太田述正コラム#12732006.6.3

<捕鯨再論(続)>

1 始めに

 ガーディアンとワシントンポストにも捕鯨問題の記事が出たので、追加しておきます。

2 ガーディアン

 ガーディアンの記事(台北タイムス(http://www.taipeitimes.com/News/editorials/archives/2006/06/02/2003311320。6月3日アクセス)に転載されたもの)は、客観的記述に終始しています。

この記事は、英国、ニュージーランド、オーストラリア、そして米国が率いる反捕鯨陣営は、今年の国際捕鯨委員会の帰趨について悲観的である、と記しており、反捕鯨運動がアングロサクソン諸国の産物であることを改めて思い出させてくれます。

 興味深いのは、この記事の次のくだりです。

 「昨年のIWC総会における惜敗の後、日本は<西インド諸島中の>セントキッツで開催される今年のIWC総会での敗北を回避するため、大変な努力を行った。先月、日本は東京で、ノルウェー等の捕鯨解禁派の諸国を集めて秘密の会合を主催した。これは、これまでIWC総会に経費の点から出席を見合わせてきた弱小諸国の多くを、今次カリブ海における総会に出席させるための戦術を準備するためだった。日本はまた、ベリーズ・マリ・トーゴ・ガンビア、等の、最近IWCに加盟したけれどこれまで投票したことがない諸国に経済援助を増額してきたことが知られている。今年早々、日本は捕鯨解禁派である、太平洋の島国のツバルに100万米ドル以上の経済援助を行う約束をしたが、その後、同様の約束をナウル・キリバス、等の太平洋の極貧諸国にも行った。更に先週、日本はその他の太平洋諸国に対し、巨額の経済援助案を提示した。また、日本は昨年、7つのアフリカ諸国と8つのカリブ海・中央アメリカ諸国の国家元首を東京に招待している。このすべてが日本に右に倣えした形でセントキッツで投票することが期待されている国々だ。更に、昨年日本から、少なくとも総額3億米ドルの経済援助がアンティグア・ドミニカ・グレナダ・パナマ・セントルシア・セントヴィンセント/グレナディン・セントキッツ/ネヴィスに供与された。これらの経済援助の多くは、これら諸国の漁業の振興のためと謳われているが、日本が一貫して鯨が<増えすぎたことが>漁獲量減少の原因であると訴えてきたことが思い起こされる。」

 この伝で行くと、日本の小泉政権が、インド洋とイラクに自衛隊を派遣した上に、在日米軍の再編に3兆円もの大盤振る舞いを「約束」したのも、反捕鯨陣営の盟主たる米国のブッシュ政権を捕鯨解禁問題で日本に強く当たれないようにするための深謀遠慮であった、ということになるのかもしれませんが、さすがにこの記事は、このことは書いていません。

 いずれにせよ将来、仮に日本が米国から「独立」することがあるとすれば、後世の英米の歴史家は、その始まりは、日本の捕鯨委員会での多数派工作とその成功であった、と評することになりそうですね。

3 ワシントンポスト

 ワシントンポストの記事(http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/06/01/AR2006060101684_pf.html。6月3日アクセス)は、一見客観的記述に終始しているようではあっても、その実捕鯨解禁派に好意的な内容になっています。

 それは一つには、米国の大学教授を登場させて、捕鯨の全面的禁止は、科学的必要性ではなく、政治的信条に基づいて断行されたのであって、「この全面禁止は、恒久的なものとして提案されたわけではなかった。・・科学に基づいて到達された結論ではなかった。このような結論に到達したのは、鯨は特別な動物であって、何が起ころうと殺されるべきではない、というプロパガンダを信じ込んでいる人々が沢山いたからだ。」と言わせているからです。

 そしてもう一つには、ノルウェーの漁業・沿岸省の幹部に、バイキングは紀元900年代から捕鯨を行ってきたということが史料で裏付けられており、「アングロサクソン世界の文化的な好みによって支配されるわけにはいかない」と言わせているからです。

 アングロサクソンの気まぐれでグローバルスタンダードになったものが、アングロサクソンが正気に戻って撤廃ないし改変される、というままある話ではなく、アングロサクソンが打ち立てたグローバルスタンダードを、日本を中心とする非アングロサクソン諸国が結束してその座から引きずり下ろす、という珍しい出来事が、今まさに起ころうとしているわけです。

 アングロサクソン、就中米国が打ち立てたグローバルスタンダードの中には、鯨の話以外にも不条理なものはいくらでもあります。

 日本は、これらの鯨以外の不条理なグローバルスタンダードの撤廃・改変に向けてもイニシアティブを発揮することが世界中から期待されているという自覚を持ち、この期待に応えるためにも一刻も早く米国から「独立」すべきなのです。

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