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太田述正コラム#884(2005.9.30)
<中共に変化の兆し?(続)(その2)>
3 その他の変化の兆し
(1)情報公開への小さな第一歩
9月12日に中共当局は、8月から天災による死者の数は国家機密扱いせず、速やかにかつありのままに公表することにした、と発表しました。
これまでは地方当局が、責任の追及を回避するため、天災による被害者数を低く偽って発表することはもとより、天災の発生そのものがふせられる場合もあったことから、その天災への対応が後手に回ったりすることも再々ありました。
このような問題を解消するため、かつまた国際的慣行に則って、情報公開に踏み切った、というのです。
もっとも、何が天災で何が人災かのメルクマールが示されていませんし、過去の天災による死者の数がありのままに今後公表されるのかどうかもはっきりしません(注1)。
(以上、http://www.nytimes.com/2005/09/12/international/asia/12cnd-china.html?pagewanted=print(9月13日アクセス)による。)
(注1)例えば、1976年の唐山(Tangshan)大地震による死者数は25万人とされてきたが、実際の死者数は75万人にのぼる、と言われている。
いずれにせよ、まことにささやかながら、中共は情報公開社会に向けての第一歩を踏み出した、と言えるのかもしれません。
(2)死刑判決に係る三審制の復活
また、9月27日、中共当局は、死刑判決を受けたケースについて、1983年以来、刑の早期確定のために停止されていた三審制を復活すると発表しました。
中共は世界一の死刑大国であり、2004年には3,400名が死刑に処せられたことになっていますが、実数は1万人に近い、とも言われており、3,400名の方の数字でも、死刑制度がある世界の70カ国強の残りすべての死刑執行数を上回る死刑を毎年執行しています(注2)。
(注2)例えば、いかにも死刑の多そうな米国ですら、2004年の死刑執行数は59名に過ぎない。なお、中共では、死刑執行の多くは公開で行われている(銃殺または薬殺)。しかも、執行後、刑死者の臓器が売られる、というスキャンダルが絶えない。
他の国では、殺人等の重大な犯罪に限って死刑が認められていますが、中共の場合は、密輸・脱税・汚職・国家の安全を危うくする罪・分離主義(チベットや台湾独立)活動、までも最高刑が死刑とされている(注3)ことも、中共で死刑が多い理由の一つです。
(注3)1980年代の初めから、海外に逃亡した中共の汚職官吏は4,000名にのぼり、500億米ドルを持ち出した、と推定されているが、たとえ居場所がつきとめられたとしても、死刑に処せられる懼れがあることから、逃亡先の国が中共に引き渡すのを躊躇している、という笑えない話がある。
ところが最近、死刑が執行される直前や執行された後で誤審が判明するケースが続出したこともあり、三審制が復活したものです。
これにより、死刑判決が3割は減少するだろうと考えられています。
もっとも、誤審が頻発する理由は、二審制であったことのほか、取り調べ機関において日常的に拷問が行われていること、自白偏重・証拠軽視の風潮があること、検視がなおざりにされていること、国選弁護人制度が実質存在しないこと、弁護士が検察官提出の証拠の信頼性を攻撃すると罪に問われかねないこと、裁判の時間が短か過ぎること、裁判官や検事が腐敗していること、裁判官の裁量で大部分の刑事法廷が非公開になっていること、裁判官や検事が党の意向に沿って動いていること、等数限りありません。
しかし、これらの問題にはまだほとんど手がつけられていません。
(以上、http://www.nytimes.com/2005/09/21/international/asia/21confess.html?ei=5094&en=bb03eeab96c10410&hp=&ex=1127361600&partner=homepage&pagewanted=print(9月22日アクセス)、及びhttp://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-chinadeath28sep28,0,3035806,print.story?coll=la-story-footer(9月29日アクセス)による。)
中共が党独裁制を維持しつつ、党治主義(人治主義)の国から法治主義の国へと脱皮することがそもそもできるのかという問題がありますが、仮に脱皮することができるとしても、その時期はまだ相当先になりそうです。
(3)離婚の自由化
かつて中共では結婚は公的な性格を帯びており、離婚するには職場単位(work unit)の許可が必要とされ、その許可を得るのも容易ではなかったところ、2003年末からこれが改められ、本人達の合意さえあれば、役場で1米ドル程度の手数料を払えば10分で離婚できるようになりました。
この結果、2004年には中共の離婚数は2割も増え、150万組に達しました。
(以上、http://news.bbc.co.uk/2/hi/programmes/newsnight/4240988.stm(9月14日アクセス)による。)
これは中共において、社会的自由が更に拡大したことを意味し、これによって中共の、公(おおやけ)重視社会から私(わたくし)重視社会への変貌は一層促進され、その分党の存在感は希薄なものとなっていくことでしょう。
(4)孔子の再評価
中共当局によって、孔子は封建思想たる儒教の祖と批判されてきました。とりわけ文化大革命中は激しく攻撃されたところです。
ところが、昨年から孔子の生誕記念式典が生地の曲阜の市主催で開かれるようになるなど、近年孔子の再評価が進んでいます。
(以上、http://www.sankei.co.jp/news/050929/kok004.htm(9月29日アクセス)による。)
これは中共当局が、支那の近代史だけでなく(コラム#861)、前近代史についても、歴史認識の見直しに踏み込もうとしている現れでしょう。
(続く)
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