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太田述正コラム#11412006.3.24

<ペシミズム溢れる米国(その1)>

1 始めに

 ポール・ケネディ(Paul Kennedy)(コラム#208312)が、著書"The Rise and Fall of the Great Powers"1987)(邦訳『大国の興亡』)で米国の没落(注1)について論じた直後から、日本経済は長いトンネルに入ったのに対し、米国は力強い成長軌道に乗り、スーパーパワーである米国の栄華はまだまだ続くと思われていました。

 (注1)私も、このテーマを「没落する米国」シリーズ(コラム#308312428429)で取り上げたことがある。

しかし、9.11同時多発テロを受けてから、対テロ戦争に乗り出したものの、イラク情勢の混迷もあり、現在米国には陰鬱なムードが充ちています。また、中共の力強い勃興にも米国は不安感を抱くに至っています。一言で言えば、やはりケネディの言ったことは正しかったのではないか、というペシミズムに米国の人々が捕らわれ始めたのです。

2002年から、米国の現状を憂慮する三部作を上梓し始め、”Wealth and Democracy” (2002) ”American Dynasty”(2004)に引き続き、今年完結編である”American Theocracy”を出したばかりの米政治評論家のケヴィン・フィリップス(Kevin Phillips1940年?)http://72.14.203.104/search?q=cache:Q8KBPXfIvXAJ:en.wikipedia.org/wiki/Kevin_Phillips_(political_commentator)+Kevin+Phillips&hl=ja&ct=clnk&cd=12。3月24日アクセス)と、2000年から同じく米国の現状を憂慮する三部作を上梓し始め、現在、Blowback: The Costs and Consequences of American Empire,“(2000)(邦訳『アメリカ帝国への報復』集英社2000)The Sorrows of Empire, Militarism, Secrecy, and the End of the Republic,”(2004)(邦訳『アメリカ帝国の悲劇』文藝春秋 2004年)に続く完結編(仮題は Nemesis)を執筆中の米政治学者のチャルマーズ・ジョンソン(Chalmers Johnson1931年?)(注2)(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%AB%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%82%BA%E3%83%BB%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%82%BD%E3%83%B3。3月24日アクセス)の二人の最新の主張に焦点をあてて論じたいと思います。

(注2)ジョンソンは、MITI and the Japanese Miracle: the Growth of Industrial Policy, 1925-1975,1982)(邦訳『通産省と日本の奇跡』TBSブリタニカ 1982年)の著者として日本で良く知られている。

2 フィリップスの主張

 では、フィリップスの主張から始めましょう。

(以下、特に断っていない限りhttp://www.nytimes.com/2006/03/17/books/17book.html?pagewanted=print(3月17日アクセス)、http://www.nytimes.com/2006/03/19/books/review/19brink.html?pagewanted=print(3月19日アクセス)、http://www.guardian.co.uk/commentisfree/story/0,,1737214,00.html(3月23日アクセス)による。)

 フィリップスは、27歳の時にニクソン大統領の選挙参謀を務めて南部集票戦略を遂行し、その時の体験を踏まえて書いた "The Emerging Republican Majority"1969)で、米共和党優位の時代が到来するであろうことを予言した人物です。

最近の上記三部作の前二作では、米国のカネまみれの1990年代に対し、とりわけブッシュ一家の巨大石油会社等の大企業及び軍産複合体との「露骨なビジネス癒着」に対し、怒りをぶつけてきました。

彼の最新作である"American Theocracy"では、このタイトルから想像できるように、キリスト教原理主義とそれが現在の米国のブッシュ政権にいかなる影響を及ぼしているかについても論じてはいますが、この本のテーマはもっと広く、ポール・ケネディーの「大国の興亡」を意識しつつ、米国の経済的・政治的・軍事的趨勢を分析し、米国は没落を免れないとしているのです。

(続く)

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