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太田述正コラム#792(2005.7.14)
<ロンドン自爆テロの衝撃>
1 始めに
「欧州における歴史的瞬間」シリーズの中でロンドン同時多発テロ事件を扱ってきましたが、英国で生まれ育ったイスラム教徒たる英国人による自爆テロの可能性が高いことが明らかになり、英国の朝野は大きな衝撃を受けています。
それがいかなる衝撃であるかについて、本論とは別個に取り上げることにしました。
なお、事実関係は、日本のマスコミでもかなり詳細に紹介されていることから、ここでは繰り返しません。
2 英国における自爆テロ
これは、英国のみならず、EU諸国で決行された最初の自爆テロです。
昨年のマドリッド列車爆破事件の時は、爆弾は携帯電話で遠隔爆破されたのであり、犯人達のうち自爆した者がありましたが、それは捜査当局に追いつめられたためでした。
(以上http://www.guardian.co.uk/attackonlondon/story/0,16132,1527416,00.html。7月13日アクセス(以下特に断っていない限り同じ))
考えてみると、今まで欧州や英国で自爆テロがなかったことの方が不思議です。
イスラム教徒による自爆テロは1983年にレバノンでヒズボラ(Hezbollah)(コラム#97、323、656)が実行して以来、中東やアジアで猖獗を極めているのですから(http://www.nytimes.com/2005/07/13/international/europe/13suicide.html?pagewanted=print)(注1)。
(注1)イスラエルとその占領地域ではこの10年間に200回以上、イラクでは2003年のイラク侵攻以来500回以上の自爆テロが起こっている。
3 英国で生まれ育った英国人によるテロ
実行犯は四人ともイスラム教徒で、パキスタン系ですが、英国で生まれ育った英国人(注2)であり、中東で軍事訓練を受けたりマドラッサのようなイスラム学校で学んだ経験などなさそうです。しかも、彼らは全員貧困家庭の出身でもありません(http://www.guardian.co.uk/attackonlondon/story/0,16132,1527416,00.html上掲)。
(注2)英国で生まれ育った英国人によって決行された自爆テロは2003年4月にテルアビブで起こった一件しかない。有名な未遂としては、2002年12月にレイド(Richard Reid)が靴底に仕込んだ爆弾でパリからマイアミ行きの飛行機を爆破しようとした事件がある。また、自爆テロではないが、英国で生まれ育った英国人がパキスタンでの2002年1月のユダヤ系米国人ジャーナリストのパール(Daniel Pearl)氏の誘拐・殺害の黒幕となった事件も有名だ。(http://www.guardian.co.uk/attackonlondon/story/0,16132,1527359,00.html)
4 衝撃
(1)自爆テロの衝撃
自爆テロ犯ほどたちの悪い犯罪者はありません。
逮捕されることも死ぬことも恐れないのでは、抑止することも事前に逮捕することも困難だからです。
例えば、持ち主が不明な包みとか鞄に注意しても仕方がないことになります。犯人は爆弾を身につけているのですから。
今回、実行犯4人全員の身分証明書等が現場から発見されており、実行犯達が、自分達の名前等が明らかになり、歴史に刻まれることを願って、わざわざ携行して犯行に及んだと考えられています。
(以上、http://www.guardian.co.uk/attackonlondon/comment/story/0,16141,1527419,00.htmlによる。)
しかも、自爆テロは誰でも何の訓練もなく実行できる、という点でもたちが悪いことこの上なしです(注3)。
(注3)これに比べると、2001年の9.11同時多発テロの犯行は、旅客機を4機もハイジャックしてそれを操縦してそれぞれ違った建物に衝突させた(1機は途中で墜落)わけであり、実行犯達は死ぬ気であった点こそ同じだが、大変な手間とカネがかかっている(NYタイムス上掲)。
(2) 英国で生まれ育った英国人によるテロの衝撃
ア Hate Crime 頻発へ?
事件が起きてから実行犯についての報道がなされるまでに、既に英国ではアジア系の人々(イスラム教徒でない人も含む)に対する嫌がらせや攻撃(Hate crime)が、殺人一件を含め300件も発生しており、実行犯が英国で生まれ育った英国人たるイスラム教徒であることが判明した現在、アジア系の人々に対する嫌がらせや攻撃がエスカレートすることは必至だ、と懸念されています(http://www.guardian.co.uk/attackonlondon/story/0,16132,1527336,00.html)。
イ 自爆テロ頻発へ?
英国にはイスラム教徒が160万もおり(http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-muslims9jul09,1,5095054,print.story?coll=la-headlines-world。7月10日アクセス)、同様の自爆テロが今後とも頻発する可能性を誰も否定できなくなってしまいました(http://www.guardian.co.uk/attackonlondon/comment/story/0,16141,1527419,00.html上掲)(注4)。
(注4)今回の同時多発テロの犯行声明を出した二番目のアルカーイダ系グループであるAbu Hafs al-Masri Brigadesは、5月29日にインターネット・サイトに、欧州に潜んでいる(sleeper cellたる)イスラム戦士(mujahedeen)に対し、計画に従って攻撃を開始せよ、というアジ文章を掲示している(http://www.nytimes.com/2005/07/13/international/europe/13bombings.html?ei=5094&en=b1a60ab4be61dd19&hp=&ex=1121313600&partner=homepage&pagewanted=printI)。
いずれにせよ、4人の実行犯の背後にイデオローグや企画者や爆弾専門家がいるはずであり、既に海外に逃亡している可能性もありますが、これら黒幕を早急に逮捕するまでは、英国の人々は気が休まることはないでしょう(http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-britbombs13jul13,0,7694620,print.story?coll=la-home-headlines)。
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