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太田述正コラム#12362006.5.15

<叙任権論争の今と昔(続)>

1 おさらいに代えて

 カトリックの外国人神父らが支那から完全追放されたのは、中共が支那の権力を掌握してから2年経った1951年でしたが、同じ年に法王庁は、台湾(中華民国)を支那の正統政府と認め(注1)、中共と法王庁との関係は完全に断絶しました。

 (注1)法王庁(Holy See)とバチカン市国(Vatican)たる主権国家が表裏一体の存在だからこそ、こんなことが起きる。

 

その後、中共は傀儡の中国カトリック愛国会をつくり、この団体を通じて中共国内のカトリック関係者の人事とカトリックの宗教活動を取り仕切ってきました。

 その一方で、法王庁に忠誠を誓う非公然のカトリック活動も密かに始まります。

 1960年代の文化大革命の時には、この中国カトリック愛国会すら活動停止に追い込まれますが、やがて大革命が収束すると、再び公然・非公然のカトリック活動が再開され、非公然の活動を中心に中共のカトリック信徒数が増え、現在では一千数百万人のオーダーに達している、と言う見方もあります。

 やがて、中共と法王庁との間で関係修復に向けて接触が始まり、5年前からは、中共内の司教等の任命等に当たっては、どちらかが複数の候補者を提示し、もう一方がそのうち一人を指名する形で、事実上法王庁が司教等の任命等に関与してきました。

 ところが、今年の三月末と四月初めに中共が神父を一人ずつ一方的に任命した(unilaterally consecrated as bishop)(注2)ため、法王庁はこれに激しく反発しました。

 (注2)依然、中共内の約40の教区(司教区)で司祭が欠員になっている。

 

その後、法王庁が以前に同意を与えていた代理司教の任命を中共が行ったことで、中共が態度を軟化させたか、中共内部で政策のゆれがあるかどちらかだ、と取り沙汰されました。

5月11日に中共外交部が香港の陳枢機卿に対し、いわゆる一つの中国の原則を尊重すべく台湾との断交を行うように、そして宗教を用いて中共の内政に干渉しないように、法王庁を説得してくれと要請した(http://www.taipeitimes.com/News/world/archives/2006/05/12/2003307639。5月13日アクセス)ことも憶測を呼びました。(陳枢機卿はこの要請を拒否した)

2 三人目の司教の一方的任命

 そこへ、中共は5月14日に、一方的に三人目の司教の任命・・今回は、既に司教に任命されていた者の教区主管司教への昇格(elevated to become bishop of ○○ Diocese)・・を敢行しました。

これで中共は、法王庁/バチカン市国との関係の完全修復/国交樹立(=バチカン市国の台湾との断交)を目指すのを止め、しかも、法王庁との間で5年前に成立したところの、司教等の任命等に係る上記非公式同意すら破棄した、ということがはっきりしました。

 これは中共で、カトリック等の宗教の信者が地方を中心に急速に増えつつある一方で、地方を中心に騒擾事件が頻発するようになっていることから、この二つが結びつくことを恐れて、あらゆる宗教に対し中共が統制を強化しようとしていることが背景にある、と考えられます。

(以上、http://news.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/4770035.stmhttp://news.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/4769501.stm、及びhttp://news.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/4969276.stm(5月15日アクセス)による。)(注3

 (注3)英BBC電子版がこのように、三人目の一方的人事について詳細に報道し、英ガーディアン電子版も報じている(http://www.guardian.co.uk/international/story/0,,1774806,00.html。5月15日アクセス)というのに、米国の主要メディアの電子版が、中共と法王庁との叙任権争いについて、NYタイムス電子版が13日付で報じた(http://www.nytimes.com/2006/05/13/world/asia/13china.html?ei=5094&en=54c0aeb37bfaa911&hp=&ex=1147492800&partner=homepage&pagewanted=print。5月13日アクセス)のを最後に、完全に無視しているのはいただけない。もとより、この問題をほとんど報じていない日本の主要メディアの電子版は論外だ。)

 カトリックの場合、法王庁が独特のイデオロギーと政策体系を持っている上、法王庁がバチカン市国という外国でもあることからなおさら警戒が必要だ、ということでしょう。

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