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太田述正コラム#12302006.5.12

<叙任権論争の今と昔(その2)>

 (コラム#1229にその後、若干手を入れました。)

3 中共と法王庁との間の叙任権論争

中国政府公認の宗教団体「中国カトリック愛国会(Chinese Catholic Patriotic Association)」は、4月30日と5月3日にそれぞれ一人の司教を任命しました。これは、法王の同意を事前に非公式に得て司教を任命してきた、このところの慣行に反するものであり、法王ベネディクト16世は、強い不快の念を表明し、これは宗教の自由に対する深刻な侵害であるとするとともに、かかる行為は破門の対象であると指摘しました。

教会法では、勝手に司教に任命した者と司教に任命された者はどちらも自動的に破門になることとされています。ただ、法王が破門宣告をしない限りは破門が発効しない慣例であり、ベネディクトは破門宣告をしたわけではありません。そもそも、教会法ではかかる任命が強制的に行われた場合(acted under grave fearは破門にはならないこととされており、実際に今回の関係者が破門されるかどうかはさだかではありません。

強硬な反共主義者だったヨハネ・パウロ2世が死去し、ベネディクト16世が昨年新法王に就任して以来、法王庁と中共は、中共成立以来断絶している両者間(注4)の外交関係樹立に向けて話し合いが行われてきている(注5)だけに、中共の今回の慣行違反は驚きをもって受け止められています。

(注4)法王庁は、キリスト教徒である蒋介石率いる国民党政府の熱心な支援者だった。また、共産党には強い反感を持っていた。対する毛沢東は無神論者としてカトリック教会は支那にはそぐわない上、封建時代の残滓であって、米帝国主義の同盟者にして国民党と癒着している、と考えていた。そして、カトリック教会の宣教師達は国外退去を求められたり、投獄されたり拷問を受けたりした。更に前出のカトリック愛国会がつくられ、以来、中共政府が中共内のカトリック教会の活動と人事の全てを取り仕切ってきた。文化大革命中には、この愛国会の活動すら停止され、ほとんどの教会は破壊されたり、学校や倉庫に転用されたりした。1976年から愛国会の下での教会の活動が再開されるが、1980年代に入ると、法王に忠実な非公然教会活動が始まり、現在に至っている。信徒数は、愛国会が400万人で、非公然教会は推定値が100万人から1,000万人とはっきりしないが、全体としてカトリックの信徒はどんどん増えていると言われている。

(注5)法王庁が司教の任命にあたってより大きな発言権を求め、かつ司教に教区(diocese)におけるカトリックの宗教活動一切を取り仕切る権能を付与することを求めていることがネックになっている。

これは、香港教区の陳日君(Joseph Zen Ze-kiun)司教を3月24日付けで法王が枢機卿に任命したためではないか、という憶測もなされています。陳新枢機卿は、上海生まれであり、非公然カトリック教会の支援者であることから、中共がこの枢機卿任命に不快感を表明した、ということではないかというのです。

ところが、中共で5月7日にもう一人司教(ただし、司教代理auxiliary bishop)が任命され、今回は、法王の同意を事前に非公式に得るという慣例に従い、既に法王の同意が得られていたケースであったので、中共が方針を変更したのか、それとも中共内で対立があるのか、またまた話題になりました。

(以上、http://www.nytimes.com/2006/05/04/world/europe/04cnd-pope.html?ei=5094&en=d2f3e8898adbb60a&hp=&ex=1146801600&partner=homepage&pagewanted=print(5日アクセスhttp://www.nytimes.com/2006/05/08/world/asia/08china.html?pagewanted=print(5月8日アクセス)、http://www.latimes.com/news/opinion/commentary/la-oe-faison09may09,0,7354272,print.story?coll=la-news-comment-opinions(5月10日アクセス)、http://www.latimes.com/news/opinion/editorials/la-ed-china11may11,0,4124552,print.story(5月12日アクセス)による。)

(続く)

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