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太田述正コラム#920(2005.10.24)
<ガーディアンの靖国神社ブログ(その4)>
私が靖国神社を、従って遊就館を訪問したのは随分以前であり、その時には近代史観が展開されていたという記憶がないのですが、最近遊就館が展開してる近代史観がいかなるものかは、「近代国家成立のため、我が国の自存自衛のため、更に世界史的に視れば、皮膚の色とは関係のない自由で平等な世界を達成するため、避け得なかった多くの戦いがありました。」と上記靖国神社サイトが述べていることから大方想像がつきます。
先の大戦における日本のホンネの戦争目的が人種平等世界の達成だった、と言いたいのであれば、それは全くの誤りであるとは言えないものの、極めて一面的な史観であると言うべきでしょう。
具体的に遊就館で展開されている史観を 米クリスチャン・サイエンス・モニターの記事(http://www.csmonitor.com/2005/1021/p01s04-woap.html。10月21日アクセス)で見てみることにしましょう。
この記事が、遊就館で展開された史観で問題にしているところは以下の通りです。(それぞれにカギ括弧内に入れた私のコメントを付けています。)
・遊就館では、かつては史観を展開していなかったが、最近展開するようになった。しかも、修正主義的史観を・・・。<修正主義的史観であれ何であれ、靖国神社が史観を展開すること自体が適切ではない。>
・かつては日本人と外国人の多数の人命が失われたことに対する遺憾と反省の言葉が見られたが、最近は見あたらない。<遺憾と哀悼の言葉があってしかるべきだ。>
・日本は外国の野蛮人達を東洋から追い出そうと努力してきた、と言っている。<内容も用語も不適切だ。>
・日本軍がアジアとその人々を支配したという記述がない。<日本の植民地支配については記述すべきだろうが、米国によるフィリピンの植民地支配やオランダによるインドネシアの植民地支配にも言及しないと公平さを欠く。>
・支那と朝鮮半島を占領したのは、アジアをロシア革命と欧米の植民地支配から解放し守るためだ、と言っている。<不適切な内容だ。「アジア」を「日本」に置き換えて初めて、ほぼ適切な内容になる。>
・日本による真珠湾攻撃は、ローズベルト大統領の「陰謀」によって「強いられた」ものだった、と言っている。<正確性を欠く。日本の対米開戦は、米国主導の経済制裁によって追いつめられ、やむをえずに行ったものであり、真珠湾奇襲の大成功は、ローズベルト大統領の意図的無作為によってもたらされた、という説もある、が正しい。>
・日本が行った虐殺行為、朝鮮人慰安婦、支那人の性的奴隷、捕虜の拷問への言及がない。<慰安婦や「性的奴隷」への言及がないのは不適切とは言えない。前者は日本政府が強制したわけではないし、後者は存在しないからだ。日本軍による支那等での虐殺行為や捕虜の扱いの不適切さ等の戦争犯罪に言及せよと言うのであれば、米軍が行った東京大空襲や原爆投下等の戦争犯罪にも触れないと公平さを欠く。>
・1937年の「南京事件」では10万人もの一般人が殺害されたと考えられるのに、南京の城壁外で命令に従わなかった者だけが危害を加えられ、日本軍が<市内?を>掌握した時点ですべての問題は解消し、「住民達は再び平和な生活を送れるようになった」、と言っている。<日本軍兵士達による一般人の殺害は多くて1万人前後だった可能性が高いが、日本軍兵士達が南京で一般人殺害という戦争犯罪を犯したという事実は争いがたい。なお、いわゆるA級戦犯が南京事件等の戦争犯罪について、その上官責任をも問われたことから、「南京事件」に言及する必要があるとすれば、やはり、米軍等が犯した戦争犯罪にも触れる必要がある。>
・ヒトラーについては、「第一次世界大戦で失った領土を回復しようとした」とするだけで、ユダヤ人600万人の殺害等には全く触れていない。<ヒトラーへの言及は取りやめるべきだ。>
いかがでしょうか。
記者の記述が正確であるのか、疑問なしとしませんが、やはりかなり問題のある史観が展開されている、と言えるのではないでしょうか。
いずれにせよ、仮に靖国神社が私の史観を全面的に採用してくれたとしても、私は靖国神社が特定の史観を展開すること自体が不適切だと考えているので、ありがた迷惑以外のなにものでもありません。
既に申し上げたように、特定の史観を展開することが、靖国神社の名実ともの宗教法人化につながることを危惧するからだけではありません。
先の大戦時に限らず、英霊は様々な思いを胸に抱いて散華して行ったのであって、特定の史観で彼らの思いを束ねることは、彼らに対する冒涜だからです。
それに、特定の史観だけが絶対に正しいということはありませんし、また、時代の進展とともにどれが有力な史観であるかも移り変わっていくものだからです。時代の進展とともに、既存の有力な史観を成り立たなくする新たな史実が発掘されることもあることを考えればなおさらです(注4)。
(注4)いずれにせよ、歴史学における学問の自由がないと言ってもよい中共や北朝鮮における史観や、歴史学者の学問の自由が社会的に強い制約を受けている韓国における史観(複数)は、ここで言う史観の範疇には含まれない。
そんな不確かなものに、靖国神社が係わるべきではないのです。
(続く)
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