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太田述正コラム#11892006.4.17

<米退役将軍達のラムズフェルト批判(その1)>

1 始めに

 今にして思えば、ライス(Condoleezza Rice国務長官が先月、対イラク戦にあたって「何千もの戦術的過ちを犯した」と発言し、ラムズフェルト国防長官が、「正直言って、彼女が何のことを言っているのか分からない」とぼやいたのが前兆であったと言えそうですが、今月に入ってから、米国の少将以上の退役軍人達の中から、激しいラムズフェルト国防長官批判が噴出し、米国が揺れています。

 この批判をめぐって、最初に、現実的論点をとりあげ、次いで、理論的論点を取り上げたいと思います。

2 現実的論点

 ラムズフェルト国防長官の人となりと彼の対イラク戦指導及び戦後イラク政策を批判し、長官辞任を求めている米退役軍人は、かつて(中東・南アジアを担当する)米中央軍司令官を勤めたジニ(Anthony Zinni)海兵隊大将、対イラク戦後イラク軍の教育訓練を担当したイートン(Paul Eaton)陸軍少将、つい最近まで米統合参謀本部作戦部長を勤めたニューボールド(Greg Newbold)陸軍中将、イラクで米第1陸軍歩兵師団長を勤めたバティスト(John Batiste)陸軍少将、イラクで第82空挺師団長を勤めたスワナック(Charles H. Swannack Jr.)陸軍少将 NATO最高司令官を勤めたクラーク(Wesley K. Clark)陸軍大将というお歴々です

 また、直接ラムズフェルトを名指しこそしませんでしたが、前国務長官のパウエル(Colin Powell元統合参謀本部議長・退役陸軍大将は、「バグダッド陥落の直後に深刻な過ちが多数なされた。・・地上部隊の兵員数が十分ではなかった。だからわれわれの意思を貫徹させることができなかった。その結果叛乱が始まり、それを鎮圧できないままになった。」と語り、ラムズフェルト批判の輪に加わりました(注1)。

 (注1)この発言は、いささか遅きに失した感はあるが、パウエルが、1991年の湾岸戦争後に人口に膾炙したパウエル・ドクトリン・・戦争は極力回避し、開戦する場合は圧倒的な兵力を投入する・・をつくった御本人であることを考えれば当然のことだ。

対イラク戦開戦の数週間前の2003年2月に、当時のシンセキEric Shinseki)陸軍参謀長・陸軍大将が議会証言で、イラクは民族間の緊張(ethnic tensionsが他の諸問題を引き起こしかねない類の国であるのでイラク戦後には数十万の米兵が必要となる、と述べたのは、パウエル・ドクトリンに則ったものであるとも言えよう。シンセキは、当時の国防副長官のウォルフォヴィッツによって「完全に的はずれだ」とこき下ろされ、これでも足りぬとばかりに、ウォルフォヴィッツは、議会証言で、シンセキの言及した兵力より少なくてよいのは、イラク人達は米軍を歓迎するだろうし、イラクという国は、ボスニアのような民族間紛争(ethnic strife)の歴史がないからだ、と述べた。ラムズフェルトは、シンセキの退役の一年も前に後任を発表し、慣例を破ってシンセキの退官式に出席しなかった。

 これに対し、11日には現役軍人ナンバーワンの統合参謀本部議長のペースPeter Pace)海兵隊大将が、ラムズフェルト擁護論を御大の横でぶち、14日にはブッシュ大統領がラムズフェルト擁護の声明を出す等、ブッシュ政権は事態の沈静化にやっきになっています(注2)。

(以上、http://www.slate.com/id/2139777/(4月13日アクセス)http://www.csmonitor.com/2006/0414/p01s03-usmi.htmlhttp://www.nytimes.com/2006/04/13/washington/13cnd-military.html?ei=5094&en=6365ea46871d51d8&hp=&ex=1144987200&partner=homepage&pagewanted=print(どちらも4月14日アクセス)、http://www.time.com/time/magazine/printout/0,8816,1184048,00.html(4月17日アクセス。以下同じ)、http://www.nytimes.com/2006/04/16/washington/16rumsfeld.html?_r=1&oref=slogin&pagewanted=printhttp://www.nytimes.com/2006/04/16/washington/16cndmilitary.html?ei=5094&en=46571ab513b7bb32&hp=&ex=1145246400&partner=homepage&pagewanted=printによる。)

(2)対イラク戦の指揮をとったフランクス(Tommy Franks)前中央軍司令官・退役陸軍大将や、前統合参謀本部議長のマイヤーズ(Richard B. Myers)空軍大将もラムズフェルト擁護陣に加わった。しかし、マイヤーズは、同時にシンセキ発言擁護も行うことによって、「良識」を示した。

(続く)

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