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太田述正コラム#1178(2006.4.12)

<今年中にも対イラン攻撃か(続x3)>

1 始めに  本件について、前回(コラム#1172で)、ニューヨーカー誌に掲載されたハーシュの記事をご紹介したところですが、私が取り上げるに値しないと考えて落とした部分がその後大きな議論を巻き起こしているので、ご披露しましょう。 

議論を巻き起こしているのは、ハーシュが、米国政府部内で、対イラン攻撃にあたって、地底深いところにあるナタンツの核施設(遠心分離装置が地底75フィートに設置されている)等の攻撃には、戦術核兵器(B6111バンカーバスター)を用いるオプションが検討されており、これに積極的なホワイトハウスと消極的な軍・諜報機関が対峙している、と指摘したくだりです。

2 英米メディアの反応  英米のメディアは一様に、核兵器使用などありえない、という反応です。 BBCのレイノルズ(Paul Reynolds)記者はその理由として、

(一)バンカーバスターであれ、放射能をまき散らす点で他の核兵器と変わりがなく、使用すれば多数のイランの一般市民が犠牲になってしまう、

(二)核兵器を製造するつもりはないと言っている非核武装国たるイスラム国を核攻撃することは大変なことだ、

(三)B61-11よりも更に地下深い施設を攻撃できる後継核兵器の開発を米国は昨年中止したことと整合性がない、の三つを挙げています(http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/4895212.stm。4月11日アクセス。以下同じ)。 

米コラムニストのカプラン(Fred Kaplan)は、スレート誌掲載論考で、ハーシュのこれまでのすっぱ抜き記者としての輝かしい実績からすると、米政府部内で核兵器使用の検討が行われていることは間違いないとした上で、かかる検討ないし(検討しているとの)リークの目的について5つ挙げていますが、それを私なりに4つに再整理すると次のとおりです。

(一)イランを脅すためだとすると、狂信的なイランの指導者達にはどんな脅しも通用しなさそう(注1)なので成り立たない。  (注1)イランの上位の大統領補佐官は、「核兵器の使用なんてジョークだろ」と一笑に付したし、イランの核問題首席交渉担当官は、「本当にその気があるなら黙っているだろう。心理戦てやつだよ」と全く問題にしていない(http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/4897570.stm)。

(二)欧州の米同盟諸国を震え上がらせて対イラン経済制裁に同意させるためだとすると一応説明はつく。

(三)極めて可能性としては低いが、ブッシュが本当に核兵器の使用を考えているという可能性もある。(このオプションを早期につぶすために軍・諜報サイドがこの話をリークした、ということになる。)

(四)ブッシュが、あえて核兵器使用のオプションをリークすることによって、実際には通常兵器だけで行うことで、対イラン攻撃のインパクトを緩和することを目論んでいる、ということも考えられる。(以上、特に断っていない限りhttp://www.slate.com/id/2139610/による。)


3 ブッシュ等の弁明

 ブッシュは、核兵器使用問題を含めた対イラン攻撃について問われ、「君たちが読んでいる一連の記事は、みんなワシントンではよくある単なるあて推量というやつだ。」とはぐらかしましたが、その一方で「われわれはイランが核兵器を持つことも、核兵器を製造する能力を持つことも、核兵器製造する知識を獲得することも望んでいない。」と述べていることからして、核兵器を使用するかどうかはともかく、対イラン攻撃はやる気十分に見えます(BBC上掲、及びhttp://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/04/10/AR2006041000422_pf.html)。

 また、あるブッシュ政権高官は、同じ質問に対し、「連中は正しくない(ill-informed)」としただけで、明確に否定することは避けました。

 ちなみに、英国のストロー外相は、対イラン攻撃については、「話題にのぼっていない(not on the agenda)」とする一方で、核兵器の使用については、「考えられない(completely nuts)」と答えています。つまり、核兵器の使用はないが、対イラン攻撃はありうる、と言っているのであり、これは米ブッシュ政権の心中の推測としては当たらずといえども遠からず、と私は受け止めています。
(以上、http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/04/09/AR2006040901165_pf.htmlによる)

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