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太田述正コラム#9722005.11.27

<ホロコーストはあったのか?(続)>

1 初めに

 ある読者から、「ドイツやオーストリアではホロコースト否定を罰する法律があるのですね。異論を法律で禁止しようとする体質がナチスの台頭を許す素地になったのではないでしょうか。」という問題提起がありました。

 この問題提起を、「ホロコースト否定論を法律で禁止する必要のある社会、あるいはホロコースト否定論が盛んな社会は、ファシズムの台頭を許す素地があるのではないでしょうか」と読み替えれば、お答えは、そのとおりです、ということになろうかと思います。

 その理由をお話ししましょう。

2 ホロコースト否定論を禁止している社会

 ホロコーストが起こったことを公の場で否定すると法律で処罰される国は、オーストリア・ベルギー・チェコ・スロバキア・フランス・ドイツ・リトアニア・ポーランド・ルーマニア、それにイスラエルです。

 1998年にアーヴィングによって提起された名誉毀損裁判で、被告側の弁護人を務めたリブソン(James Libson)・・当然、ホロコースト否定論に批判的・・でさえ、「その歴史に鑑みれば、英国がホロコースト否定論を禁止する法律を導入するなどということはばかげている(注1)。他方、極右やネオナチ政党がこれ見よがしに活動しているドイツやオーストリアのような国(注2)では事情が異なる。しかし、法律があっても、<これら諸国では>ホロコースト否定論の流布は後を絶たない。」と述べています。

 (以上、http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/4449212.stm1127日アクセス、以下同じ)による。)

 (注1)まだ野にあって労働党を率いていたブレアは、1997年の総選挙の時、ホロコースト否定論を禁止する法律の制定に前向きの姿勢を示したことがある。しかし、総選挙に勝利して政権を保守党から奪取した後、ブレア政権は、法律を制定しないことにした。(http://www.telegraph.co.uk/htmlContent.jhtml?html=/archive/2000/01/21/nazi21.html

その後、EUで、「公の場で1945年に設置された国際軍事法廷で取り扱われた犯罪を公の場で否定したり矮小化する言動」を加盟国共通の犯罪に指定しようとする動きが出た時にもブレア政権はこれに反対している(http://www.rense.com/general21/shi.htm

 (注2)オーストリアでは、つい数年前に極右のハイダー(Haider)を党首とする自由党(Freedom Party)が連立与党の一角を占めて問題になったことを思い出して欲しい(http://www.nytimes.com/2005/11/26/international/europe/26irving.html?pagewanted=print)。

 

戦後に建国されたイスラエルを除き、これらは、いずれも反ユダヤ主義の伝統のある諸国であること、かつ、いずれも戦前から先の大戦にかけてファシスト政権が樹立されたか、ファシズムの強い影響を受けた諸国であること・・より中立的な表現を用いれば、ナチスドイツによって大きな被害を受けた諸国であること・・は暗示的です。(この中にファシズムの本家、イタリアの姿が見えないことは不思議です。)

 そもそも、憲法を持たないイスラエルを除き(注3)、これら諸国は、すべて憲法を持ち、そのいずれの憲法にも表現の自由の規定があるにもかかわらず、ホロコースト否定論を禁止するという、表現の自由と抵触する法律をつくらざるをえないところに、これら諸国の苦衷がしのばれます(注4)。

 (以上、http://webjcli.ncl.ac.uk/1997/issue4/butler4.htmlを参考にした。)

 (注3)よくご存じのように、英国も憲法を持たない。だから、英国でホロコースト否定論を禁止する法律を制定したとしても憲法上の問題は生じない。なお、建国に至る歴史が歴史だけに、イスラエル国民にとってホロコースト否定論は、国家反逆罪的な深刻な罪と受け止められている。

 (注4)カナダは、誤った事実を流布させることを罰する法律を制定したことがあるが、カナダ憲法の表現の自由規定に抵触するとして、1992年にカナダ最高裁の判決でこの法律は違憲無効とされた。

3 ホロコースト否定論が盛んな社会

 ホロコースト否定論が盛んなのは中東諸国です。

 シリア・イラン・パレスティナ当局は、政府がホロコースト否定論を公認しています。他の中東諸国でも、ホロコースト否定論は大流行です。

 何と、現在のパレスティナ当局のアッバス(Mahmoud Abbas (Abu Mazen)議長が21年前に書いた博士論文は、ナチスによって殺されたユダヤ人の数は100万人以下だったというものです。

 つまり、中東では、ホロコースト否定論はイスラエルを貶めるための根拠として広く信じられているのです。

(以上、http://www.nsm88.com/articles/holocaust%20denial%20law.html、及び

.http://en.wikipedia.org/wiki/Holocaust_denialによる。)

 中東には、まともな自由・民主主義国は、(イスラエルを除いて、)一カ国もないことは、ご存じのとおりです。

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