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太田述正コラム#9932005.12.10

<徒然なるままに(その2)>

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 アングロサクソン世界では、公序良俗に反しない限り、そして名誉毀損や侮辱にあたらない限り、思想・言論・表現・集会・政治活動の自由が完全に保証されています。

 ですから、ホロコースト否定論を唱えることも、この否定論を批判することも完全に

自由であり、このような議論それ自体を裁判に持ち込むことはできません。

 ところが、アーヴィングは、(自分自身は自分がホロコースト否定論者であることは百も承知しながら、)自分はホロコースト否定論者ではないにもかかわらず、否定論者だと書かれたとして、名誉毀損訴訟をあえて提起し、ホロコースト否定論批判を裁判で封殺しようという、学者としてあるまじきことを試みたのです。

 結果は、アーヴィングは、少なくともホロコーストに関しては、史料のねじまげ、偽造を行う者、すなわち学者の名に値しない者、であって、しかも、彼が反ユダヤ主義者、人種主義者にしてネオナチたるホロコースト否定論者であると裁判で認定されてしまったのでした。自業自得というやつです。

 このように見てくると、このアーヴィングを、15年以上も前にホロコースト否定論を講演で話したことを問題にして逮捕し、起訴しようとしているオーストリアという国(コラム#969)の異常性が浮き彫りになってきます。

 いや、オーストリア同様、ホロコースト否定論を唱えることを法律で禁じている欧州諸国(=ホロコースト否定論を法律で禁じることを憲法が許容している欧州諸国)であるベルギー・チェコ・スロバキア・フランス・ドイツ・リトアニア・ポーランド・ルーマニアはみんな異常な国のです(コラム#972)。(イスラエルも同様の法律を持つが、イスラエルの場合は、その国民がホロコーストの被害者であるので、事情が異なる。)

 この中でドイツは、憲法(基本法)で自由・民主主義体制を危うくする政党や結社を禁止していることでも知られています(http://www.asaho.com/jpn/bkno/2004/1220.html1210日アクセス)。

 ここからも、私の持論である、ドーバー海峡を境にして、二つの異質な文明が対峙していることが分かります。自由主義/個人主義のアングロサクソン文明と全体主義の欧州文明です。アングロサクソン文明は民主主義を導入しても問題は生じていないけれど、欧州文明にとって自由主義/個人主義はアングロサクソン(英国)から借り物であるため、欧州文明が民主主義を導入すると、それは多数による少数の圧殺、すなわち民主主義的全体主義(民主主義独裁)へと堕落しがちなのです。だからこそ、欧州諸国の多くにおいては、過去において欧州の全体主義がもたらした最大の罪悪たるホロコーストを否定するような言説は処罰されなければならないし、その全体主義によって欧州等に世界史上最大の惨禍をもたらしたドイツのように、全体主義政党・結社を禁じなければならないのです(注1)(注2)。

 (注1)エジプトは、宗教・民族・性に基盤を置いた政党を憲法で禁じている(http://www.guardian.co.uk/Columnists/Column/0,5673,1663436,00.html12月9日アクセス)が、(民族とか性とかは付けたりであり、)これはエジプトにイスラム過激主義的風潮(=反自由主義的風潮)が強いことを意味している。

 (注2)このように、多くの欧州諸国の憲法は、人権の一部を制限したり、制限をすることを許容しているわけだが、それに対し、日本の場合は、憲法に人権制限規定はないし人権制限を許容するような憲法解釈論は存在しない代わり、憲法に国権の一部(自衛権)を制限する規定(第9条)がある。日本の憲法の国権制限規定は、「押しつけ」られたものであり、憲法を改正するなり解釈改憲をすることで、この制限規定を廃止すればよいだけのことだ。他方、上記欧州諸国では、制限や制限許容の取りやめることなど、到底考えられない。

 こんなことを考えていたところへ、何度も顰蹙を買っているアフマディネジャド(アフマ)・イラン大統領が、今度はホロコースト否定論者として、登場したのです。

(続く)

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