太田述正コラム#12722006.6.2

<捕鯨再論>

1 始めに

 一年ほど前に(コラム#766??768で)捕鯨問題を取り上げたところです。

 この6月中に開催される国際捕鯨委員会(International Whaling CommissionIWC)の総会にひっかけて、英米系のニューヨークタイムス、アジアタイムス、クリスチャンサイエンスモニターの三紙が、相次いで捕鯨問題の論考や論説を載せたのですが、三者三様で興味深いので、ご紹介しましょう。

2 ニューヨークタイムス

 ニューヨークタイムスは、スェーデン語の雑誌の元編集者なる人物・・実在の人物かどうか疑問がわく・・の、次のような論考を掲載しました。

 この論考は、「鯨を保全しつつ、同時に食べよう」という挑発的な見出しの下で、「1985年から実施されてきた・・捕鯨の・・全面禁止は多大なる成果を挙げた。・・鯨には37種類あるが、<もはや>そのうち7種類しか絶滅の危機に瀕していない。しかも、本当に深刻な状況にあるのはそのうちの2種類だけだ。・・すべての鯨種の保全について心配しなければならない状況ではなくなった。」としています。

(以上、http://www.nytimes.com/2006/05/23/opinion/23armour.html?pagewanted=print(5月24日アクセス)による。)

これは、捕鯨禁止運動の総本山とも言うべき米国で、ついに日本の主張に全面的に賛同する論説が出現した、という意味で画期的なことだと言えるでしょう

ニューヨークタイムスが日本に対するバイアスを克服しつつあるのではないか、と以前(コラム#10171018で)記したところですが、この論説を見てますますその感を深くしています。

3 アジアタイムス

 アジアタイムスは、英紙インディペンデント等に寄稿しているという触れ込みの英国人らしき人物の論考を掲載しています。

 これは、捕鯨解禁派へと改心すべきかどうか、ハムレットのように思い悩んでいる、といった風情の論考です。

 この論考が評価できるのは、日本人が捕鯨全面禁止派を食物文化帝国主義者(culinary imperialistsとみなしていることや、日本の水産庁が、鯨、とりわけミンク鯨は増えすぎている、と考えていることを紹介するとともに、日本の捕鯨関係業者のことをどんなに客観的に書いても、英国での編集段階で、狂った野蛮な日本人というステレオタイプに沿った形で書き直されてしまうとか、英国の新聞に日本の捕鯨関係業者の記事が載ったところ、その業者の所にEメール攻勢がかけられ、サイトの閉鎖に追い込まれたことがある、等と正直に指摘している点です。

 しかし、次のような点はいただけません。

 今度の捕鯨委員会掃海で、調査捕鯨と称して捕鯨をやっている日本とアイスランド、それにそもそも捕鯨禁止に最初からコミットしていないノルウェーの三カ国が、参加国の過半数の票集めに成功しそうであり、そうなれば、三分の二以上の票が必要な捕鯨解禁はできなくても、秘密投票制の導入等、捕鯨解禁に向けてのイニシアティブをとれるようになる、と指摘し、それがあたかも日本が、経済援助攻勢によって発展途上の小国の票集めをしたためだけのように書いたり、鯨が増えているという水産庁の見解には疑問がある、と何の根拠も示さずに書いたりしているからです。

(以上、http://www.atimes.com/atimes/Japan/HF01Dh03.html(6月1日アクセス)による。)

4 クリスチャンサイエンスモニター

 捕鯨全面禁止に依然固執する論説を載せたのがクリスチャンサイエンスモニターです。

 「十分まだ頭数が回復していないというのに、IWCが鯨類の虐殺(slaughter)を認める可能性があることは、まだ反捕鯨諸国で大騒ぎにはなっていない。しかし、海洋の健康維持に係る鯨の重要性に鑑みれば、大騒ぎをしてしかるべきだ。もし国連総会や米国がすみやかに行動をとらないのであれば、日本商品の不買運動を消費者が行う必要がある。・・<日本の>財界の首脳達も時々反対しているところの日本におけるナショナリズムの復活が、<日本の>捕鯨解禁への取り組みの背後にあるのだろう。・・文化的理屈をこね、<IWCの>弱小加盟国を札束攻勢でなびかせてきた日本による長年におよぶ捕鯨解禁への努力に鑑みれば、鯨の頭数の状況に関する事実と論理による議論がIWCの動向を決定することにはなりそうもない。・・どちらかが<この勝負から>降りなければならない。より降りやすい日本の方が降りるべきだ。」

(以上、http://www.csmonitor.com/2006/0602/p08s02-comv.html(6月2日アクセス)による。)

これは、日本が捕鯨に係る国際ルールを一貫して遵守してきたにもかかわらず、日本が米国内の多数意見に従わないとして、それこそ「事実と論理」もものかわ、日本に対する制裁の発動を国連や米国政府に求め、国連や米国政府がすみやかに動かないのなら、米国人は日本商品の不買運動を行うべきである、と訴える悪質なデマゴギーであり扇動です。

クリスチャンサイエンスモニターは、もはや高級紙である資格を失った、と言うべきでしょう。

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