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太田述正コラム#8532005.9.6

<カトリーナ米国を直撃す(続)(その1)>

1 より根源的な批判へ

 ニュー・オーリーンズに第三世界が現出したことは、より根源的な疑問の声を英米で生んでいます。

 どうして米国は、今次大災害に際し、もっと迅速かつ適切な対応がとれなかったのか、そして、そもそも、どうして黒人ないし貧しい人々ばかりが大きな被害を被ったのか、という疑問の声です。

 前者から出てきたのが、米国の国家体制が時代遅れになっているのではないか、という懸念であり、後者から出てきたのが、レーガン政権以降米共和党政権が追求してきた小さい政府という考え方や先の大戦以降歴代の米政権が追求してきた対外関与政策は誤っていたのではないか、という懸念です。

 以下、これらについて、ご紹介することにしましょう。

2 時代遅れの米国家体制?

 今次大災害に際して迅速かつ適切な対応ができなかったのは、第一に、米国が連邦制をとっている(合衆国ならぬ合州国である)ことから、連邦が州の頭越しにニューオーリンズの救援・復旧活動を行えないからではないか(注1)、第二に、(国務省と国防省はともかくとして、)民間企業に比べて人気が低く給料も安いので公務員に人材が集まらない上に、官僚機構の上澄み部分が大統領や州知事等が替わるごとに総入れ替えになることから、官僚機構が機能していないためではないか(注2)、という懸念が投げかけられています。

 (以上、http://www.guardian.co.uk/katrina/story/0,16441,1562733,00.htmlhttp://slate.msn.com/id/2125282/、(http://www.guardian.co.uk/katrina/story/0,16441,1562882,00.html(いずれも9月5日アクセス)による。)

 (注1)災害救援・復旧作業そっちのけで連邦政府とルイジアナ州が権限争いを演じたり、連邦政府批判に業を煮やした連邦政府側が、州政府や市政府の対応を批判したり、州知事を名指しで批判したりしていることが、このような懸念を募らせている。

 (注29.11同時多発テロを契機に、災害対策のFEMAFederal Emergency Management Agency も傘下に収めて国家安全保障省(Homeland Security Department)が創設されたにもかかわらず、今回初動が遅れた等対応が不適切だったことが背景にある。災害の時に機能しないのなら、テロの時にも機能しないはずだ、というわけだ。

 ご記憶の方があるかもしれませんが、この二点を始めとして、米国の国家体制が時代遅れであることについては、私が以前(コラム#304で)指摘したところです。

 しかし、懸念が米国というよりは英国から出ているところを見ると、今後米国で本格的な国家体制見直し論議に発展する可能性はほとんどなさそうです。

3 誤っていた内外政策?

 (1)小さな政府

 25年前にレーガン政権が成立すると、レーガンは、「政府はわれわれの直面している諸問題の解決には役に立たない。むしろ、政府こそが諸問題の原因なのだ。」と宣言し、爾来、米国の歴代政権は、ひたすら米国の伝統である小さい政府への回帰(注3)をめざしてきました。

 (注3)ただし、軍が縮小されなかった点では米国のかつての小さな政府とは異なる。

 1930年代のフランクリン・ローズベルト大統領のニューディールから、ジョンソン大統領の偉大な社会までの大きい政府の考え方が捨て去られて久しいわけです。

 そして、ブッシュ政権が、極端なまでの小さな政府志向であることは良く知られているところです。

 しかし、今回の大災害を象徴するニューオーリンズの冠水において、黒人や貧しい人々ばかりが被害者になったのは、米国の社会保障制度が不十分であるためであり、また、この冠水は、堤防の強化を怠った(注4)ことが原因であることから、それらの反省の上に立って、大きい政府路線への再転換を求める米国民の世論が高まり、政策の大転換がなされる可能性が取り沙汰され始めています。

 (注4)米陸軍工兵軍団(The Army Corps of Engineers)は、昨年、ルイジアナ州政府と共同して、ニューオーリーンズの堤防強化等災害対策のための経費1億500万ドルを要求したが、連邦政府は4,000万ドルしか与えなかった。

 ちなみに、この軍団は、米国の水利・水防の企画・整備・管理、陸空軍施設の建設等を任務としており、軍人650名、文官34,600名からなる「部隊」だ(http://www.usace.army.mil/who/#Organized。9月5日アクセス)。民営化がアングロサクソン流であり、時代の流れでもあると思いこんでいるむきには驚きかもしれない。

 というのも、ニューディールが始まった契機の一つが、奇しくもニューオーリーンズの前回の洪水、すなわち1927年の洪水の際、連邦政府が(やはり黒人や貧しい人々ばかりだった)被災者への食糧や避難所の提供に一切カネを出さなかったことに怒った米国世論が、連邦政府に対し弱者支援を求めるようになったことだった、という史実(http://www.nytimes.com/2005/09/01/opinion/01brooks.html。9月2日アクセス)(注5)があるからです。

(以上、特に断っていない限りhttp://www.guardian.co.uk/katrina/story/0,16441,1562901,00.htmlhttp://www.guardian.co.uk/katrina/story/0,16441,1562737,00.html(どちらも9月5日アクセス)による。)

 (注5)当時米軍は、この洪水に際して赤十字に貸し出したテントの使用料まで赤十字に請求した。ニューディール以前の米国がいかに小さな政府志向であったかが分かる。

(続く)

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