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太田述正コラム#1149(2006.3.28)
<またもフランスにおける暴動(続)(その2)>
ワシントンポストは、現在パリで憂鬱(melancolle)と銘打った美術展が開かれているけれど、まさに現在フランスは憂鬱に充ちている、という記事を掲載しています(http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/03/24/AR2006032400705_pf.html(3月26日アクセス)。以下、特に断っていない限りこの典拠による)。
この記事によれば、最近実施された、フランスの20?25歳を対象にした世論調査で、「グローバリゼーションはあなたにとって何ですか」と聞いたところ、48%が不安(fear)と答えました。
実際、フランスの若者達は、社会に対し、未来に対し、喪失に対し、他人に対し、リスクを冒すことに対し、孤独に対し、加齢に対し、という具合に、あらゆるものに対して不安感を抱いているというのです。
このところの人種差別意識の高まり(注4)、昨年のEU憲法の国民投票での否決(コラム#699、742)や、初雇用契約制度導入に対して現在展開されている反対闘争は、まさにこの不安の産物であり、いかなる変化をも懼れてひたすら現状維持を図ろうという病理現象だ、というわけです(注5)。
(注4)最近公表された、昨年11月に実施された世論調査によれば、自分は人種差別意識があるとするフランス人は約三分の一で、一年前の調査より8%増え、また32%しか人種差別を目撃しても警察に通報しないと答えている。更に、昨年反ユダヤ人犯罪で訴追された人の数は、一昨年に比べて50%増加した。(http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/4832238.stm。3月23日アクセス)
ちなみに、反ユダヤ人意識が最も強いのは、移民の人々の間でだ。先般起こったユダヤ人青年拷問殺人事件はフランスの朝野に衝撃を与えた。(http://www.nytimes.com/2006/03/26/international/26antisemitism.html?pagewanted=print。3月27日アクセス)
(注5)もっとも、50歳以上を対象に行われた、ある企業による調査によれば、英独仏西伊及びポーランド中、最も悲観的なのはドイツ人で、最も楽観的なのは英国人とスペイン人である、という結果が出た。もっともこれは、ドイツにニーチェ(Nietzsche)、ショーペンハウエル(Schopenhauer)やシュペングラー(Oswald Spengler)に代表される、悲観主義(pessimism)の伝統があるためらしい。蛇足ながら、この調査では、セックスが重要だと考える者や定期的に運動を行うことが重要だと考える者が一番多いのはドイツ人だという結果も出ている。(http://www.guardian.co.uk/germany/article/0,,1737409,00.html。3月23日アクセス)
この記事は、こんなフランスの、硬直した労働諸法や高コストの下ではやっておられないと、国外に逃げ出す企業が続出しており、逆にフランスにやってこようとする企業はほとんどない上、税金が高いので金持ちもまた逃げ出しており、また、能力ある若者ほど他国に職を求めようとする傾向も出てきている、とも指摘しています。
それどころか、かつてフランスの独壇場であったワイン・ファッション・現代美術等の分野においてさえ、この10年のフランスの凋落は著しいといいます。
このように見てくると、現在のフランスの病状の深刻さは、日本のつい最近までの失われた10年強の時代における病状の比ではなさそうです。
フランスが立ち直るとすれば、それは、自らのアイデンティティーをぎりぎり失わない範囲で、欧州文明を脱ぎ捨て、アングロサクソン文明化(=英国化)するという方法しかないでしょう。
それをやったのがアイルランドであり(近々説明する)、その先例がある以上、フランスだってできない相談ではないはずです。
(完)
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