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太田述正コラム#1059(2006.1.25)
<on the job training・実学・学問(その1)>
1 始めに
このところ世間の耳目を集めている構造計算偽造事件とライブドア事件には、奇妙な共通点があります。
両事件のキーマン達が、ことごとく大学を出ていないことです。
構造計算偽造事件では、姉歯(元)一級建築士・小嶋ヒューザー社長が高卒、内河総合経営研究所所長が短大卒、木村・木村建設社長・篠塚木村建設(元)取締役・東京支社長が高卒ですし、ライブドア事件では、堀江ライブドア社長が東大中退(注1)、宮内ライブドア財務担当取締役(ナンバー2)が高卒です。(複数のTVのニュース番組より。)
(注1)堀江は、東京大学にストレートで入学しているし、その気があったら卒業できたはずなのに、文学部の宗教学科を卒業しなかった。入学後5年目(!)にライブドアの前身のオン・ザ・エッジを設立していることからして、その設立準備のため、在学中余り勉強はしなかったものと思われる。もっとも、入学以降一定の成績を残さなければ専攻の学部に進学はできないので、堀江は短大卒には相当すると言ってよかろう。(事実関係は、http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A0%80%E6%B1%9F%E8%B2%B4%E6%96%87(1月24日アクセス)等による。)
このうち、姉歯氏以外はすべて経営者です。
2 考察
「高卒や短大卒でもいいじゃないか。学歴なんてどうでもいい」という声が聞こえてきそうですね。
確かに一般論としてはそのとおりなのだけれど、このご時世、新しいビジネスモデルを確立しようというのであれば、経営者に学歴がないことはかなり致命的なのではないか、と私は考えています(注2)。
(注2)松下幸之助は小卒だったが、「水道哲学」経営という新しいビジネスモデルをつくりあげ、自分の創業した松下電器を大企業に育て上げた(http://www.enjyuku.com/k/kp62.htm。1月24日アクセス)。その松下は、「あなたが経営者として成功できた理由は何ですか?」と質問された時、「学歴がなかったこと。体が弱かったこと。家が貧乏だったこと」と答え、「学歴がなかったから何も知らなかった。おかげで、何事でも、誰にでも聞く耳を持てた。そして何を聞いても感心した。それが経営を間違わずに行うことができた最大の要因である」と説いた(http://www.hotweb.or.jp/yoshidao/idea124.html。1月24日アクセス)。しかし、凡人にはこのような「謙虚さ」は求めうべくもない上、松下電器の創業期(戦前)に比べると、現在のビジネス環境ははるかに複雑であり、変化のスピードも早いことを考慮すべきだろう。
構造計算偽造に関わったグループ(内河グループ)とライブドアに関して言えば、どちらも取り扱う商品そのものには同業の他グループや他社に比べて全く優位性はなかったので、経営規模の拡大を新しいビジネスモデルの確立によって果たそうとしたところ、学歴のある者が経営者の中に一人もいなかったため、片や「超低コスト建設」、片や「株式時価総額経営」、という綱渡り的ビジネスモデルしか発想できなかったところに問題の根源があったのではないか、という感が拭えないのです。
綱渡り的ビジネスモデルだったからこそ、片や一人の無能でモラルの欠如したキーパーソンたる従業員(姉歯)(注3)のグループへの「採用」によりボトムアップで、片やナンバーワンとナンバーツーの経営者(堀江・宮内)の無際限な欲望とモラルの鈍磨によりトップダウンで、半ば必然的に破綻に至った、と私は見ているのです。
(注3)この内河グループが使っていた一級建築士であれ、その他の一級建築士であれ、一級建築士が構造計算偽造を行ったケースは、姉歯氏以外、これだけ鵜の目鷹の目でみんなが探しているというのに、これまでのところ一件も発覚していない。
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