太田述正コラム#12832006.6.8

<北城経済同友会の暴走>

1 始めに

 私は、靖国神社にわざわざでかけて参拝することはしていませんし、次の首相も靖国神社を参拝すべきだ、とも思っていません。このことはご存じのことと思います。

 しかし、首相の靖国神社参拝について、5月9日に経済同友会が、日中関係改善のために「再考が求められる」として参拝の自粛を求める提言を採択した(http://www.sankei.co.jp/news/060509/kei079.htm。6月8日アクセス。以下同じ)時には、いささか不愉快に思いました。

このたび、5月9日の経済同友会幹事会の模様を詳しく報道する記事(http://www.sankei.co.jp/news/060608/sei023.htm)が出て、この提言の採択が北城恪太郎代表幹事の強いイニシアティブの下で行われた(注)ことを知り、一言もの申そうという気になりました。

(注)この日の幹事会で議論になった後、代表幹事の北城恪太郎(きたしろかくたろう。敬称略)に判断を仰いだところ、彼は「できればこのままで出したい。」とし、異例の採決によってこの提案を採択した。反対派が「首相の退陣間際に提言を出すべきではない。退陣後にしたらどうか」と食い下がると、北城は総裁選を意識するかのように、「提言には『小泉』と書いているのでなく、後継首相の問題も含めて書いてある。そこをご理解いただきたい」と切り返した。

2 北城恪太郎批判

 経済同友会は、「企業経営者が個人として参加し、自由社会における経済社会の主体は経営者であるという自覚と連帯の下に、一企業や特定業種の利害を超えた幅広い先見的な視野から、変転きわまりない<日本の>国内外の経済社会の諸問題について考え、議論し・・<その>討議・調査・研究などの成果<を>・・世に問<う>」(http://www.doyukai.or.jp/about/)団体です。

 靖国神社問題は、ここに言う「<日本の>国内外の経済社会の諸問題」の一つではあるわけですから、経済同友会が首相の靖国神社参拝自粛を提言すること自体は、必ずしも不適切であるとは言えないでしょう。

 しかし、問題はこの提言の採択に強いイニシアティブをとった北城が日本IBM会長であることです。

 経済同友会の会員資格が上記ホームページに書いてないのですが、日本で設立された企業の取締役以上、という感じです。個人の資格で会員になるタテマエのようですが、会員が、所属する企業の代表とみなされることは避けられません。

 ここで大事なことは、経済同友会は、英語名称がJapan Association of Corporate Executivesである(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B5%8C%E6%B8%88%E5%90%8C%E5%8F%8B%E4%BC%9A)ことが示しているように、会員資格を世界の経営者に開放しているわけではないことです。

 しかも、経済同友会が議論するのは「<日本の>国内外の経済社会の諸問題について」(前述)であって「世界の経済社会の諸問題について」ではありません。

 他方、日本IBMは米IBM100%子会社です(http://www-06.ibm.com/jp/ibm/gaikyo.html)。

 そうである以上、そもそも米国の企業の、しかも一介の従業員・・北城は米IBMの取締役ではない(http://www.kantei.go.jp/jp/m-magazine/backnumber/2004/kitasiro.html)・・が、平会員になるだけならいざしらず、経済同友会の代表幹事に就任したこと自体がおかしい、という感は拭えません。ぎりぎり違和感を覚えないのは、日本と米国の企業の合弁会社たる富士ゼロックスの会長であった小林陽太郎が代表幹事に就任した(ウィキペディア上掲)ケースくらいまでではないでしょうか。

 もっとも、ここまでの話は、経済同友会の内部問題であると言えるでしょう。

 しかし、経済同友会が、このような代表幹事のイニシアティブの下で、日本国内で賛否が真っ二つに割れていて、国際問題にもなっている靖国神社参拝問題に関し提言を行い、自民党総裁選(事実上の首相選挙)の帰趨にも影響を及ぼそうとした疑いがあるとなれば、これはおかしい、と言わざるをえません。

 トヨタのような日本企業が100%所有する米国の子会社の米国人会長が、米国の有力経営者団体の代表になり、彼がイニシアティブを発揮して、同団体にイラクからの米軍の撤退を促す提言を行わせ、米大統領選挙の帰趨にも影響を及ぼそうとしたとすれば、米国民がどう思うか、ということです。

 まだピンとこない方がいるかもしれませんね。

 それではもう一つ。

 サムスンのような韓国の企業が100%所有する日本の子会社の日本人会長が、経済同友会代表幹事になって、北城がやったのと同じことをやったとすれば、私の指摘を待つまでもなくあなたも含め日本国民は激怒する、と思うのですがいかがでしょうか。

北城が2003年4月に代表幹事に就任する直前の3月まで、日本IBM会長であると同時にIBM Asia Pacific Presidentであった(官邸サイト上掲)こと、つまりは彼の商売上の管轄下に中共と韓国も入っていた可能性があること、を思い起こせば、北城の行ったことの非常識さがより際だちます。

李下に冠を正さず、という諺を北城はご存じないのでしょうか。

米国の利益のため、あるいは米IBMの利益のために行ったのではないかという疑いを持たれるようなことを、北城は決して行うべきではなかったのです。

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