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太田述正コラム#11442006.3.25

<アングロサクソン論をめぐって(その2)>

>アングロサクソンのやり方は徹底的で冷静で手段を選ばない金儲け主義であり、暴利をむさぼることを恥としない価値観である。合法ならばなんでもやってよい。他人がどうなろうと自分に都合のいいように法を変えることに躊躇しない。違法であってもごまかしきれるか罰則が軽いならやってよい

 これはいわば裸の個人主義の世界であり、私の言うところの、できそこないの(bastard)アングロサクソンである米国人にはぴったりあてはまりそうですね。

 ビル・ゲイツは、このような意味でまさに典型的な米国人であった、と主張しておられる読者の方が沢山おられるわけです(注1)。

 (注1コラム#10682006.2.2(私のビル・ゲイツ論)前後の、私のホームページの掲示板上の議論参照。

 私は、そうは考えないわけですが、ゲイツの、真摯としか形容しようのない慈善事業への傾倒ぶり(http://news.ft.com/cms/s/84c7226a-af37-11da-b417-0000779e2340.html。3月12日アクセス)もそのことの傍証だと思っています。

 それはともかく、米国の宗教団体や金持ちは、形だけでも慈善事業を行わなければ社会的指弾を受けることは事実であり、これが米国社会の安全弁になっている、と私は考えています。

 本家のアングロサクソンたる英国にももちろん慈善事業の文化はあります。しかし、英国が米国と違うところは、英国がそもそも裸の個人主義の世界ではないことです。

 最適の事例であるかどうかはともかく、一つの事例をご紹介しましょう。

昨年8月、カムチャツカ沖で浮上不能となったロシア潜水艇AS28(乗員7人)救助の要請をロシアは日米英等に行いましたが、英国は、最初に無人救難潜水艇(スコーピオ45)と9人の救出チームを現地に空軍輸送機で送り込み、ロシア潜水艇の酸素がなくなる寸前に救助に成功しました(http://yosio.weblogs.jp/tblue/2005/08/post_4162.html。3月25日アクセス)(注2)。

この話を実写を交えて放送したディスカバリーチャネルの番組を最近見たのですが、英国人達が、英空軍と英海軍のチームワーク及び海軍救出チームの創意工夫・臨機応変・細やかさ等を伴ったチームワーク、によって次々に生起する障害を乗り越えていく様子は、日本の自動車産業や(WBCで発揮された)日本のプロ野球の卓越した緻密さと連携(コラム#1140)も真っ青というほど感動的なものでした。

 (注2)潜水艦救難艇の基地は、日本は横須賀、米国はサンディエゴ、英国はグラスゴーであり、この三カ国中では日本が現地に一番近く、英国が一番遠い。日本は、救難潜水艇を空輸できず、艦船で輸送したので当然遅れたわけだが、一番遠い英国が米国よりも現地到着が早かったのは、特筆されるべきだ。いずれにせよ、こんなことにすら、外国に救助を要請しなければならなかったロシア、しかも英国チームの支援にあたっても、邪魔にこそなれ、余り役に立ったとは思えないロシアには、哀れみを覚えざるを得ない。

 私はかねてより、英国には、個人主義と同時に、日本の人間(じんかん)主義的要素も見出せると主張してきました(コラム#113114)。つまり、英国はやさしい個人主義社会なのですが、私は、英国のやさしい個人主義の凄さを、この救助活動を通じて改めて見せつけられた思いがしました。

 もとより、本家の英国が米国よりもマシな点は、コモンローの精神(「合法」性だけでなく、手続き的正義にこだわる)により忠実なこと等、ほかにも沢山ありますが、ここでは述べきれません。過去の私の関連コラムにあたっていただきたいと存じます。

 いずれにせよ、フランス等欧州諸国と比較すべきは、米国ではなく、英国であるべきだ、と私は思うのです。

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