。

 最近になって、既存の理論では全く説明のつかない、人類史上初の社会現象にわれわれは遭遇しているのではないか、という記事http://www.nytimes.com/2005/05/15/weekinreview/15bennet.html?8hpib=&pagewanted=print(5月16日アクセス)。以下3に至るまで、特に断っていない限り、この記事に拠る)NYタイムス電子版に掲載されました。

 出るべくして出た記事だ、と言えるでしょう。

2 事実が把握できない

 そもそも、ある社会現象を理論的に説明するためには、その社会現象に係る事実をできるだけ的確に把握する必要がありますが、イラクで不穏分子の活動が始まってから二年も経つというのに、誰にもこれができていないのです。不穏分子側がゲリラ・テロ活動の「戦果」以外、何も語ろうとせず、また、米軍等やイラク政府が不穏分子側にスパイを殆ど送り込めていないためです。

 ですから、不穏分子やそのシンパの員数についてさえ確たることは言えない状況が続いています。むろん、不穏分子の個々のグループごとの員数など、全く憶測の域を超えていません(注)。

 (注)この六ヶ月間に米軍等の掃蕩作戦等で死亡した外国人不穏分子のうち、サウディ人が61%を占め、また自爆テロ決行者についても、その70%をサウディ人が占めている、という調査結果http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2005/05/14/AR2005051401270_pf.html5月15日アクセス)は、例外的に「事実」が把握されたケースだ。

 つい最近も、ワシントンポストが、今や外国人不穏分子がイラクのテロ・ゲリラ活動の中心になった、とさも自信ありげに報道した(http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2005/05/08/AR2005050800838_pf.html。5月9日アクセス)かと思ったら、ロサンゼルスタイムスがこれを真っ向から否定する(http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-bombs12may12,1,6606881,print.story?coll=la-headlines-world。5月13日アクセス)、ということがありました。

 外国人不穏分子とイラク人の不穏分子とがいかなる関係にあるのかについても、本当のところはよく分からない、ということのようです。

 ただ、不穏分子の攻撃の矛先が米軍等からイラク人に移ってきていることから、彼らが敵対しているのは、米国等によるイラクの「占領」の継続よりむしろ、イラクに正統政府が樹立されることであることが明らかになりつつある、とは言えそうです。

(以上、http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2005/05/14/AR2005051400711_pf.html(5月15日アクセス)による。)

3 支離滅裂なイラク不穏分子

 イラク不穏分子は、民衆の間で支持の輪を広げようとしたり、国際的な共感を得ようとしたり、「米国等の外国勢力の追放」以外のまともな政策を訴えたり、統一的なイデオロギーないし大義を掲げたり、といった努力を全くと言って良いほど行っていません。カリスマ性のある単一の指導者も出現していませんし、政府や政党的なものを作ろうともしていませんし、解放区をつくろうとすらしていません。

 外国軍を挑発して武力を過剰に行使させ、民衆に犠牲者を輩出させ、外国軍への反感を募らせる、という古典的なゲリラ・テロの手法を用いるどころか、(「傀儡」政府の要員を襲撃するだけでなく、)民衆を自分達自身で無差別に殺戮している、という有様です。

 もとより、不穏分子の殆どはスンニ派であり、殺戮されている民衆の殆どはシーア派かクルド人なので、スンニ派とシーア派・クルド人連合との間で内戦を引き起こすことが不穏分子のねらいだ、と見ることもできないわけではありませんが、そんな内戦が本当に起これば、数において圧倒的に少数であるスンニ派が敗北することは日の目を見るより明らかなのですから、説明がつきません。

 そもそも不穏分子は、米軍等・政府・シーア派・クルド人を各個撃破すべきところ、全部一度に敵に回して戦っており、兵法のイロハをもわきまえぬ愚か者、という誹りを免れません。

 こんな支離滅裂なゲリラ・テロ活動はこれまでの人類史上、例を見ないものです。

 これだけつかみどころがなくては、二年くらいではなかなかこれら不穏分子を制圧できないのも当たり前なのかもしれません。

 救いは、こんな不穏分子が「勝利」することだけは絶対にありえない、ということです。

4 感想

 イラク不穏分子の理論的解明は、今後の天才的社会科学者におまかせするとして、イラクにおいて、このようなヒドラ的なゲリラ・テロ活動を可能にしたのがインターネットの普及である可能性は恐らく否定できないでしょう。

 もう一つ気になるのは、上記NYタイムス記事が、現在のイラクの状況と1930年代の支那や1940年代のベトナムとの類似性を示唆していることです。

 1940年代のベトナムにも日本が関わっていますが、1930年代の支那においては、現在のイラクのような、民主的に選ばれた政府が存在しないという状況下で、現在の米国のように抜きん出た国力を持ち合わせていなかった日本が、秩序を確立しようとしたわけですから、当時の日本の苦労が改めてしのばれますね。

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