太田述正コラム#1355(2006.7.25)

<米中に相手にされない韓国>

1 始めに

 韓国のノ・ムヒョン大統領は、北朝鮮のテポドン等発射問題で、日本の小泉首相とは電話会談を全く行わず、米国のブッシュ大統領とは10分間の電話会談にとどめ、中共の胡錦涛国家主席とは頼み込んで30分間の電話会談を行いました
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/07/24/20060724000004.html
。7月24日アクセス)。
 米国をロシア(、そして中共を清)に置き換えれば、これは、100年前の19世紀から20世紀にかけての李氏朝鮮の周辺大国に対する姿勢を思い起こさせます。
 李氏朝鮮にとっての優先順位は日・露・清の順でなければならなかったのに、優先順位を清・露・日の順と誤ったことが李氏朝鮮の破滅をもたらしたとすれば、韓国にとっての優先順位は日・米・中の順でなければならないのに、優先順位を中・米・日の順と誤っていることは、韓国の破滅をもたらしかねません(注1)。

 (注1)100年前はパワーの序列は、露・日・清の順だったが、露は外部勢力であって朝鮮半島に死活的利益を有さず、現在のパワーの序列は米・日・中だが、米は外部勢力であって朝鮮半島に死活的利益を有さない。
 
破滅の予兆は既に随所に顕れています。
ここでは、二つのことにしぼってご説明しましょう。

2 在韓米軍は格下げされる

米国は、2年前に立てた世界米軍再配置計画(GPR)に基づき、海外に駐屯する米軍基地を戦力投射根拠地(PPH)、主要作戦基地(MOB)、前方作戦拠点(FOS)、安保協力対象地域(CSL)などの4段階に区分したところ、その時点では、在韓米軍の地位を1.5段階または2段階とする予定であったけれど、現在、フィリピンやタイと同じFOSまたはCSLなどの3、4段階の水準に引き下げる方向で検討がなされています。
また、これに関連し、現在大将があてらている在韓米軍司令官を格下げし、在韓米軍を米ワシントン州から日本に本部を移す米第1軍団の下に置く案が検討されています。
この結果、在韓米軍は段階的に日本へ撤収し、韓国にはごく少数の陸軍部隊と空軍部隊だけが残ることになる、と予想されているのです。
これは、ノ・ムヒョン政権が、台湾をめぐる米中衝突時に在韓米軍が投入されては困るとの考えから、在韓米軍の戦略的柔軟性を容認できないという態度を見せたことや、国内政治的理由から推進してきた有事指揮権(正確には作戦統制権を)「奪還」する試み、がもたらした部分が大きいと考えられています。
(以上、
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/07/25/20060725000051.html
、及びhttp://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/07/25/20060725000065.html
(どちらも7月26日アクセス)による。)

 いずれに以上からうかがえることは、仮に北朝鮮が自暴自棄になって対南侵攻を行った場合、韓国のかなり大きな部分を北朝鮮軍が席巻し、韓国民に大きな被害が生じることには目をつぶり、その後、必要に応じておもむろに米軍が地上部隊を増援して反撃作戦を展開する、という考え方を米国が採用するに至った可能性が高い、ということです(注1)。

 (注1)とはいえ、朝鮮日報が、「フィリピンは1992年の米軍撤収後、外国資本の脱出により経済まで坂道を転げ落ちた。」とし、韓国もそうなりかねないと警鐘を鳴らしているのは、韓国についての予想としては正しいと思うが、フィリピン経済の現在の停滞の原因の説明としては間違っていると思う。

3 中共も北朝鮮に対する金融制裁を行っていた

 米国政府筋は、今週初め、中共が米国の要請に応じ、通貨偽造や(ミサイルや覚醒剤貿易によって得られた資金の)マネーロンダリングに使用されている疑いがあるとして、中共第二位の大銀行である中国銀行(4大国有商業銀行の一つ。中共の中央銀行である中国人民銀行とは別)のマカオ支店の北朝鮮の口座(複数)の資金を今年の早い時期から凍結していることを明らかにしました(注2)。米国が、北朝鮮が米ドルだけでなく、中共の人民元の偽造も行っていることを指摘したことが大きいというのです。

 (注2)昨年9月に、同じマカオで、米国の要請に従い、デルタ・アジア銀行(BDA)は、北朝鮮関係の40口座の2,400万米ドルの北朝鮮の資金を凍結している。
 
この支店は、2000年に金大中韓国大統領(当時)が、北朝鮮を訪問して金正日と史上初の南北首脳会談を行う際の「賄賂」として韓国国家情報院が2億米ドルを北朝鮮に送金した際に使われた(北朝鮮テソン銀行名義の)口座のあった支店でもあります。
 北朝鮮がテポドン等発射を決行したこと、それを事前に中国に通知しなかったこと、更にはミサイル発射後に平壌を訪問した回良玉中共副首相一行を冷遇したのはそのためだ、という説が有力になってきました。
(以上、http://english.chosun.com/w21data/html/news/200607/200607240021.html
(7月25日アクセス)、
http://www.ft.com/cms/s/f892ff32-1c0d-11db-a555-0000779e2340.html
(7月26日アクセス)、及び
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/07/26/20060726000000.html
(7月26日アクセス)による。)
さて、冒頭で言及したノ・ムヒョンと胡錦涛の長電話・・通訳が入っているだろうから実質15分だが、それでも長い!・・で、ノ・ムヒョンは、BDAの管轄国たる中共として、北朝鮮に対する金融制裁緩和を米国に働きかけるように申し入れたことが、韓国大統領府の宋旻淳(ソン・ミンスン)安全保障政策室室長によって24日、明らかにされました。
この長電話が行われたのは先週(21日)のことですから、中共自身が既に対北朝鮮金融制裁を実施していることを知らず、ノ・ムヒョンは上記のようなピンボケの申し入れを行ったことになります。
(以上、
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/07/25/20060725000007.html
(7月25日アクセス)による。)

こんな調子では、韓国政府が中共から相手にされないのは当たり前でしょう。

4 韓国内のムード

 こんなノ・ムヒョン政権の下ではやっておられないと、韓国の外交・安保関係者の志気は著しく落ち込んでいます(
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/07/25/20060725000015.html
。7月26日アクセス)。
 お察しします。
 ノ・ムヒョン政権で最初の外交通商相を一年間務めた尹永寛(ユン・ヨングァン)ソウル大教授は、「韓国は国際社会の中で、人間の体に例えれば30、40代の大人に成長したが、われわれが外部の世界や自国を見る意識はいまだ10代に止まったままである・・。経済力が世界で10位の国ならば、それにふさわしい進取の発想が求められる。しかし現実はそれと正反対で、今の韓国社会は朝鮮時代末期のような抵抗民族主義や、1980年代の従属理論のような受動的で消極的な世界観に強く影響されている。」とノ・ムヒョン政権を暗に、しかし鋭く批判しています
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/07/25/20060725000056.html(注3)
。7月26日アクセス)。

 (注3)この記事全体を一読されることをお勧めする。

 私も全く同感です。

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