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太田述正コラム#12932006.6.13

<アングロサクソンによる20世紀以降の原住民虐待(その1)>

1 1920??21年の英国によるアイルランド人虐待

 今年のカンヌ映画祭では、パルム・ドール(大賞)が英国人のケン・ローチ(Ken Loach)監督の「大麦をゆらした風(The Wind That Shakes the Barley)」に与えられました。この映画は、アイルランド人が英国に対し独立闘争を行っていた1920??21年の当時、いかに英国当局がアイルランドの住民を手荒に扱ったかを描いています。

 この映画が大賞を受賞するや否や、まだ英国で封切りもされていないのに、英タイムス・テレグラフ・サン・デーリーメールの各紙は、ローチ監督を反英的であるとして批判する映画評を載せました。

 しかし当時、英国当局の現地治安維持部隊(Royal Irish Constabularythe Auxiliary division)の要員がアイルランド人の自宅にやってきては、非武装の住民を射殺したり銃剣で突き殺したりしたのは事実です。また彼らが、アイルランド人の群衆に向かって一斉射撃を行ったり、手榴弾を投げ込んだりしたのも事実ですし、街中でアイルランド人をたたきのめしたり、彼らの住宅やオフィスに放火したりしたことも事実なのです。更に彼らによって、アイルランド人の囚人達が拷問されたり殺されたりしたこともまた事実なのです。

 しかも、これらの虐待は、英国の中央政府の役人や政治家によって黙認されていただけでなく、中央政府の指示を受けて行われたものさえあるのです。

 例えば、独立派による襲撃事件が起きた場所の近くに住む住民が、事前にそのことを当局に注進しなかった場合は、その住民の家を取り壊してもかまわないことが法的にも認められていました。

 当時、英陸軍省の作戦課長は、陸軍相であったチャーチル(Winston Churchill)に、「<アイルランド住民に対する>無差別報復は、大変な反発をアイルランドで生む」と抗議し警告したのですが、チャーチルは聞く耳を持ちませんでした。

(以上、http://www.guardian.co.uk/Columnists/Column/0,,1791176,00.html(6月6日アクセス)による。)

英国による原住民虐待としては、その後、1953年から60年にかけて行われた、ケニアの原住民(キクユ族)に対するものがあり、以前(コラム#363364で)触れたことがあります。

2 現在進行形の米国によるイラク人虐待

同じアングロサクソンの米国が、19世紀末から20世紀初頭にかけてフィリピンを植民地化する過程で甚だしい原住民虐待を行った(コラム#366)ことは良く知られています。

その米国は、対イラク戦後のイラクで原住民虐待を行っているという批判を何度となく投げかけられてきました。

つい最近も、イラクのバグダッド西部のアンバール(Al Anbar)県にある人口9万のユーフラテス河沿いの町ハディサ(Haditha)で昨年1119日の朝、道路脇にしかけてあった爆弾が爆発し、仲間の一人が死亡すると、米海兵隊員達は、付近の民家に次々に侵入し、小銃を住民に撃ちかけ、女子供や赤ん坊、そして身体障害者の老人を含む住民24名を死に至らしめた、いわゆるハディサ事件が明るみに出て、米国民にショックを与えましたハディサ事件が、本当に海兵隊員達による意図的な殺人であったかどうかは、今後の調査の結果を待たなければなりませんが、対イラク戦直後の2003年に起こったイラクのアブグレイブ収容所での米軍による収容者虐待事件やベトナム戦争の時の1968年に起こった米軍によるソンミ村ミライ地区での住民虐殺事件等を彷彿とさせますね。

米軍によるイラク住民虐待事件のうち、明るみに出るのは氷山の一角だと考えるべきでしょう。

なぜなら、イラクの住民、特にスンニ三角地帯内のイラク住民は、戦闘・テロ・犯罪等で死亡者が毎日のように出ていることもあり、死亡者が出るような虐待事件であっても、ほとんど不感症になってしまっているからです。

ですから、アブグレイブ虐待事件が、イラク人によってではなく、米軍内の内部通報者によって明るみに出たように、ハディサ事件も、イラク人によってではなく、英タイムスの調査報道によって初めて明るみに出たのです(注1)。

(以上、特に断っていない限りhttp://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-haditha1jun01,0,5572152,print.story?coll=la-home-headlines(6月2日アクセス)による。)

(注1)明るみに出た現在でも、ハディサ事件をイラクのメディアはほとんど取り上げていない。これは、現在のイラクのメディアには、スンニ派に同情的でないシーア派系のものが多いことと、スンニ派のみならずシーア派の間でも米国の評判は地に堕ちており、今更一つや二つ米軍によるイラク人虐待事件が明るみに出たとて、ニュース性が大してないからだと考えられている。

(続く)

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