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太田述正コラム#735(2005.5.27)
<風雲急を告げる北東アジア情勢(その16)>
(3)ねらいの検証
小泉首相が靖国神社参拝をしなければ、中共は日本政府に言うことを聞かせた、ということになり、逆に参拝をすれば、韓国等と日本の間まで一層険悪化することになりるわけで、どちらにころんでも中共の胡錦涛政権にとってマイナスにはなりません。
しかし、中共にとってどちらがよりプラスかと言ったら、問題なく小泉首相が参拝をしてくれる方でしょう。上記メリットがあるほか、日本国内の親中共派と嫌中共派との抗争が激化し、より中共が画策する余地が増大するからです。
小泉首相が、他人から反対されればされるほど自説に固執する性格であることは、人治主義の国で、人物観察に長けていることが成功の要である中共の幹部クラス以上の諸氏にとっては、常識でしょう。
ですからその限りにおいて、胡錦涛政権にしてみれば、小泉首相は、まことに操作しやすい人物に映っているに違いありません。
さて、5月19日は愛知万博の中国ナショナルデーであり、この日の万博訪問を名目にした呉副首相の訪日(http://www.xinhua.jp/news/free/10031934.html。5月26日アクセス)が先に決まっていました。他方、自民党と公明党の両幹事長の中共訪問は、元々5月の大型連休中に予定されていたところ、中共側からの要請で延期され(http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/seitou/news/20050422k0000m010078000c.html。5月26日アクセス)、その後中共側と調整の結果、呉副首相訪日日程と重なる時期に行われることになったものです。
ですから、北京での胡錦涛と両幹事長との会談が東京での呉副首相と小泉首相との会談の前日の22日の日曜日に設定されたのは、かねてより胡錦涛らが計画していた、呉副首相の小泉首相との会談の直前キャンセル(恐らく呉副首相は事前には知らされていなかった思われる)を予定通り実施するかどうかの最終判断を胡錦涛自身が行うためだった、と考えるのが自然です。
そうだとすると、胡錦涛としては、会いたかったのは冬柴公明党幹事長の方であって、武部自民党幹事長の方はどうでもよかった、ということになりそうです(注27)。
(注27)冬柴氏は公明党のナンバーツー(創価学会のことはここでは捨象する)だが、武部氏は、自民党の有力者でも何でもない。しかも、武部氏の所属する山崎派のボスの山崎氏・・小泉首相の気心の一番分かっている人物・・が今月上旬中共を訪問し、中共対外連絡部長等と会談している(http://www.nikkei.co.jp/china/news/20050506c1e0600h06.html。5月26日アクセス)。今さら武部氏の話を聞くつもりなど、中共側にはさらさらなかったはずだ。
つまり胡錦涛は、呉副首相と小泉首相との会談をキャンセルすることによって、自民党、就中小泉政権と公明党との間に楔を打ち込むことができるかどうかを、直接自ら冬柴氏に会って、公明党の感触を探ることを通じて、最終的な確認をしたのではないでしょうか。
郵政民営化問題で自民党内が大荒れであること、民主党の現執行部が、かねてより小泉首相の靖国神社参拝に反対していること(http://www.seisaku-center.net/archives/yasukuni/okada.htm、http://www.sankei.co.jp/news/050518/sei031.htm(どちらも5月26日アクセス))、更にたまたま、前日の21日に加藤紘一元自民党幹事長が同様の発言を行ったこと(http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20050521i312.htm。5月26日アクセス)、等を踏まえ、胡錦涛らは、新手の反日行動に出ることによって、日本の政界等に一石を投じ、近い将来に「期待」されるところの小泉首相の靖国神社参拝を起爆剤として、日本において政界再編による親中共政権・・台湾問題に介入しない政権・・の誕生が期待できると考えたのではないか、と私は見ているのです。
もとより胡錦涛政権としては、二度にわたる反日行動という謀略を実行した結果、日中の経済関係が過度に冷却化することは好ましくないことから、日本の経済界で小泉首相の靖国神社参拝に批判的な声が強い(注28)ことも考慮しつつ、呉副首相には、わざわざ経団連との日程は消化させ、日本の経済界にエールを送ってから本国に召還したわけです。
(注28)北城恪太郎・日本IBM会長(経済同友会代表幹事)や小林陽太郎・富士ゼロックス会長(経済同友会前代表幹事)らが昨年、反対を表明した(http://www.fpcj.jp/j/mres/viewsfromjapan/vfj_11.html、http://www.doyukai.or.jp/chairmansmsg/pressconf/2004/050118a.html(どちらも5月26日アクセス)。
(続く)
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