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太田述正コラム#848(2005.9.2)
<イラク戦争の前例探し(その2)>
(2)米独立戦争
ア 不適切ななぞらえ方
以下は、米有識者の議論ということになりますが、何がなくても米国独立ないし米独立戦争(1775?81年)は、米国人にとっては永遠のテーマであり、イラク戦争を米独立戦争になぞらえるのは、不思議ではありません。
ブッシュ米大統領は、今年7月4日の独立記念日に、イラクでは正視できないような暴力的事態がうち続いているけれど、米独率戦争当時の先人が艱難辛苦を堪え忍び、戦争の勝利を導いたことを思いだそう、と演説しました(http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2005/07/04/AR2005070400925_pf.html。8月26日アクセス)。
しかし、このブッシュのなぞらえ方はおかしいと言わざるをえません。
私は以前(コラム#511で)、イラク戦争を米独立戦争になぞらえて次のように指摘しています。
「まず<、米独立戦争とイラク戦争の>両者は、その時点における世界の覇権国であるところの世俗的な外来勢力と宗教原理主義的な地元過激派勢力との衝突である点が共通しています。その上で、前者では外来勢力が敗れたけれど、後者では地元過激派勢力が勝つ可能性は皆無であることが容易に推察できます。後者においては、地元過激派勢力側に既に正規軍は壊滅して存在せず、外来勢力が地元過激派勢力を兵力・装備・練度において圧倒的に上回っており・・・、補給面でも外来勢力は、少なくとも物資に関しては全く問題がないのに対し、地元過激派勢力には著しい制約があるからです。しかも、前者の場合とは異なり、後者では地元過激派勢力は基本的に地元の一部地域(スンニ派地区)しか「代表」していないからです。」・・と。
つまり、米国(英国の北米植民地)の立場が、独立戦争の時とイラク戦争の時とでは正反対なのですから、ブッシュが米国人を鼓舞しようと思ったら、米独立戦争の時には我々叛乱側が勝利したが、イラク戦争では彼ら叛乱側はかくかくしかじかの理由で必ず敗北する、と言わなければいけなかったのです。
イ もう一つのなぞらえ方
もう一つの方法は、イラク戦争を、米国建国の全過程・・独立戦争開始(1775年)から憲法制定(1788年)を経て正式な米独立政府発足(ワシントン大統領が就任した1789年)まで、と対比させることです。
初めてこのなぞらえ方をしたのはラムズフェルト米国防長官です。
2003年5月、フセイン政権打倒から数週間しか経っていない段階で、当時のイラクの「混沌と混乱・犯罪と略奪・民衆の不満」について追求されたラムズフェルトは、米独立政府発足まで戦争が終わってから、8年もの混乱の日々を要したことを挙げて、釈明しました。
今振り返ってみると、当時まだ戦争は終わっていなかったわけですが、この点は目をつぶることにしましょう。
これをパクったのでしょう、今年5月にブッシュが同じなぞらえ方をした上で、「歴史上のいかなる国(nation)も、専制(tyranny)から自由な社会への移行には試行錯誤や失敗がつきものだ。(でも、イラクでも最終的にはきっとうまくいく。)」と述べています。
このなぞらえ方は、先に触れたブッシュのなぞらえ方よりはスマートだと思いますが、フラストレーションのたまっているリベラル系の有識者から手厳しい批判(注4)を受けています。
(以上、http://slate.msn.com/id/2124691/(8月20日アクセス)及びhttp://www.latimes.com/news/opinion/commentary/la-oe-ellis19aug19,0,3497974,print.story?coll=la-news-comment-opinions(8月20日アクセス)
による。)
(注4)一、イラクでは中央政府と地方との間の権力の配分が問題になっているが、米建国時には地方(州)制度が独立戦争前から確立していたのに対し、イラクではクルド人地区を除き、地方制度は確立していない。二、米建国時の指導者達は独立戦争を戦った戦友の間柄だったから、司令官であったワシントンを軸にして互いの考え方の違いを克服できたが、イラクの場合、フセインを倒したのは外国軍であり、指導者の間に何の紐帯もない。三、米建国時は、現在のイラクのような深刻な地域間の対立はなかった。四、そもそも、米国の建国の指導者達間の考え方の違いは、イスラム至上主義を唱える者を含む現在のイラクの指導者達の間の考え方の違いほど大きくなかった。五、米建国時には、指導者達の間でコンセンサスができるまで、いくらでも建国の時期を先延ばしすることができたが、現在のイラクの場合は、米国の事情もあり、そうはいかない。六、米建国時にもシェイの叛乱(Shays' Rebellion。1786?87年。於マサチューセッツ)等が起こっているが、現在のイラクの叛乱とは規模においても期間においても比較にならない。
(続く)
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