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太田述正コラム#1385(2006.8.23)
<日本の対米開戦前の英国の対米工作(その3)>
(なお、日米開戦の知らせを聞いた時には欣喜雀躍したとチャーチルは自ら回顧録に記しているところです
(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%83%88
前掲)が、BSCの報告書中には、英国が日本の真珠湾攻撃情報を米国に操作して渡したり、わざと渡さなかったりしたことを示唆するような記述は全く出てきません。)
5 日本の対米開戦以降
日本の対米開戦以降のBSCの活動についても少し触れておきましょう。
BSCは米軍機によって日本に投下された最初のプロパガンダ用ビラを作成したり、日本による連合国捕虜の取り扱いの過酷さに注目して、このことを文章にしてプロパガンダ用の材料として米軍に提供したり、米国のプロパガンダ要員をカナダで教育したり等、米国の対日心理作戦を積極的に支援しました。
日本の海外スパイ網の逆スパイや摘発にも、日本語能力や日本文化により通じていた工作員を米国より多く擁していたことから、BSCは大活躍しました。
6 終わりに代えて
(1)永遠の疑問
果たして、日本の真珠湾攻撃がなくても、BSCは先の大戦に米国を参戦させることが最終的にはできたでしょうか。これが第一のイフです。
また、日本の真珠湾攻撃(及びこれと平行して行われた対米宣戦布告)に応じて米国は対日宣戦布告を行ったところ、それに対し、ドイツとイタリアは三国同盟に基づき、米国に宣戦布告しましたが、仮にドイツとイタリアが米国に宣戦布告しなかったら、一体歴史はどのように進展していたでしょうか。これが第二のイフです。
第一のイフについては、誰が当時の日本の指導者であれ、ハルノートがつきつけられた段階では対米開戦以外のオプションは残されていなかったことから、考えても仕方がないと私は思います。
第二のイフについては、条約無視など何とも思わなかった点でスターリンといい勝負であったヒットラーが、利害計算を擲って忠実に条約上の義務を果たしたことの方が驚きであることから、一考してみる価値はありそうです。
(2)諜報の枢要性
それにしても、改めて痛感させられるのは、安全保障における諜報の枢要性です。
私は、現在の世界の安全保障における最大の問題は、本来の意味での国連軍の不存在、及び、世界第二の経済大国の日本における本来の意味での軍隊の不存在、であると考えています。
例えば、(常備)国連軍があれば、レバント紛争における北方戦域での停戦に伴う国連平和執行/維持部隊の編成など容易であったはずですし、日本に軍隊があれば、イスラエルとレバノンの両国と良好な関係を維持している日本の軍隊が中心になって、これまた容易に国連部隊の編成ができたはずです。
しかし、この問題と並ぶ、あるいはそれ以上の問題があります。国連事務局と日本における諜報機関の不存在です。
国連はさておいて日本に話をしぼれば、日本が米国から独立しようと思ったら、本来の意味の軍隊を持つだけでは不十分なのであって、自前の諜報機関を持つことが必要不可欠であるだけでなく、世界第二の経済力を持つ自由民主主義国家たる日本が、自前の諜報機関を持つことは、世界の安全保障のためにも重要なのです。
米国は、米国という国のかたちを選択して故郷を棄てて移住してきた人々及びその子孫によって基本的に成り立っている、すこぶるつきの異常な国であって、だから、故郷を捨てようとしない人々によって基本的に成り立っているところの他国(民族)のことが理解できず、理解できない以上、他国(民族)の統治もできない、と私はこれまで何度も申し上げてきたところです。
これをつきつめれば、米国は他国(民族)が理解できず、他国(民族)を信服させることもできない、という意味で諜報能力の欠如した国だ、ということです。
そのような国は、逆に他国による諜報活動に対して弱い、ということでもあります。
まさに、BSCはそこをついて、米国の世論操作を試み、それに成功したのでした。
そんな米国が世界唯一の覇権国であって、しかもそんな米国に日本が対外的主権行使を委ねているなんて、考えただけでも空恐ろしいことではありませんか。
にもかかわらず、先の大戦での敗戦から60年、そして21世紀になってから既に何年も経つ現在、次の首相を事実上決める自民党総裁選挙の最有力候補の安倍官房長官が、政権構想の中で、諜報機関の設置に全く言及していないことは、ご本人がタカ派を自認されているだけに、絶望的な気持ちにさせられます。
(完)
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