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太田述正コラム#780(2005.7.6)
<インドとは何か(その3)>
3 インドの現状
(1)始めに
センが、独立後の自由・民主主義国家インドでは、英領インド帝国時代と違って餓死は根絶されたけれど、英領インド時代に引き続き、基礎教育は無視されつづけてきた、と指摘していることを、以前(コラム#211で)ご紹介しました。また、ヴァルマが言うところのインド人の自由・民主主義観のおぞましさについては、ご紹介したばかりです。
その結果。現在のインドがいかなる状況にあるかを押さえておきましょう。
制度としての自由・民主主義が機能していることが、必ずしも主権者たる国民一般に幸せをもたらさないという事実を、インドはわれわれにつきつけています。
(2)インドの現状
ア 政治の腐敗
この点は、以前(コラム#286で)述べたところに譲ります。
イ 教育の荒廃
この点も以前(コラム#286で)触れたことがありますが、この際、更に踏み込んでご紹介することにしましょう。
昨年、米ハーバード大学が実施した調査によれば、インドの公立小学校の教師の欠勤率は25%に達しています。先進国である米国の1993年から94年にかけての数字は5?6%ですし、発展途上国でもお隣のバングラデシュは16%、ザンビアは17%であり、数字が得られる国でインドよりひどいの27%のはウガンダくらいです。
教師は有給休暇の権利は時期にお構いなしにすべて行使した上に、更にヤミ休暇をとっており、学校はその事実を記録に残しませんし、酔っぱらって授業をしたり、生徒の名前を全く覚えようともしない教師などざらです。しかし、どんな教師でも首になることはありませんし、異動もほとんどありません。選挙の時の教員組合の集票力と投票所(となる学校)を管理するのが教師であることから、政治家は教師に対しては腫れ物に触る態度です。
大部分の校舎で碌に掃除がなされないため、汚水が所々にたまり、小便の臭いが立ちこめ、壁はどす黒く汚れています。学級編成は一クラス50人を超え、薄汚れた子供達であふれていて、二シフト授業もめずらしくありません。ろくな教材もありません。ですから、教師も子供達も学校がつらいし勉強に熱も入りません。
ですから、少しでもカネのある親は子供を、田舎でも次第に増えつつある私立の学校に入れようとします。
以上の当然の帰結は以下のとおりです。
ユネスコの最新の報告書によれば、インドは実に世界の文盲人口の34%を占めています。ちなみに、インドより人口の多い中共は11%しか占めていません(注6)。
(以上、http://www.csmonitor.com/2004/1220/p01s03-wosc.html(2004年12月20日アクセス)による。)
(注6)インドでは2001年現在、文盲率が34.62 %。もっとも、独立した直後の1951年には識字率が18.33%に過ぎなかったことを思えば、50年間でそれが65.38%まで上昇したのだから、前進はしてきている(http://www.atimes.com/atimes/South_Asia/FD24Df04.html。4月24日アクセス)。問題は文盲の解消に、時間がかかりすぎていることだ。
もっとも、インドでは地域差が大きい。一番識字率が高い、インド最南端のケララ(Kerala)州では、識字率が91%だ。ケララ州の一人当たり所得は265米ドルに過ぎず、インドで最も貧しい州の一つだが、19世紀前半以来のこの地域の支配者やキリスト教宣教師(ケララ州にはキリスト教徒が多い)による教育重視の伝統と、独立後の農地改革の成功によって、社会の最底辺の人々も子供達に教育を受けさせる経費を捻出できるようになったこと、現在でもケララ州の教育予算は予算全体の37%も占めていること、等が高い識字率をもたらした。ケララ州の貧しさや失業率の高さは解消できていないが、ケララ州の人々は他州や中東や米国に出稼ぎに行ったり移住したりして活躍している。(http://www.csmonitor.com/2005/0517/p12s01-legn.html。5月17日アクセス)
また、6歳から14歳までの2億人の子供達のうち、5,900万人が学校に行っていません。そのうち3,500万人が女子です。
ちなみに、2000?2001年の小学一年生から二年生にかけてのドロップアウト率は40.67%です。1990?1991年は42.6%でしたから、ほんのちょっとしか改善されていません。
(以上、アジアタイムス上掲による。)
(続く)
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