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太田述正コラム#1019(2005.12.27)
<キリスト教と私(その1)>
1 始めに
私のキリスト教との出会いは、カイロの小学校の宗教の時間に、選択で(イスラム教ではなく)キリスト教をとった時に遡ります(注1)。
(注1)私の両親の宗教は、「一応」浄土真宗の本願寺派(お西さん)だった。
旧約聖書を教えて貰っているうちは、その中に出てくる様々な物語が面白くて、結構はまってしまった記憶があります。
しかし、新約聖書に入ってからはついて行けなくなりました。
独身の女性(マリア)が父親のいない子供(イエス)を懐妊し、生む? 人間(イエス)が魚やパンを自在に増やす? イエスは人間か神か? 神の子(イエス)のくせに、なすすべもなく十字架に架けられて刑死する? 刑死させることが目的で父(神)は息子(イエス)をこの世に送り込んだ? その死によって神の子(イエス)が人類の罪を購う? 一旦死んだ人間(イエス)が生き返る?・・どうしてこんな不条理な宗教に人が惹かれるのかさっぱり分からない、と当時も思ったし、今でも思っています。
最近のNYタイムスの書評(http://www.nytimes.com/2005/12/25/books/review/25meacham.html?pagewanted=print。12月25日アクセス)が、そのことをはっきり書いています。
「キリスト教は、人を混乱させる、時としてパラドクシカルな宗教だ・・聖パウロ(St. Paul。5?10??68年(殉教))ですら、この新しい宗教は人間の理解を超越していると語った・・コールリッジ(Samuel Taylor Coleridge。1772?1834年)は、キリスト教は、疑いを意識的に抑制することを要求すると言った・・まことキリスト教は、その教義においても実践においてもむつかしい宗教だ・・にもかかわらず、今日キリスト教は世界最大の宗教となり、教徒は20億人に達している」と。
鰯の頭も信心からと言いますから、キリスト教の教義に対する違和感の表明はこれくらいにしておきましょう(注2)。
(注2)大学を出た後でイスラム教に改めて興味を持ってコーラン(英訳。Penguin版)を読んだときの印象は、(イスラム教徒の皆さんの逆恨みを覚悟しつつ、だけど殺されないであろうことを信じつつあえて言うが、)これは旧約聖書と新約聖書の、できの悪い、しかもやたら繰り返しの多い盗作だ、というものだった。
2 非寛容性
ただ、一神教は一般的に非寛容性が強いところへもってきて、キリスト教は生誕後日浅くして一神教の中で最も強大な勢力となり、今日に至っているため、キリスト教の歴史は、その教義と相容れないと考えられた宗教・科学・哲学等への弾圧の点でも、同一宗教内の宗派同士の正統争いの点でも、血腥ささの程度において、他の一神教の比ではありません。
カトリック教会による、異端審問(Inquisition)(注3)と異端者殺し、ロシア正教によるユダヤ教徒迫害(ポグロム=Pogrom)、カトリックとプロテスタントとの間の戦争とも言うべき、ドイツの30年戦争の惨禍、等々はキリスト教が直接もたらしたものです。
(注3)異端審問制度は、法王グレゴリウス(Gregory)9世によって1233年に導入された。1633年のガリレオに対する異端審問は有名だ。ドイツだけで、25,000人の魔女・魔男が異端審問を経て処刑された。
しかし、最近の研究によると、西欧中世における異端審問では、従来考えられていたほど簡単に拷問や処刑(焼殺)を行ったわけではなさそうだ。これまで一番悪名高かったのは、15世紀から、法王庁とは別個にスペインのカトリック教会が実施した異端審問だが、意外にも、処刑されたのは審問対象となった者125,000人のうち1.8%に過ぎなかったという。また、最後の瞬間に悔悟した異端者や魔女・魔男達は、焼かれる前に絞め殺されたという。(http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/3809983.stm。2004年6月16日アクセス)
また、ナチスのホロコーストは、ポグロムのカトリック・プロテスタント版であると言えますし、共産主義自体がカトリシズムの鬼子と言えるのであって、各国において共産主義が行った天文学的な数の「階級の敵」殺しはカトリシズムの伝統を踏まえた異端殺しである(注4)、と言ってよいでしょう。
(注4)このヒントを得たのは、独文学者にして評論家であった竹山道雄(1903?84年。「ビルマの竪琴」の著者として有名)の「昭和の精神史」(新潮社。1956年)を通じてだったと思う。
(続く)
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