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太田述正コラム#8902005.10.4

<中共に変化の兆し?(続)(その7)>

6 今後の展望

 (1)胡錦涛政権の危なっかしい対外政策

以上、胡錦涛政権による、アクセルとブレーキを同時に踏む国内政策の趣旨は理解できるし一定の評価もできる、という趣旨のことを申し上げてきましたが、胡錦涛政権の対外政策、就中対日・対台湾政策はどうでしょうか。

結論から申し上げれば、理解できる部分はありますが、評価はできません。

胡錦涛政権は、江沢民政権以来の対台湾武力攻撃力強化方針を踏襲するとともに、今年3月に反国家分裂法を採択する(コラム#661664665)一方で、同じ3月にまず台湾の最大野党で親北京の中国国民党の副主席を北京に招待(コラム687)するという具合に、硬軟両様の対台湾戦略を発動し、その後、4月末には連戦国民党主席、5月には台湾の第二野党でやはり親北京である親民党の宋楚瑜主席(コラム#706)、といった具合に次々に台湾の野党要人をターゲットにして招待攻勢をかけました。

またその間、今年4月には反日行動が中共で燃えさかりました。

反国家分裂法の採択も、台湾の野党要人をターゲットにした招待攻勢も、そしてこの反日行動(とその収束)も、ことごとく、「反日ナショナリズム」の代わりに「漢人民族主義」を掲げ、台湾の非平和的手段による「奪還」を追求する方針を決定した(コラム#690)胡錦涛政権が、この方針に基づいてさっそく打った一連の布石である、と考えられる(コラム#706)、と私は繰り返し申し上げてきたところです。

私は、胡錦涛政権の反日行動発動の目的は、日本の中共進出企業等に恐怖感を与え、今後日本政府に台湾問題から手を引かせるところにある(コラム#687689?700702703704)、とも申し上げてきました。

 共産主義を放棄した中共は、このように、ナショナリズムを鼓吹することで共産党独裁体制を維持することを目論み、江沢民政権は「反日ナショナリズム」を、そして胡錦涛政権は体制固めを一応終えた段階で「漢人民族主義」を掲げ、日本を牽制しつつ、台湾「併合」を目指して硬軟両様の対台湾戦略を発動したわけです。

しかし一体どうして中共のいじめられ役は日本や台湾でなければいけないのでしょうか。日本の場合、やっといじめられ役から降ろしてもらったと思ったら、今度は新しいいじめられ役台湾の引き立て役に指名されたわけです。

 それは、日本や台湾が中共にとって御しやすい相手だからです。

 台湾は国際的に孤立している上、国内が二派に分裂していること、日本は吉田ドクトリンの下で牙を抜かれており(注7)、しかも日台のどちらも経済的に中共に「依存」していること、を思い出しましょう。

 (注72003年7月に訪中した時、中共の政府に近い安全保障研究者は、吉田ドクトリンがいかに日本を蝕んでいるかについての私の認識、とほぼ同じ認識を彼自身持っている、と語っていた(コラム#135)。

 しかし、胡錦涛政権が、日本をいじめられ役である台湾の引き立て役に指名して、反日行動を発動したのは大失敗でした。日本を牽制するどころか、日本の世論の反中共感情を高めただけに終わったからです(注8)。

 (注8)今年6月に実施された世論調査によれば、「軍事的に脅威を感じる国」は、北朝鮮(65%)だけと言ってもよく、中共(8%)は米国(11%)に次ぐ第三位にすぎない。他方、「中国に親しみを感じない」は57%で、「親しみを感じる」(16%)を大きく上回る。3年前の2002年に実施された世論調査では「中国に親しみを感じない」は、43%だったから、13%も増えている。中国に親しみを感じない理由は、「中国で反日感情が強いので」(76%)がダントツだった。(http://www.nrc.co.jp/rep/rep20050715.html10月3日アクセス)

 ですから、日本を引き立て役に使うようなことは、今後一切慎むべきでしょう。

 それだけではありません。

 台湾をいじめられ役に仕立てたこと自体、台湾が日中双方にとって戦略的に重要(コラム#695)であることから、今後日中間の深刻な対立を引き起こすことは必至です。

 これでは、日本をせっかくいじめられ役から降ろした意味がありません。

 すなわち、私としては、中共が「反日ナショナリズム」であれ「漢人民族主義」であれ、ナショナリズムを鼓吹すること自体、賢明だとは思いませんが、いずれにせよ、台湾「併合」を目指す硬軟戦略のうち、最低限「硬」の方は凍結すべきだ、と言いたいのです。

 私が以前中共政府関係者に面と向かって述べたように(コラム#35)、中共は、台湾の「併合」を目指すのであれば、自由・民主主義化の度合いにおいて、台湾に追いつく以外に方法はないことに思い至るべきなのです。

(続く)

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