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太田述正コラム#10532006.1.20

<今年中にも対イラン攻撃か>

1 始めに

 2004年10月24日付のコラム(#512)で、イスラエルによる「イランの核関連施設への攻撃必至か」と書きました。

イランが1月1日、ロシアでウラン濃縮作業を実施するとのEU・ロシア妥協案の受け入れ拒否を表明(http://cnn.co.jp/business/CNN200601020011.html。1月20日アクセス)し、更に1月9日から核研究を再開すると宣言したことで、イランの核関連施設への攻撃がにわかに現実性を帯びてきました(http://cnn.co.jp/world/CNN200601100007.html。1月20日アクセス)。

2 対イラン軍事攻撃論が高まる米国

米国の共和党と民主党それぞれの有力議員は、15日、イランの核保有阻止のため最終的には軍事攻撃の選択肢も排除すべきでないと相次いで主張しました(http://www.tokyo-np.co.jp/00/detail/20060116/fls_____detail__012.shtml。1月16日アクセス)かと思ったら、あのニール・ファーガソンが、ロサンゼルスタイムス紙上で、反ユダヤ主義的であったナチスドイツへの1930年代の英仏等の宥和策が先の大戦をもたらしたことにも鑑み、米国は2006年中に対イラン先制軍事攻撃を行うべきだと主張しました(http://www.latimes.com/news/opinion/commentary/la-oe-ferguson16ajan16,0,4538554,print.column?coll=la-news-comment-opinions。1月17日アクセス)。

イスラエルは、対イラン武力攻撃については、米国からはフリーハンドが得られそうな状況になったと言えそうです。

3 その背景

 (1)始めに

 米国世論の強硬化の背景には、イランの核に係る意図と能力についての共通認識が、イスラエルと米国の間のみならず、EUを代表してイランとの交渉にあたってきた英仏独三カ国との間でも形成されたことがあります。

 (2)イランの意図

 イランの核爆弾開発意図は、ロシアでウラン濃縮作業を実施するという提案をイランが拒否したことで明白になりました。

 これまで、イランの意図については、米国が入手したパソコン・ファイル(典拠失念)とか、国際原子力機関(IAEA)がイランで入手した、天然濃縮ウランや劣化ウランを半球型(ミサイル弾頭の形)に成形する方法を記した文書(http://www.guardian.co.uk/iran/story/0,12858,1650423,00.html1125日アクセス)くらいしかなかったのですが、前者は、偽造されたものでないことを証明することが困難であり、後者は状況証拠に過ぎないことから、決定打とは言えませんでした。

 しかし、イランがウラン濃縮作業を外国で実施するとの提案を拒否したということは、イランの核研究が原子力発電以外のこと・・つまりは核武装・・を目指すものであることを、疑いの余地なく裏付けたのです。

 (クリントン政権の時に、北朝鮮と米韓日EUが取り交わした合意枠組み(Agreed Framework)では、その附則で濃縮作業の外国での実施が明記されており、これによって北朝鮮が建設される軽水炉から出る核燃料を核兵器に転用することを防止しようとした。)

 (以上、http://www.slate.com/id/2134497/(1月20日アクセス)による。)

 (3)イランの能力

 能力面では、イランが実際に最初の核爆弾を製造する時期については、イスラエルは4?5年、EUは5年、米国は6?10年、という開きがあるものの、より重要なのはイランが核爆弾製造技術を確立する時期であり、そしてその時期は半年から1年先である(、つまりは今年か来年初めである)とのイスラエルの主張に、欧米諸国も同意しつつあることが特記されます。

 ちなみに、核爆弾製造技術が確立したとみなされるのは、多数の遠心分離器によるウラン連続濃縮にイランが成功した時点です。

 イランは2003年にこれに失敗し、保有していた遠心分離器の約三分の一を壊してしまったという苦い経験をしています。

 (以上、http://nytimes.com/2006/01/13/international/middleeast/13israel.html?pagewanted=print(1月14日アクセス)、及びスレート上掲による。)

4 攻撃準備状況

 イスラエル空軍は、イランのブシェール(Bushehr)原子炉の実物大模型を砂漠につくってこれを爆撃する訓練をしていますし、保有するF-15IF-16I戦闘機に外部燃料タンクを装備し、ブシェールやその他の各施設を攻撃するに十分な1500マイルの行動半径を確保しました。また、米国から500個のBLU-109(バンカーバスター)爆弾・・7フィートの強化コンクリートを貫くことができる・・を購入しています。

 問題は二つあります。

 一つは、イランのウラン濃縮施設であるナタンツ(Natanz)施設は特に地中深く設置されているため、この爆弾だけでは破壊できないことです。恐らく損傷を与えることはでき、濃縮活動を何ヶ月か遅らせることができるだけです。

 もう一つは、米国がイランとイスラエルの間のイラク等の空域を管理している(http://www.guardian.co.uk/iran/story/0,12858,1685503,00.html。1月14日アクセス)

ことです。

 ですから、イスラエルがイランの核関連施設を攻撃するためには、最低限米国の黙認が必要ですし、できれば、米国の協力が得られることをイスラエルは望んでいるのです。

 イランが核武装を諦める可能性はありません。

 そうである以上、(イランによるところの、)レバノンのヒズボラを通じての対イスラエル報復攻撃やペルシャ湾封鎖による石油暴騰(=世界経済の混乱)等の危険を冒して、イスラエル(と恐らく米国)が対イラン武力攻撃を今年中に行う可能性は極めて高い、と思います。

(以上、特に断っていない限りスレート上掲による。)

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