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太田述正コラム#1350(2006.7.20)
<ガザ・レバノン情勢の急変をどう見るか(その4)>

 (コラム#1349(有料版)が届かなかったというクレームが2名の有料読者からありました。他にも届いていない方がいる可能性があります。お知らせ下さい。なお、有料読者は現在126名です。申し込みは、ohta@ohtan.netへ。)

5 析出した中東の相対立する二陣営

 このところ次第に、中東が二つの陣営に分かれていることが明らかになりつつありました。
 イラン・シリア(注3)・イラクのシーア派(注4)・ヒズボラ(注5)・ハマス等に対するに、エジプト・ヨルダン・サウディ・湾岸諸国(注6)・イラクのスンニ派等(注7)です。

 (注3)シリアはアラブ人の国であり、シリアを統治するアサド家はイスラム過激派が大嫌いなので、シリアはイランとはかなり異質だが、地政学的に両国は生来的同盟関係にある。サダム・フセイン健在時には、両国ともイラクの脅威に直面していたし、イランは宗教的理由により、またシリアは1967年の戦争でイスラエルにゴラン高原を奪われたことから、反イスラエルである、という点でも共通している。更に、米国による体制変革の脅威に直面している点でも相身互いだ。
http://www.slate.com/id/2146139/。7月20日アクセス)
 (注4)イラクのシーア派勢力を代表するマリキ(Nuri Kamal al-Maliki)首相は、真っ先にイスラエルを非難したシーア派の民兵組織を率いるサドル(Moktada al-Sadr)に引き続き、19日、イスラエルのレバノン「侵略」を阻止するためにアラブ連盟首脳会議(後述)が行動方針を策定するよう訴えた
http://www.nytimes.com/2006/07/15/world/middleeast/15mideast.html?ei=5094&en=27c456ef5eb882e8&hp=&ex=1152936000&partner=homepage&pagewanted=print
(7月15日アクセス)、及び
http://www.nytimes.com/2006/07/19/world/middleeast/19cnd-shiites.html?ei=5094&en=891d1e5d8571a98c&hp=&ex=1153368000&partner=homepage&pagewanted=print
(7月20日アクセス))。
(注5)ヒズボラは、1982年のイスラエルによる、PLO勢力壊滅を意図したレバノン侵攻を受け、イランのカネ、武器、そして派遣されたイラン革命防衛隊(Iranian Revolutionary Guards)によってレバノンで創設された
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/07/12/AR2006071201557_pf.html
。7月14日アクセス)。
 (注6)ヨルダンのアブドラ国王とエジプトのムバラク大統領は、ヒズボラを非難し、その冒険主義はアラブの利益に合致しないとの共同声明を発し、次いでサウディ政府も、その冒険主義がアラブ諸国を危険にさらしたとしてヒズボラを非難した
http://www.csmonitor.com/2006/0718/p01s03-wome.html。7月18日アクセス)。
また、カイロで急遽開催されたアラブ連盟首脳会議は、15日、ヒズボラを、「予期せぬ、不適切な無責任な行動」をとったとして非難した。(イエーメン・アルジェリア・レバノンだけが反対した。)
http://www.nytimes.com/2006/07/17/world/middleeast/17arab.html?_r=1&oref=slogin&pagewanted=print
。7月18日アクセス)
 (注7)イラクでは最近、スンニ派が、シーア派からの報復テロに怯え、米軍のイラク残留を懇願し始めるという、ちょっと前には考えられない状況が出来している
http://www.nytimes.com/2006/07/17/world/middleeast/17sunnis.html?pagewanted=print
。7月18日アクセス)。

 前者はシーア派を中心とする勢力(注7)であるのに対し、後者はスンニ派を中心とする勢力ですが、イランはもとより、アラブ諸国の民衆は、圧倒的に前者にシンパシーを寄せているという悩ましい現実があります(CSモニター前掲)(注8)。

(注7)シリアは少数派のアラウィ派が政権を掌握しており、シーア派は、アラウィ派をシーア派の中にカウントしている(スレート前掲)。ハマスはスンニ派過激派だが、社会福祉活動を併せ行っているゲリラ組織であること、イスラエルの存在を否定していること、選挙を通じ政権に参画していること、といった共通点を持っている(典拠省略)。
(注8)ヨルダンのアブドラ国王は、既に2年近く前に、イランからイラク、レバノンにかけての、そして将来的には石油産出地帯における少数派たるシーア派を吸収し活性化するであろうところの、三日月地域の出現を警告していた
http://www.guardian.co.uk/syria/story/0,,1825720,00.html
。7月21日アクセス)。

 私に言わせれば、前者は、私の命名によるところの、(欧州に淵源を有する)民主主義独裁陣営であるのに対し、後者は伝統的独裁陣営なのです。民衆が前者にシンパシーを寄せるのは、欧州でのかつての史実が示すように、自然なことだと言ってよいでしょう。
 いずれにせよ、中東がこの二陣営に分かれていることが、イスラエルによる今次ハマス・ヒズボラ壊滅作戦の発動によって誰の目にも明らかになったわけです。

6 米・イスラエルの究極のねらいはイラン攻撃

 最初にちょっと申し上げたように、米国とイスラエルの究極のねらいはこのイランを盟主とする陣営の殲滅であり、その手段としてのイランの核施設等の武力攻撃であって、イスラエルによって現在敢行されているハマス・ヒズボラ壊滅作戦は、その下準備である、というのが私の見方です。
 ロサンゼルスタイムスの7月19日付の社説
http://www.latimes.com/news/opinion/la-ed-mideast19jul19,0,1375431,print.story?coll=la-opinion-leftrail
。7月19日アクセス)は、私と全く同じ見方を提示しており、吾が意を得たり、という思いです。
 ロサンゼルスタイムスは同日付で、イスラエルはこの際シリアも攻撃せよ、とけしかけるかのようなコラム
http://www.latimes.com/news/opinion/la-oe-boot19jul19,0,7826617,print.column?coll=la-opinion-columnists
。7月20日アクセス)も載せていますが、これも米国政府のホンネを代弁しているのではないでしょうか(注9)。

 (注9)ただし、シリアは軍事的にイスラエルの敵ではないとはいえ、イスラエル全土を射程に収めるミサイル群を持っており、また、首都ダマスカスに至る60マイルは世界で最も厳重に要塞化されている地域の一つであることから、イスラエルのシリア侵攻は容易ではない
http://www.csmonitor.com/2006/0718/p01s01-wome.html。7月18日アクセス)。

(続く)

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