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太田述正コラム#11202006.3.12

<無惨なるかな日本(その2)>

2 大惚けの讀賣社説

 (1)讀賣の社説

 私がこれは困ったものだと思ったのは、3月11日付けの讀賣新聞の社説(http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20060310ig91.htm。3月11日アクセス)

です。

 ちょっと長いけれど、そのまま、引用します。

[タイ情勢]「首相が自ら招いた政治危機」

 盤石に見えたタイのタクシン政権が窮地に陥っている。バンコクでは、タクシン首相の辞任を求める大規模な集会が連日のように続いている。首相は辞任要求をかわすため下院を電撃解散した。対する野党陣営は選挙のボイコットを決めた。東南アジアの優等生、タイの政局混乱は域内に深刻な影響を与えかねない。首相は、一代でタイ最大の情報通信グループを築いた立志伝中の人でもある。強烈な個性と指導力でこの5年間、政権を率いてきた。一方で、強権体質への批判と利権疑惑の風評も絶えない。政治危機の引き金となったのもカネだった。1月下旬に、親族がグループ株を大量売却し、巨利を得ていたことが明らかになった。「法の盲点」を突いた税金逃れの疑いも濃厚だ。だが、首相は「正当な取引だ」と意に介さない。首相のそうした驕(おご)りが、政治危機を招いたのではないか。昨年2月の総選挙で、与党・タイ愛国党は議席の7割超を占め、大勝した。ばらまき行政との批判が出るほど、零細農家や貧困層の救済に資金を注ぎ、支持層を広げたのが勝因だった。首相への支持は、地盤の農村部を中心になお固い。電撃解散による勝利で辞任要求を封じ込め、政権基盤の立て直しを図る。それが首相の計算だったろう。ところが、民主党など主要野党が選挙ボイコットで足並みをそろえたことで、状況は混沌(こんとん)としてきた。このまま4月2日投票の総選挙を強行すれば、与党がほぼ全議席を占める異常事態となる。正統性は傷つき、混乱の長期化は必至だ。財界からは、経済への悪影響を懸念する声が出始めた。域内経済をけん引してきたタイ経済の減速は、他の東南アジア諸国にも波乱要因となる。日本との関係も同様だ。首相は4月初めに訪日し、自由貿易協定(FTA)に署名する予定だったが、延期した。FTA発効の大幅遅れもありえよう。タイでは、国民の敬愛を集めるプミポン国王が、重大局面で決定的な役割を担ってきた。軍政と市民が衝突し、流血の事態となった14年前の政変は、最後に国王が調停した。今回も、国王に暫定首相の指名を求める声が上がり始めている。国王が調停に動く気配はまだない。プミポン国王は6月に、在位60年を迎える。天皇、皇后両陛下は記念式典に出席するため、タイを公式訪問される。日本とタイとの緊密な関係を、さらに深めるまたとない機会だ。

 この社説のどこがおかしいか分からないですって?

 私のコラムの読者がそんなことでは困りますね。

 例によって、英米の高級紙の言っていることを見てみましょう。(それぞれ、要約した。)

 (2)ニューヨークタイムス

 6300万人のタイ人口の三分の二が住む農村地帯では、タクシン(Thaksin Shinawatra)首相の人気は圧倒的だ。

 農村地帯の農民や中小企業主に話を聞くと、彼らは異口同音に、タクシンが首相に就任してからの5年間で、農村地帯はみちがえるようになり、収入は二倍になった(注3)と言い、2005年2月の選挙で、61%もの票を得た政党の党首であるタクシンが、デモのために辞任しなければならないいわれはない、と語る。

 (注3)タクシン政権は、農村地帯を対象に3年間の借金返済猶予令を敷き、各村に26,000米ドルの基金を設け、零細企業がこの基金から資金を借りられるようにした。また、誰でも一回77(米)セントで医者にかかれるようにした。

この状況は、フィリピンで2001年に、タクシンと同様のポピュリストであって貧民に慕われていたエストラダ(Joseph Estrada)大統領が、エリートによって大統領の座から引きずり下ろされたことを思い起こさせる。

(以上、http://www.nytimes.com/2006/03/06/international/asia/06thai.html?_r=1&oref=slogin&pagewanted=print(3月7日アクセス)による。)

 (3)ガーディアン

 東南アジアの主要な民主主義国のうち、現在民主主義が危機に瀕していないのはインドネシアくらいだ。

 タイでもフィリピンでも、民主主義を標榜する反民主主義的な運動が政権を追いつめつつあるし、シンガポールでは、近々、またもや与党がほとんど議席を独占することが約束されている総選挙が実施される。

 特にタイが問題だ。

 タイは1992年に軍政が終わり、民主主義が機能し始めたかのように見えたが、現在タクシン政権は、デモとストによって追いつめられつつある。

 しかし、タクシンは、法律違反や犯罪にあたるようなことをやったわけではない。

 窮したタクシンは、総選挙に打って出ることにしたが、今度は野党は選挙ボイコットを宣言した。投票率が低いと、選挙後の政権樹立ができないことになっているからだ。

 タクシンは、困り果てており、「自分が今辞めたら、タイの民主主義は終わりだ。今後デモとストで脅されたら、いつも政権を投げ出さなければならなくなるからだ」と言っているがそれはもっともだ。

(以上、http://www.guardian.co.uk/elsewhere/journalist/story/0,,1725555,00.html(3月8日アクセス)による。)

4)ワシントンポスト

(続く)

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