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太田述正コラム#1035(2006.1.8)
<「アーロン収容所」再読(その1)>
1 始めに
昨年の11月に、萬晩報というメルマガの主宰者の伴武澄氏が、会田雄次(敬称省略。1916?97年)の「アーロン収容所」(中公新書1962年)を読むと南アのアパルトヘイトの拠って来る原因が分かる、といった趣旨のことを書いた論考(http://blog.mag2.com/m/log/0000002548/106656049?page=1)を読んで気になっていました。
「アーロン収容所」中の会田さんの意見にわたる部分の大部分は誤りだ、と思っているからです。
もっとも、かく言う私も、初めて大学時代にこの本を読んだ時には、会田の怒りに共感を覚え、「英国というものに対する燃えるような激しい反感と嫌悪を抱い」(同書2頁)たものです。
ところで私は、1988年に英国の国防省の大学校に留学した時、英陸軍の施設でTVインタビューを受ける訓練を受ける機会があり、志望してその訓練を受けたことがあります(注1)。(訓練の臭いを嗅がせて貰ったというのが正確なところですが・・。)
(注1)こんな施設を持っている英軍の先進性に、当時、目を見張った記憶がある。
その施設の責任者たる将校が私に、先の大戦時の日本軍と戦時国際法について書かれた良い本はないかと聞いた時、私はとっさに、「Yuji Aidaという人のAhlone Internment Campという本の英訳本(英訳タイトルは忘れた)が出ている(注2)と思うので、それを読まれることをお勧めする」と答えてしまいました。
(注2)今回、インターネットで調べても、全くそれらしき本にヒットしなかった。英訳本があったということについては、私の記憶違いの可能性もあるが、何かご存じの方があったら教えていただきたい。
「アーロン収容所」は、英軍が日本軍捕虜に対して行った非違行為について記述した本であって、日本軍と戦時国際法に関する本ではないし、「英軍は・・いわゆる「残虐行為」はほとんどしなかった・・しかし、・・小児病的な復讐欲でなされた行為<が>私たちに加えられた。しかし、そういう行為でも、つねに表面ははなはだ合理的であり、「逆上」することなく冷酷に落ちつき払ってそれをおこなったのである」(67頁)以上、厳密に言えば、英軍と戦時国際法に関する本でもなかったのですが、突然、「アーロン収容所」を読んだ時の怒りがこみあげてきて、この将校にこの本を何が何でも読ませたい、という衝動にかられたのです。
しかし、実のところ、それ以前から、私はこの本に疑問を抱き始めていました。
より一般的に申し上げると、和辻哲郎・梅棹忠夫・会田雄次ら日本の知識人一般に共通するところの、アングロサクソンと欧州(西欧)を同一視する史観がおかしいのではないかと思い始めていたのです。
この疑問は、1988年に英国で一年間生活した結果、確信に変わります。
上記伴氏の論考に触発されて、昨日、何十年ぶりかで再度「アーロン収容所」を読んでみました。
その上で、少し調べてみると、出版されてから40年以上経っているというのに、依然(すぐ後で紹介するような)「アーロン収容所」礼讃論オンパレードであり、この本が、日本人の西欧観やアングロサクソン観に今でも大きな影響を与え続けていることを発見しました。
これではいけないと考え、本稿を執筆することにした次第です。
(続く)
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