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太田述正コラム#8632005.9.12

<中共の社会状況(その1)>

1 始めに

コラム#861(中共に変化の兆し?)で、中共に政治的自由ないし人権面で前進の兆しが見える、と指摘したところですが、それは、胡錦涛や温家宝が、中共党内での権力を完全に掌握した現在、もともとやりたかったことを実行に移そうとしているということなのか、はたまた中共における激化する社会矛盾へのやむをえざる対応なのか、皆さんと一緒に考えてみたい、と思います。

2 激化する社会矛盾

 (1)公害の蔓延

 中共の公害のひどさについては、以前にも(コラム#348等で)触れたところです。

 大都市においては、住民が豊かになって空気や水の質への関心が高まったことや、2008年の北京オリンピックを控えていることもあり、中共当局は、公害を垂れ流している企業を田舎に移転させる等、弥縫策的な公害緩和策を講じています。

 しかし、この結果、中共の人口の三分の二が住む田舎は、一層公害で苦しめられるに至っています。

 結局、公害で苦しむ人の数は減るどころか増える一方であり、中共では空気の汚染によって引き起こされた呼吸器系の疾患で毎年30万人の死者が出ている、と世銀では推計しています。

また、その多くが水の汚染(注1)によって引き起こされるところの肝臓癌や胃癌等による死亡率が田舎では死因のトップになっています。ヒ素で汚染された水によって引き起こされた病に苦しむ人だけで約200万人いるというデータもあります。犠牲者の大部分は、都市に出稼ぎに行けずに郷里に残っている母子や高齢者といった弱者です。

(以上、http://www.nytimes.com/2004/09/12/international/asia/12china.html?pagewanted=print&position=2004年9月11日アクセス)及びhttp://news.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/4374383.stm(3月24日アクセス)による。)

(注1)中共当局は、中共の河川と湖沼の70%は工業廃水で汚染されており、田舎の人口の三分の一に相当する3億6,000万もの人々が汚染された飲料水を用いているとしている。もっともこの点では都市も胸を張れる状況ではない。都市でも大部分は井戸水を飲料水に用いているが、その95%が生活排水等で汚染されている、というデータもある。

(2)医療の貧困

しかも、このような公害病の患者等は、安んじて治療すら受けられないという状況に置かれています。

治療費が所得の伸びを超えて高額化してきている一方で、治療費の患者負担分が増えてきており、中には的医療保険制度が廃止された地域まであるため、中共当局の調査によれば、都市住民の36%、田舎の住民の39%が病気になっても医者にかかりませんでした。そして、入院患者のうち治癒前に退院せざるをえなかった人が28%に達しています。

また医師達は、給与の低さをカバーするため、患者から賄賂をとったり、不必要に高額な薬を処方して製薬会社からリベートをもらったりするのが当たり前になっているといいます。

その一方で、高額所得者達の間だでは、質の低い公的医療ではなく、外資系の医療に頼る人が増えています。

(以上、http://news.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/4062523.stm200412月7日アクセス)による。)

 (3)炭鉱事故の頻発

中共では、炭鉱事故で亡くなる人が毎年6?7,000名に達しています(コラム#348)。

今年2月14日には東北部の遼寧(Liaoning)省の炭坑で、炭塵爆発によって一挙に214名の死者が出ました。この時、米国鉱山労連(United Mine Workers Union)委員長は、中共当局が労働者の健康と安全をないがしろにしている、と厳しく批判する文章をワシントンポストに寄せています。

また今年8月には広東省の炭坑で、122名が出水によって地下に閉じこめられ、碌に救出活動もされないまま、全員死亡するという事故が起こりました。

このように、状況に改善が見られないどころか、炭坑の民営化に伴う営利至上主義もあって、状況はむしろ悪化してきています。しかも、操業が禁止されているのに操業している炭坑が2万箇所もあると言われています。

坑夫には、低賃金でもいくらでもなり手があり、死んだら家族に払われる補償金が目当ての者もいるといいます。そこへもってきてストは事実上禁止されているときているので、坑夫は経営者に対し、何の発言権もありません。

中共経済の高度成長によって、掘った石炭はいくらでも売れますし、安全・衛生面の手抜きは地方政府の役人達が見て見ぬふりをしてくれます。

これでは、今後とも炭鉱事故は少なくなりそうもありません。

(以上、http://www.washingtonpost.com/ac2/wp-dyn/A38567-2005Mar15?language=printer3月17日アクセス)及びhttp://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-coal16aug16,1,920169,print.story?coll=la-headlines-world(8月17日アクセス)による。)

(続く)

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